知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

競合間では提訴頻度と売上規模は緩い相関がある

『今年はアメリカで○件訴えられまして、費用はこのくらいかかりました』などと報告しようものなら、

それは前年までと比べてどうだったのか。
次年度以降はどうなるのか。
費用は適正だったのか。
他社はどうなんだ。

という類の問いが速攻で飛んでくることは請け合いである。実務をしていれば、ぼんやりした傾向は頭の中にあるものの、聞かれたときにデータで示せた方がよいことは言うまでもない。

ということで、最近実務の間隙を縫って各種のデータ整備に精を出しているのだけれど(そしていいところまで行くとたいてい実務の波がやってきて押し流されてそれまでやっていたことを忘れてしまったりするのだが)、米国でのとある事業分野での競合数社(と自社)のここ3年ほどの被提訴件数の変動を追いかけ、個別の訴訟の提訴地もチェックしてみた。

AIAでanti-joinder条項が導入される前は多くの訴訟で被告に名を連ねていた競合会社でもあり、件数としてはそれほど大きな差はない。というか、AppleやSonyのように年間数十件レベルで訴えられているわけでは(さすがに)ないので、1〜2件の差でも大差ということなのかもしれない。

はっきりしているのは、4月〜3月基準でカウントしてみると、今年度はまだ4分の3しか終わっていないのに、前年以前の年間件数にほぼ等しいくらいの件数が(どの会社も)あること。そして、新興の成長著しい会社がグイグイ?被提訴件数を伸ばしていること。これは、毎日『米国訴訟日報』をなんとなく眺めているだけでも理解できてしまうところではあるが、数字ではっきり示されるとちょっと痛かったりする。

そして、この今年のQ3までの件数を縦軸に、各社のRevenueを横軸にして散布図を作ってみた。Revenueは対数軸にする。全ての会社が上場しているわけではないので正確にはわからないところがあるし、セグメントごとのRevenueは出ていないところも多いので、その事業分野の米国でのRevenueに限定して作ることが難しく、とりあえずはグローバルの(その会社の全体の)売上でプロットしてみる。

すると、デコボコあるものの、緩く相関している程度には見えるな〜、と。売上の規模は概ね市場でのプレゼンスに連動するので、原告がターゲットを物色する際の物差しになっていると思われるのだが、規模が10倍になったら提訴件数が跳ね上がるかというと、そこまでの大きな差はない。ターゲットに入れるか入れないかの参考にするための指標としては使われるけど、売上から換算して大きな賠償額(和解金)が取れそうだから蜜に群がるという感じでもなさそうなのだ。

そして、NPE/PAEが訴えてくる対象特許はほとんどの場合米国オンリーで対応外国がないため、訴訟外の和解であっても米国外の売上は和解金の額に影響しない。となれば、米国での売上規模やシェアに被提訴件数が連動しそうなものなんだけど、わかっている会社の情報から推測する限り、そこはそうでもなくて、各社の全体売上の方に連動する傾向の方が強い。

きっと私がやったのと同じで、セグメントごとの情報は入手しにくい・入手が面倒か、あるいは、米国は市場として大きいのでグローバルの売上の大半を占めており傾向は連動すると当然に考えられているか、どれかだろう(きっと最後だな)。

ということで、使った費用が適正かどうかは次の課題にするとしても、傾向としてはここ数年で微増傾向、他社も似たり寄ったりの状況で、被提訴頻度については大体売上規模に連動してます、くらいは言えそうである。だからどうする、というのはまた別の問題だけど。