知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中華商標協会代表団による記念講演会

本日、標記の講演会(弁理士会の研修扱い)を拝聴した。名古屋の商標亭のひろたさんから熱烈なリクエストを頂いたので、簡単に報告を。

申し訳ないが、本日は朝から訴訟が1件増えたり、午前中別件で弁護士と打ち合わせに行ったところ、社内対応がやまほど発生したために、午後いっぱいを占めていた本講演会の間中、ノートPCを開いてメールであちこち指示を飛ばしまくり、報告を見ては次の指示を飛ばし、ということを繰り返していた。これで同時通訳つきの講演を聴いていたので、その理解度は推して知るべしである。頭が膿みそうだった。

さて、中華商標協会は、中国の商標関係の中心的な組織で半官半民とのことである。来日は3度目とか。弁理士会では、この来日のためのプロジェクトチームを用意して事に当たっていたらしい。記念講演会ということで、発表者も複数、盛りだくさんだった。一応、テーマは著名商標の保護ということである。

1.中国における商標戦略の実施状況の紹介

 中国国家工商行政管理総局商標局 徐 志松 氏
(1) 商標戦略実施状況の紹介
(2) 著名商標の保護
(3) 商標法の改正要点
(4) 商標登録出願時の注意事項
(1)は、いかに中国が商標を保護しようとして頑張っているか、という趣旨の話。(2)の著名商標の話もそれほど目新しい事項はなかった。
(3)の改正法の話がもっとも関心を持たれるところだろうか。これについては、以下のような話があった。
a)権利化手続の簡略化
 ・異議申立の商標局裁定を評審委員会の審理とし、覆審を廃止。
 ・異議申立人を利害関係人のみに限定
b)商標権の保護及び行政管理監督を強化
c)地理的表示の保護強化
d)商標代理の管理監督強化
e)国際ハーモナイゼーション
 ・多区分出願の受理
 ・譲渡・使用許諾手続の簡略化 等

2.中国における著名商標の司法保護
 中国最高人民法院知識産権審判庭 于 暁白 氏

興味深かったのは、以下のコメント。その他は、著名商標の認定の根拠法や司法解釈の解説であった。
 著名商標の司法保護は、商標法の第2回改正後から実施されており、受動的・個別案件について認定を行っている。
 中国特有の『司法解釈』であるが、裁判所の中で最高法院のみが出すことができ、出す前にはパブリックコメントを広く求めるようにしている。また、全人代の常務委員会に提出する義務があり、厳格な手続が要求されるものである。『司法解釈』は、司法の場での執行の便宜のために出されるものであり、法律と同様に、裁判所がその判断の根拠にすることができる。

 著名商標は、『中国国内』で関連公衆に広く知られた商標を指す。この『中国国内』は、司法管轄区の概念で、主権区域概念ではない。即ち、香港・マカオ・台湾地域を含まない。

3.日本における著名商標の司法保護
 東京地方裁判所総括判事 阿部 正幸 氏
 商標法4条1項19号についての解説。19号の要件は以下の通り
?他人の商標(引用商標)の日本または外国での『周知性』
?出願商標(本件商標)のと引用商標との『同一または類似性』
?本件商標を『不正の目的』で使用するものであること
この3要件は、相互に関連しており、1つの要件が弱ければ、他の要件の立証増える関係にある。例えば、不正の目的が強く認められれば周知性が弱くても19号該当とされる。引用商標との類似性が高ければ、不正の目的が認められやすいといったこと。

■裁判例
(1)ETNIES事件(東京高裁平成14年10月8日判決)
(2)マンハッタン パサージ事件(東京高裁平成15年11月20日判決)
(3)Mane 'n Tail事件(知財高裁平成17年6月20日判決)
(4)DonaBenta事件(知財高裁平成19年5月22日判決)
(5)USBEAR事件(知財高裁平成20年9月17日判決)

4.中国商標評審基準の紹介及び典型事例の分析
 中国商標評審委員会 耿 娟娟 氏
※この資料は、アップデートされたものが近々弁理士会のフォーラムに掲載予定
(1)他人の著名商標を複製、模倣または翻訳する場合の審理基準
a)法的根拠
 商標法13条、14条、41条2項、商標法実施条例5条
b)適用状況
c)適用される評審案件の類型
 商標異議覆審案件、商標争議案件
d)適用要件
e)事案
 第1677690号 DAIJINBANBEN及び図形商標異議覆審事件
 (裁定の際に考慮される要素)
 ・引用商標の知名度、争議商標と引用商標の類似性、及び争議商標と引用商標の使用する製品の関連性を総合的に考慮
 ・引用商標の知名度が高く、争議商標と引用商標の類似性が高く、争議商標と引用商標の使用する商品の関連性が高い場合、争議商標を取り消すか被異議商標を不登録とすべき

(2)被代理人または被代表者の商標が無断で出願された案件の審理基準
a)法的根拠:商標法15条
b)適用状況
 ・許可なく代理人が自らの名義で被代理人の商標を出願した場合
 ・許可なく代表者が自らの名義で被代表者の商標を出願した場合
c)適用される評審案件の類型
 商標異議覆審案件、商標争議案件
d)適用要件
e)事案
 第1102851号DIC及び図形商標争議事件
 (裁定の際に考慮される要素)
 ・パリ条約6条7項の趣旨に基づき、「代理人」は広義に解釈=販売業者含む
 ・悪意での抜け駆け登録行為を防止する目的に照らして解釈すべき

(3)他人の先の権利を害する場合の審理基準
a)法的根拠:商標法31条
b)立法目的:商標権とその他の権利との抵触を回避
c)適用要件
 ・他人が商標権以外の先の権利を有する
 ・係争商標の出願は、他人の先の権利を害するおそれがある
d)先の権利
 ・係争商標の出願日前に既に取得した商標権以外の権利
 ・著作権、意匠権、姓名権、肖像権、著名な商号、
  著名商品の特有な名称、包装、装飾等

(4)他人が既に使用しかつ一定の影響を有する商標の抜け駆け登録の審理基準
a)法的根拠:商標法31条
b)適用状況
 ・信義則に違反し、悪意で他人より先に他人が既に使用しており・かつ一定の影響を有する商標を出願した場合
c)適用される評審案件の類型
 商標異議覆審案件、商標争議案件

(5)欺瞞もしくはその他の不正な方法による商標登録の審理基準
a)法的根拠:商標法41条1項
b)立法目的:商標登録及び使用の正当性を強化し、公平競争の取引秩序を維持
c)適用される評審案件の類型
 商標異議覆審案件、商標争議案件
d)適用要件
 ・他人の引用商標が既に中国で先に使用されている
 ・係争商標と引用商標とは使用する商品(役務)が同一または類似である
 ・係争商標は引用商標と同一または類似である
 ・係争商標の商標権者(出願人)が引用商標の存在を知っている(知りうべきである)
e)事案
 第1208577号TIfCO、第1204572号NIfCO商標争議事件

以上