知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

Mediationの実際

以前のエントリーに書いたとおり、9/22にサンフランシスコで特許訴訟のADRとしてMediationに参加してきた。

カリフォルニア北部地裁の命令により、裁判開始前に必ずなんらかのADRを実施しなければいけないとされており、今回調停が選択されたもの。調停人・場所はJAMSのサンフランシスコ事務所である。このJAMSというのは、ADRを提供する団体で、調停人や仲裁人の登録者を抱え、それなりの訓練プログラムも持ち、かなりの歴史を誇るところのようである。調停の成否はかなりの部分調停人に左右されるが、弁護士に聞いたところ、JAMSの調停人(Mediator)はかなり評判がよいようである。調停人としては、元判事が多いようだ。

本件訴訟の被告は7社。1社が調停人の報酬の支払を拒絶して参加しなかったので(そんなことをして、裁判所に怒られないのだろうか??不明である)、参加被告は6社。うち4社は同じ代理人を使っている。

被告が複数社ある場合、共同防衛(Joint Defense)を組むのはよくやるが、代理人を同じところにしてしまう、というところまでするのはあまりない。もちろん当事者すべてが同意すれば共通の代理人を使うことに問題はないのだが、特許無効の資料や主張はともかく(これを共同でやってコストを削減するのがJoint Defenseの目的)、各社製品は異なるので非侵害主張の組み立てはそれぞれ異なるし、競合メーカーだったりすると相互に販売規模も異なるから、和解条件なんかではコンフリクトが発生してやりにくいんではないかと思う。これが上流と下流ならまだわかるのだが、本件ではこの4社はまさに同じカテゴリーの製品を供給する競合同士なんだよね。ちなみに当社も競合だけどマーケットシェアが2桁違うので競合というのはおこがましい・・・。

ともあれ、6社の代表+それぞれの代理人と、原告代表+原告代理人が大きな部屋に勢揃い、調停人の前でお互いの主張を繰り広げる。今回は、被告を代表してその4社を代理しているところが軽いPresentationを行い、これに原告が反論をする、という形が取られた。一応、その場で質問や意見・補足も広く行われたが、それほど真剣に議論するという感じではなく、お互いのポジションを確認したというところ。

続いて、調停人の指示で原告が別の部屋に移動。残った被告団と調停人が協議。被告それぞれは原告の主張をぶっちゃけどう考えているか、ということを調停人に述べる。今回の原告代理人は、かなり悪名高い?成功報酬型の事務所で、特許訴訟のメッカになっている当分野で次々原告代理人を受任してそのたびに高額な和解金をふっかけてくる、という。競合メーカーのうち最も大きい会社なんて、半年ごとにコイツから訴訟を起こされてそのたびに小金をせびられるんでいい加減にさせないとやってられない、という話だった。実は当社もこの代理人を相手にするのは2度目である。

などという被告団のぼやきめいた話を10分程度して、調停人は原告側の部屋へ移動。その間被告団は元の部屋でみなノートPCを出してそれぞれ手元仕事。当然のように無線のネット環境は提供されている。待つこと1時間。おそらく原告が提示した和解条件がとんでもなく高額だったせいでその説得に時間がかかったのではと思われる。

次に、被告団の中の被告会社代理人が順に調停人に呼ばれて話をする。調停人の話は、要は原告の要求額はいくらで、調停人としては、このくらいの額が妥当だと考えるがどうか?というもので、こちらはそれをマーケットシェアとか自社の販売規模とかこの分野に訴訟が多くて1件1件は大したことが無くても積み重なるとロイヤルティで利益がふっとぶ、とかいう話をして調停人を説得し、なんとか原告に減額をするようにしむけてもらう、という形になる。ここではもう金額の話のみに終始してしまい、特許の侵害とか無効とかは俎上に上らない。

そして、大体受諾可能な線だというところまで来れば、正式には持ち帰ってBoardの承認を得るということにするが、まあ、たいていこの線で落ち着くよ、てなことを調停人に言い残し、終わったところから順次解散である。

経営トップにしてみると、同じように被告になっている会社がどう考えてどんな条件で和解するのか・しないのかが大変気になるらしいのだが、一堂に集められたところで各社条件は大なり小なり異なることが多く、第一同じか違うのかすら明らかにされないことが多い。聞き出そうにも鉄壁の守秘義務を誇るLawyerばかりということで(被告会社代表にしたってみんなin-house counsel=lawyerなんですから)、さっぱりわからないのだ。