知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

PCTトピックス研修

 毎年恒例の、ジュネーブからPCT担当官が来て最近の動向や規則改正、PCT出願ソフト(PCT-SAFE)について説明してくれるPCTトピックス研修に参加した。継続研修の単位認定がされるということで、普段はPCT研修には参加していないんじゃ?という方々の出席もちらほら。出席といえば、入場と退出の両方を受講票に印刷されたバーコードをかざして受付で記録する必要があり、入場時はともかく退出時は長蛇の列。受講票を回収しちゃうとか、もうすこし工夫してもらえないものか。

 PCT出願件数は、多少伸び率が鈍化したものの、年々増えている。2007年の総出願件数は158,400件。日本からの出願は28,732件で全体の17.5%(2位)。1位は米国、3位がドイツ。特筆すべきは、4位に韓国、7位に中国が入っていて、それぞれ前年比18.9%、38.5%の伸び。発明が生まれる地域及び言語の多様化の傾向が見られる。

 出願人別では、2007年公開分で、1位が松下電器産業(2100件)、2位がフィリップス(2041件)、3位シーメンス(1644件)、4位に中国の華為技術(HUAWEI TECHNOLOGIES)(1365件)。

 ちなみに、国際予備審査を請求しなくても移行期間が30ヶ月になってから、2001年をピークに予備審査請求数は減少している。2002年の予備審査請求件数は80811件、2007年では19100件。国際調査報告に見解書がつくようになったこともあり、予備審査請求をする出願人の目的は34 条補正にあるようだ。

 PCT利用によるコスト試算もテキストに掲載されている。といっても、翻訳料や代理人の手数料は含まれておらず、あくまでOfficial Feeベースの話。PCTを経由した場合、国内段階での審査請求料や調査料が割引になるケースがあるため。たとえば、日本特許庁を受理官庁にして国際調査機関も日本特許庁、国内段階での移行を、日本、米国、欧州、中国、韓国の5カ国とした場合。国際出願の出願時の手数料合計が217,600円(1)。国内段階に入った後、日本の審査請求料軽減額が83,400円、EPOのサーチ料軽減が190ユーロ(30,400円)、米国のサーチ料軽減が100ドル (10,500円)、中国の審査料軽減が500元(7,350円)。要するに、国内段階で節約できるのが131,650円(2)なので、(1)から(2) を差し引くと実質PCT料と言えるのは85,950円。これをどう考えるか。国際調査報告及び見解書と、移行期間が30ヶ月あるということをこの金額で買うと考えればよいとのこと。

 この金額ならそう高くもないともいえるが、前提として、移行国が5カ国ある。ここの数が少なければ軽減も少ない。ちなみに、日本に移行せず、基礎出願の方を生かす場合は、ここで審査請求料の軽減は受けられないが、「先の国内出願の審査結果を考慮する」ことができる。この場合の軽減は41,000 円。先の国内出願に基礎出願を指定してやると、国際調査報告作成のタイミングで先の出願の審査も一度にやってしまい、見解書作成と拒絶理由通知の作成を同時にすることになる。このため、早期審査を申請したのと同じ効果がある。

 また、来年1月からの規則改正のひとつに、補充国際調査がある。国際調査機関が作成する調査報告のほかに、出願人の求めにより、別の調査期間に調査をさせることができるもの。実際、日本特許庁に調査報告を作成させると、引用文献は日本の公報ばかりになる。そして、各国に移行してたとえば米国に行くと、こんどは全然別の米国の公報が引用される。欧州の引例には日本の公報が引かれることもあるが、要約と図面ベースで見ているので、ひとつまちがうととんちんかんな拒絶理由になったりする。そういう意味では、異なる言語を使う別の調査期間に『セカンドオピニオン』をもらえるのは意味があるわけだ。これも発明の創出国・言語の多様化に応じたPCTのサービスの一環というわけだが、調査機関にしてみればいくらその分の手数料が得られるといっても審査であっぷあっぷしている状況では負担が重いので、現段階で補充調査機関に名乗りを上げているところはあまり多くない。2009年1月からサービス開始予定なのは、オーストリア特許庁、ロシア特許庁、北欧特許機構、スウェーデン特許庁(maybe)。2010年からは、EPOが名乗りを上げているが、件数に上限が設けられる見込み。時期を明言せず参加検討中なのは、オーストラリア、ブラジル、韓国、中国の特許庁。参加の予定がないのは、カナダ、日本、スペイン、米国。

 さて、上記をかんがみて当社の場合に改めてPCT活用を考えてみるが、今のところあまり多数の国に出願する必要性が乏しく、やっぱり利用の目はなさそう。日本出願を基礎として日本の特許庁に国際出願をする場合、日本語であることも影響してか、パリルートで直接出願をする場合よりも出願内容の見直しが甘くなる傾向にある気がする。同じようにやれば良いといわれればそれまでなんだが、そういう傾向がある以上、そうならないためにはそれなりの仕組みを導入する必要があるわけで。見直しが甘い状態でPCTにしてしまって、いざ移行の際に何とかしようと思っても、『翻訳』しか許されないので、発明の本質に立ち返った明細書の作成は難しい。ということもあって、限られた人員リソースで業務遂行中の当社としては、PCTじゃなくてパリルート直接というのが当面の対応になりそうだ。