知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

インデム

勤務先会社は、いわゆるBox makerである。
チップを買ってきて、そのレファレンス・デザインに従って、電源やらメモリやらバスやらアンテナやら諸々組み付けて、筐体を被せて完成品に仕上げ、販売する。

いまどきのチップは、高集積化が進み、チップの中でかなりのことが完結してしまう。完結しなくても、メモリやバス等との組み合わせにしても、プロセッサが果たす役割が最も大きいのは無論のことである。

この周りの特許はといえば、チップ単体で完結するものもあれば、他との組み合わせのものもある。完成品にならなければすべての要素が揃わないシステム特許もある。いずれにしても、チップの果たす役割は大きいから、アメリカ特許法であればチップには寄与侵害が認められるだろうし、先頃のQuanta判決に従えば、チップにライセンスがあれば、そのチップが含まれるシステム特許も消尽するだろう。

特許権者にしてみれば、チップメーカーからお金を集めるよりも完成品メーカーに行った方がたいてい高額のロイヤルティが期待できる。最近の特許権者はエンド・ユーザーライセンスポリシーを持っているところが多く、チップ単体の特許にしたって「それはチップの中身の問題で当社では分からないからチップメーカーに行ってくれ」といっても聞き入れてもらえない。チップメーカーとの間は内部で調整してくれというわけである。

で、ここで登場するのが特許補償契約(Indemnification)。チップが特許を侵害していれば、チップメーカーが責任を持って対処してくれるというものだ。特許権者に賠償せざるを得なくなったなら、それを求償することができる。

しかし、このインデム契約、すべての場合について補償してくれるわけではない。通常は、チップそのものが侵害とされる場合に限定される。その他の部品との組み合わせが侵害だったり、チップになんらかの手を加えているような場合は除外される。上記の寄与侵害にあたるような場合までは広すぎて責任持てませんわ、ということである。そんなところまで組み込んで商売するんでは、こんな価格ではやってられません。倍額払ってもらってもゴメンですな、ってところだろうか。

某チップメーカーI社などは、非常に積極的にIndemnifyしてくれるポリシーを持っていて、自分が売られた喧嘩じゃなくても客に売られた喧嘩は買うし、被告団の中も仕切ってしまうのだが、こんな会社は非常に希だ。かかるお金も半端じゃないから価格も半端でなく高かろう。

という常識に我慢ができないのが上層部である。チップのレファレンス・デザインどおりに作っているだけなのに、うちにはそれ以外の選択肢がないのに、チップメーカーが責任をとらないっていうのはどういうことだ!とご立腹である。

だって、そんなリスクプレミアムを見込んだ単価で買ってないでしょ? べき論じゃなくて、どこまで保険をかけるかっていう話だと思うんですが。