知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

訴訟併合後に他の被告がかけたIPRの影響は(motion to stay)

Corporate Counselに、「Using Another's Inter Partes Patent Review Can Cost You」という記事が掲載されていた。

AIA改正後、patent assertion entities (“PAEs”)に訴えられた被告側の強力な対抗手段としてすっかり定着した感のあるinter partes review (IPR)。早期に結論がでるということで、多くの裁判所で訴訟の停止申立(motion to stay)も認められることが多くなっている。しかしながら、ここで、AIAのanti-joinder条項により共同被告には制限がかかったけれども、同じ特許で訴えられている訴訟はtrial前まで併合されるのが通常の裁判実務になっているため、併合されたケースにおいて、一部の被告がIPRを申請した場合に、それを理由に併合ケース全体がstayの利益を受けられるのか、IPRの申請をしていない被告についても?というのが記事の主題である。

というのも、IPRを申立てた場合には、IPRで主張したことについて訴訟側で禁反言(estoppel)がかかる(IPRで申立てた/申立てることが合理的にみて可能だった主張は訴訟で蒸し返すことができない 米国特許法315条(e))、という制約があるため、その制約に服さない他の被告についてまでstayの利益があるのは公平ではないという見方があるということのよう。このため、一部の裁判所では、他の被告がestoppelに服することを条件にstayを認める命令が出ているとのこと。

35 U.S. Code § 315 - Relation to other proceedings or actions (e) Estoppel.—
(1) Proceedings before the office.— The petitioner in an inter partes review of a claim in a patent under this chapter that results in a final written decision under section 318 (a), or the real party in interest or privy of the petitioner, may not request or maintain a proceeding before the Office with respect to that claim on any ground that the petitioner raised or reasonably could have raised during that inter partes review.
(2) Civil actions and other proceedings.— The petitioner in an inter partes review of a claim in a patent under this chapter that results in a final written decision under section 318 (a), or the real party in interest or privy of the petitioner, may not assert either in a civil action arising in whole or in part under section 1338 of title 28 or in a proceeding before the International Trade Commission under section 337 of the Tariff Act of 1930 that the claim is invalid on any ground that the petitioner raised or reasonably could have raised during that inter partes review.

例示されているのは以下のケース。
Pi-Net International, Inc. v. Focus Business Bank
E-Watch, Inc. v. Lorex Canada, Inc.
Neste Oil Oyj v. Dynamic Fuels

記事の中でも書かれているように、IPRを申し立てていない被告にstayを及ぼす際の条件としてのestoppelは、実際にIPRの中で提起されたものに限られ、「could have been raised」までは及ばないとされることが多いようだが、これも裁判所の裁量なので、まったくIPR申請者と同一になる場合もあるようだ。

どういう先行技術資料を使ってどんな主張をして無効を求めるのかは、その特許のクレーム解釈、ひいては侵害非侵害に関わってくるので、クレーム解釈でどの文言がどう解釈されるかに通じるところがあり、同じ特許で侵害を申し立てられている共同被告間であっても、主張の内容が異なることはよくある。ということは、被疑製品が違う以上、共同被告間で無効主張に対する意見が異なるのはありがち。これはIPRになる前のreexaminationの時代からあった。共同被告で共同でreeaminationをかけようということ自体には合意が成立しているのに、その資料になにを採用するのかで合意に至らず、一部被告が申し立てたりすることもあったりした。

他の被告がIPRをかけていて、それを理由にstayを申請し、裁判所がIPR申請者以外の被告にもestoppelを条件に許可するとしてきた場合の選択肢として記事で上げられているのは次の3つ。

(1)estoppel制約を良しとせず、自社はstayせずにそのまま訴訟を継続する
非侵害防御の方が自社にとっては防御の主張として強いと思われる場合、IPRの資料や主張が被疑製品の違いに起因して無効主張の前提となるクレーム解釈に乗れないような場合、IPRの成功見込みに疑問を持っているような場合など。

(2)制約を飲んでstayに乗る
これができれば、費用と時間はかなり節約になるが、反面リスクも高いので、色々注意点がある。まず、そのときの裁判所が出してきたestoppelの範囲と(現実に提示されたものに限られるのかどうか。さすがに「could have been raised」まで含むとされていては、自社のコントロール埒外になってくるのでこの選択はできないだろう。)そして、IPRの申請内容(先行技術と無効主張)が自社にとっても合理的と考えられるかどうか。当然、その主張内容が、クレーム解釈と矛盾しないかどうかもしっかり見ておく必要がある。

さらには、IPRがかけられた目的が和解のレバレッジだとすると、和解の成立によりIPRが取り下げられてしまい、その時点で提訴から1年以上経過していると後から自社でIPRをかけ直すことはできない(訴訟で無効主張するしか手がなくなる)。

⑶ そのIPRに自社も乗る・自社も別途IPRを起こす
資料は行けそうで、事前相談がなかった場合とかは、主張で下手を打たれないようにするために、乗っておく。あるいは、もっといい資料や主張があるのなら、別に起こす。ただ、IPRは時間との戦いになるので、できるかどうかはケースバイケース。

上記(2)のように、IPRの1年の制限期間が終了してからIPRが和解終結してしまうとハシゴを外された格好になるので、それを避けるためだけに参加しておく、という考えはありそう。参加の場合は、IPRが申請されてから1ヶ月以内に決断する必要があるので相当慌ただしいけど。


記事には特に書かれていなかったけれど、そもそも併合されている共同被告ならJDGが結成されていて、その中で共同でIPRをかけようという話が起こっているのではないかと思わないでもない。ただ、併合された時期にもよるのかもしれない。IPRには上記のように1年の縛りがあるので、準備は早くするのが必要で、合意をとっている時間が惜しくて見切り発車していることもありそうではある。

いずれにしても、一般化してどのオプションがお勧めということは当然ながらないのだけれど、IPRができるようになって、stayも認められやすくなって良かったね、ではなかなかすまない、ということで、おもわずじっくり読んでしまった記事だった。