知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

北京裁判所傍聴記(1)

今回傍聴に行くことになった裁判所は、北京市第一中級人民法院。私が行くわけだから、刑事でも民事でもなく、行政訴訟である。日本風に言えば、商標の拒絶査定不服審判の審決取消訴訟になる。中国では、最近裁判案件が非常に増えていて、とても混んでいるのだとか。北京市第一中級人民法院も、案件数の増加に伴い、物理的な場所が足りなくなったとのことで、従来の建物とは別に、少し離れたところに建物を借りて「第二審判廷」として運用している。知財関係事件(知識産権)は、すべてこの第二審判廷の取扱いになっているとのこと。

開廷事件は、ネット上にも一部公告されている。今回の開廷は、4/21の16時だったのだが、なぜか掲載されていなかった。営業秘密事件などで当事者が非公開を申請していない限り、傍聴は申し込めば通常可能と言うことだったが、なぜ出ていないのかはよくわからない。

さて、傍聴の手続だが、中国人が傍聴する場合は、特に事前の申請が必要というわけでもなく、開廷時間前に裁判所に行き、傍聴したい旨を受付で申し入れ、身分証明書を提示すれば、たいてい認められるとのことである。大きな事件で傍聴人数が制限される場合はあるということだが、このあたりは日本と事情は同じだろう。

一方、外国人が傍聴を申し込む場合、原則として3日前までに申込みをしなくてはならない。そして、北京市の裁判所の場合、この申込みには、パスポートのコピーとFビザ(訪問ビザ)のコピーを添える必要がある。どうやら、この取扱いは地域により差があるらしく、上海の裁判所ではビザは不要とのことだった。

通常、開廷通知は、2週間〜1ヶ月前には代理人に郵送されるらしいのだが、本件はなぜか1週間前というせっぱつまった時期に届き、驚いた代理人が

依頼者が日本から傍聴希望するかもしれないので開廷を延長できないか

と裁判所にかけあったが認められなかったらしい。その代わりといってはなんだが、通常3日前には申込みする必要があるところ、ビザの発給が2日前にしか不可能だったため、開廷前日の午前中に申請することでねじこんだという顛末である。

本件の開廷審理がなぜこのように急に行われることになったのかは、憶測だが、現在上記のように裁判所では多くの案件を抱えており、できるだけ案件処理数を稼ぎたいという事情がある。本件は、争点が商標の類否のみであり、引用商標も1件だけという単純なものだったため、早く片付くだろうという見込みで先に回されたのではないか、ということだった。

さて、当日、北京市の中心からかなり西の方にはずれた裁判所にタクシーで向かう。余談だが、現在の北京市は車の数が多く、渋滞がひどい。はまると動きが取れず、時間が読めないため、早め早めに行動することが余儀なくされる。交通ルールもあってないようなものなので、運転するのもそれはそれで危険。地下鉄はラッシュがすごくて一番前に並んでいないと乗れないらしい。と、なかなか大変そうである。

幸か不幸かほとんど渋滞に遭わずに到着したため、着いたのは15時頃。受付で、代理人弁護士は弁護士登録手帳を、商標代理人は通常の身分証を、もう1人の傍聴者(代理人事務所の法務担当者)も身分証を出して受付をする。私の傍聴については、どうやら中級法院(地裁)ではなくて、高級法院(高裁)の取扱いになるらしく、本来は高級法院から受付に通知がきているべきなのだが、入っていないため、受付に拒否される。受付から高級法院の担当部署に電話するも担当官がつかまらないのでかなり待たされる。そこで、当社代理人弁護士が高級法院の知り合いに携帯電話をかけて捕まえ、ようやく受付の運びとなる。なかなか前途多難。

受付が無事済むと、通常の中国人はセキュリティチェックを通って建物内に通される。ちなみに中国でも弁護士はノーチェックだということ。このセキュリティチェック、北京オリンピックの頃からすっかり厳しくなり、地下鉄も各種観光地もセキュリティチェックだらけになっている。

一方、特別に許可されている形の外国人傍聴者である私の場合、書記官が受付まで迎えに来てその付き添いのもと、初めて中にはいることができる。本来、開廷時間までまだ間があるため、待たされるところだったのだが、たまたま先に中に入った代理人が書記官を捕まえてお願いしたため、ほぼ同時に中に入ることができた。ここで、パソコンは中に持ち込めず、ロッカーに入れておく必要があると言われたのだが、その肝心のロッカーがほとんど使われていないようで、鍵のかかるまともなロッカーがなくて、どうしようもなく

もう持って入っていいです。

ということになった。すみません。こんなこととは知らず。知ってればホテルに置いてきたんですが。傍聴で使う気はなかったので・・・。

さて、本日の午後行われる開廷審理は5件。中国の裁判は、形ばかり?の日本の弁論期日と違って、米国式とまでは行かないものの、まともに陳述も証拠調べも行うので、通常は1時間〜2時間程度かかるらしい。裁判所が終了するのは17時半で、職員は17時前にはほとんど仕事を片付けてしまうということだから、この案件の押し込み様は、ほんとうに事件数が多くて大変なのだと推測。

前の前の案件の審理が長引いているということで、早く着いたせいも相まって、かなり待つ羽目に。この時間を利用して、裁判所内をあちこち見学。小法廷が1〜10、中法廷が1つ、和解や調停を行う談話室が5つほどあった。なにぶん臨時の第二審判廷なので、小規模である。小法廷は、裁判官席が3つ、書記官席(パソコン付)、原告・被告席が向かい合ってそれぞれ3人分、裁判官席を向いて傍聴人席が3列×7くらい用意されている。傍聴人席と裁判所側にとくに仕切りはない。

通常、裁判官が3人か、1人は裁判官ではなく「人民陪審人」となることもあるようだ。本件の開廷審理も、1人は陪審人の予定だったらしいのだが、直前に都合がつかなくなったらしく、急遽裁判官がもう1人参加することになったと後から聞いた。

審理中は、手術室のような「開廷中」ランプが点灯する。審理が終わり、開廷記録に当事者のサインをしているような時は、扉が開いて出入りが可能になる。裁判官は、各案件終了ごとに出入りするわけではなくて、ずっと法廷に詰めっぱなしで次々休みなく審理が開始され、終了するようだった。書記官は途中で交代することもあるらしいし、記録の印刷を書記官室に取りに行ったりして出入りするが、裁判官は席を離れない。大変そうだ。ちなみに、判決の起案をする主任裁判官は、日本の場合左陪席が多いと聞いているが、中国では主任裁判官は中央に座る裁判長で、判決起案もこの裁判官がするということだった。

さて、待ちに待って、ようやく前の案件が終わり、開廷記録への当事者サインが間に合わなかったようだが時間が押しているのでその受け取りを待たずに本件が開廷。ちなみに前の当事者は、その提出のために本件終了まで傍聴席で傍聴しつつ書類に記入をしていて、本件開廷が終了後、書記官に提出していた。

なんだか前振りだけで長文になったので、開廷の模様は次のエントリーで。


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