知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

『ライセンス契約のすべて 実務応用編』 入手

著者のお一人のtacさん(企業法務マンサバイバル)にもお勧めされ、dtkさんにも煽られたこの本、アマゾンにはちっとも入らないし、三省堂書店の在庫検索でも出てこない。bk1にはあったので、今日買えなかったらbk1でクリックだな、と思って会社を出た。

ライセンス契約のすべて 実務応用編

ライセンス契約のすべて 実務応用編

  • 作者: 横井康真,青木武司,西岡毅,山浦勝男,橋詰卓司,吉川達夫,森下賢樹
  • 出版社/メーカー: 雄松堂出版
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本
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dtkさんが新宿のジュンク堂でゲットされたというので、ジュンク堂のHPで在庫検索したが、池袋店の在庫しか出てこないのね、これ。三省堂だったら店舗ごとに在庫の有無が出てお取り置きができるのに〜。でも、池袋店には20冊あったから、他のジュンク堂にもある可能性は高いだろうと踏んで、行ってみた。

あった〜!

1冊だけだけど。でも、あったもんね。無事ゲット。

前作の『ライセンス契約のすべて』は、

ライセンス契約のすべて―ビジネスリスクの法的マネジメント

ライセンス契約のすべて―ビジネスリスクの法的マネジメント

  • 作者: 吉川達夫,森下賢樹,飯田浩司
  • 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
  • 発売日: 2006/11/10
  • メディア: 単行本
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正直このボリュームで『すべて』って言うか?と突っ込みたくなったのだけれど、今回姉妹編として出た『実務応用編』は、ざっと一読したところ、かなり実務的に深い記載も多いようで、実務家としては参考になるところが多いのではないか。私自身の仕事には縁のない分野もいろいろ載っていてへぇ〜と言う感じだが、それは置いておいてコメントしたい箇所も幾つかあるので、何回かに分けて記事にしたいと思う。

とりあえず、今日はあまり時間もないので、dtkさんのところで取り上げられていた侵害警告(第1部第5章)の話について一言。infringeという単語が英文の警告状で使われるかどうか、実際の例を明日会社に行ったら見てみようと思うのだが、あまり見覚えがないような気がする。そんな直接的な書き方はしないのでは、と思いつつ、なんであまり見覚えがないのかとつらつら考えると、英文の警告状自体が減っているのだ。

侵害警告をしないで直接訴訟に持ち込むことは少なく、このように特許権者から事前に何らかの接触がなされることが多い。(同書P33)

とあるが、これは米国のNPE(Non practicing entity:非事業会社)が起こすアクションに限って言えば、すっかり影を潜めている。dtkさんも書かれているように、警告状を出すことで、DJ(Declaratory Judgment:確認訴訟)を被疑侵害者側が起こす要件を充たしてしまい、被疑侵害者が自身のやりやすい裁判地を選んでDJを起こすのを嫌うためである(Litigation Holdを嫌うかどうかについては、よく知らない。少なくとも、NPEについて言えば、事業会社と違ってあまりHoldを気にしないんじゃ?という気がするが)。

各地の連邦地裁で特許侵害裁判の特許権者・被疑侵害者の有利不利はかなりはっきりしていて、特許権者はテキサス東部でやりたがり、被疑侵害者はカリフォルニア北部でやりたがる。しばらく前までは、テキサス東部はどんなにMotionを出しても頑として移送を認めなかったので、訴えられる前に訴えようという行動につながったものと思われる。

このため、NPEとしては、悠長に警告状を出している余裕はなく、まずは訴状のfile(テキサス東部か今ならウィスコンシンか)から開始する。訴状と言っても、そんなに詳細に被疑品が侵害している理由を書く必要はまったくないので、特許番号と、被告会社と、その特許に関係しそうな製品カテゴリーくらいを書いておけば事足りる。そして、米国では、訴状の送達は裁判所ではなく原告が行うものなので、まずは裁判所にfileだけしておいて、被告への送達(serve)はしばらく待つ(被告への送達は180日以内にすればよい)。被告会社は、訴状がfileされたことをたいていは弁護士等から情報が入って知るので、送達されるのを待っているわけだが、そこへ、訴状ではなく、代理人からレターが来たりする。

訴状をfileしましたが、徒な争いを好むものではなく、合理的な条件で合意したいと考えております。つきましては、連絡を頂きたい。

とかなんとかいう趣旨のレターが多い。これを受けて被告側が代理人にコンタクトさせれば、そこで交渉が始まるといった具合である。

訴状が早い段階で送達されるケースももちろんある(そちらがまっとうだ)。その場合も、大抵はAnswerの期限を延長するために原告代理人と被告代理人が接触するので(両者合意で延長を申請するため)、その際に原告の主張を探り、早い段階で和解の目がないか探ったりすることも多い。

このように、訴訟提起自体が警告状のような役割を果たしているため、Answerに至らずに和解が成立してdismissされるケースもかなり増えている。

以上のような傾向は、おそらくここ2〜3年で(確か、DJの要件が明確にされた判決が出て、それ以降の特徴だったと思う。うろ覚えですみません)、複数の米国弁護士が口を揃えて警告状なしで訴状fileが一般的になったと言っているので、はっきりした傾向だと思う。