知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

『ライセンス契約のすべて 実務応用編』 -ロイヤルティ不払いリスクとそのマネジメント-

さて、『ライセンス契約のすべて 実務応用編』 にコメントするシリーズ2回目。

ライセンス契約のすべて 実務応用編

ライセンス契約のすべて 実務応用編

  • 作者: 横井康真,青木武司,西岡毅,山浦勝男,橋詰卓司,吉川達夫,森下賢樹
  • 出版社/メーカー: 雄松堂出版
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本
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第1部第1章 ライセンス契約のリスク?ロイヤルティ(実施料)不払いリスクとそのマネジメント

ここで引用されている『ロイヤルティの実務』は、私も読んだが、監査がここまで一般的になっていることにまず驚いた。

ロイヤルティの実務―ライセンスビジネスでの契約と監査のノウハウ

ロイヤルティの実務―ライセンスビジネスでの契約と監査のノウハウ

その昔、ライセンス契約(特に特許ライセンスの場合)では監査なんて手間と費用のかかることはやらないのが常識だったと思う。だから本来支払うべきロイヤルティと支払われているロイヤルティの額に差があるのかどうか、それがどの程度なのかなんてはっきり言ってさっぱり分からなかった。監査条項は紳士協定で、詳細に規定してある英文契約などを見ると、本気でやるつもりもないのにどうしてここまでギチギチに書くかなぁ?と思ったりしていたものである(実際米国内企業同士の契約なら時に実行していたのかもしれないが、日本まで来て監査をしようなんていうところはほぼなかったのだ)。

しかし、いまや監査をするのも珍しくなくなっている。特に特許プール事業者は、ライセンス収入が肝心なだけに、監査によって適正にロイヤルティが支払われるようにすることが自社のビジネスモデル上非常に重要だと考えているらしく、専門の部署で複数のチームが年中監査対応をしているようである。だからといって監査が手間と費用がかかる代物であることには変わりない。

このような監査が必要になってくるのは、出来高払い制のロイヤルティを組んだ場合である。この出来高払いのリスクについて、dtkさんが、

出来高払いだと、個別の製品について、常にライセンスフィーを負担することになって、固定費と同じ状態になるというのはライセンシーにとってのリスクではないのだろうか?製法特許のライセンスを受けて製造したものの、その後後から別のより安価な製造方法が出てきたら、価格勝負の面でライセンスの存在が不利に作用するリスクはあるし、特に、ライセンスを受けた製法のために転用の効かない設備投資とかをしてしまうと、リスクになるのではないだろうか、という気がする

とコメントされている。

まず、出来高払いだと個別の製品について固定費になるからライセンシーにとってリスクではないか?との点。通常、出来高払いのロイヤルティは、製品の原価の一部になる。構成部品と同等の扱い。これに対して、定額払いにした場合、その金額は無形固定資産か長期前払い費用で資産計上され、減価償却される。減価償却の行き先は、やはり製品の原価である。減価償却費が個別製品にきっちり原価として上乗せされて管理されるかどうかはその会社のシステムによる。きっちりやられれば、あまり出来高払いの場合と差はない。

ここで、当初想定していたよりもそのライセンス技術を使用する期間が短くなったらどうなるか。純粋な出来高払いであれば、ライセンス特許等を実施しないのだからロイヤルティはそれ以降発生しない。定額払いでまだ減価償却が終了していなければ、その時点で除却するか、あるいは将来使用する可能性があるとして除却は許されず、しばらく製品もないのに減価償却し続けることになるだろう。このあたりは、設備を買ったときと同様。

将来分のロイヤルティを定額払いにした場合と出来高払いにした場合とで差が出てくるのは、本書でも触れられているが、契約当時の製造販売数の見通しに狂いが生じたとき。定額払いにしておいて、予測よりも販売数が多くなれば、ライセンシーにとってはお買い得だったことになり、ライセンサーにとっては安売りしすぎたということになる。逆の場合はライセンシーには高くつき、ライセンサーにとっては早くがっちり支払いを受けておいてよかったということになる。

このような定額払いのリスクを双方がとらないために、出来高払いを選択するわけだが、定額払いに比べて格段に管理コストと不払いリスクが高くなるので、それでも出来高払いがよいのかはよく吟味する必要がある。

なお、上述のdtkさんのコメント中、ライセンス方法より安価な方法が後になって出てきたら価格勝負の点でリスクにならないかという点については、出来高払いならなおのこと、安価な方法が後から出てきたら、そちらに乗り換えればよい。ロイヤルティは不要になるので、価格競争力も他社と同等である。定額払いでまだ償却が終わっていないときにはそうはいかないので、それでも他の方法を導入したほうがコストメリットがあるかどうかを検討せざるを得なくなる。また、設備投資の点は、設備投資自体についてくる導入リスクなので、この際ライセンスやロイヤルティの支払い条件とは関係がない。

ここまで書いたら昼休みが終わったので、続きはまた次回。このシリーズ、ずいぶん長くなりそうな気がする・・・。