知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

セミナー:効果的なディスカバリー対応とは

※タイトルをいれた状態で送信されてしまったため、本文なしでアップロードされてしまいました。
 おまけにTwitterに連動させていたので、中身なしのエントリを読みに来られた方々が色々・・。失礼しました。
などと右往左往していたら、途中まで入力した本文がキーの押し間違い(BS)で消えてしまい、さらにまともな記事のアップロードに時間がかかるという負のスパイラルに。とほほ。

eDiscoveryかまびすしいなか、対応ベンダーのJi2が主催するセミナーがあった。無料セミナーなので、半分くらいは製品紹介やら情報の収集方法の紹介のプレゼンだったのだが、目玉は関戸 麦弁護士の標題の講演。関戸弁護士の著書「日本企業のための米国民事訴訟対策」は、少し前に読了して、大変参考になったので、直接話を聞ける機会を逃すまじということで参加したもの。

日本企業のための米国民事訴訟対策

日本企業のための米国民事訴訟対策

ちなみにこの本は、制度の解説にとどまらず、取り組み方、考え方など、視点の置き方が秀逸で、企業担当としてとても参考になった。米国訴訟の可能性がある企業(特許訴訟に限らず)では、必携の書と言えましょう。

講演の内容

1.米国民事訴訟の流れ
2.日米の制度比較とディスカバリーの存在意義
3.ディスカバリーにおける獲得目標
4.効果的なディスカバリー対応
5.弁護士・依頼者間の秘匿特権について
6.その他

1.米国民事訴訟の流れについて
 これはさすがに目新しいところはなく、この手の事項は書籍向き(網羅性が重要)なので、上記の著書で押さえておくべきと改めて思った。ちなみに本書では、対象がディスカバリーに限られておらず、米国訴訟上重要な裁判管轄や移送の申立などにもかなり頁が割かれており、代理人に言われるまま色々動いていたことがかなりクリアになった。

2.日米の制度比較とディスカバリーの存在意義
 この項目は、目新しかった。ディスカバリーがない日本においても、多くの場合、十分な主張立証が可能(ちゃんとできているから日本でも裁判が機能しているわけで)。その理由としては、陪審員でなく、職業裁判官が、ストーリーによる事実認定を行うからということだった。具体的には、

・まず、原告・被告に時系列のストーリーで主張をさせる。
・次に、その主張が不一致のところについては、以下を用いることによりどちらの主張が優れているかを判断する。
 1)客観的な証拠
 2)争いのない事実
 3)話の合理性

判例タイムズ1185号73頁に瀬木比呂志裁判官の以下の発言が引用されているとのこと。

一般的な訴訟においては、裁判官が行う心証形成、事実認定の過程は、ことにその詰めの段階では、リアルに見ると、原告の提示するストーリーと被告の提示するストーリーのいずれが正しいのかを、客観的な証拠、認証による供述の信用性、そして経験則に照らして判断していく場合であることが多い

このようなストーリーによる事実認定を行うため、証拠が薄くても真実を認定することができるとのことだった。関戸弁護士は、このような認定法は、裁判以外でも応用可能ではないかと言われていた。

 ということは、ストーリーによる事実認定になじまないような種類の訴訟では、ディスカバリーが日本に存在しないことで、米国と比べて不利であるということになる。例えば、PL訴訟などにおいて、事故原因の立証が求められる場面など。また、相手方の主観や認識を立証する必要がある場合も、ディスカバリーにメリットがあり、特に収集した電子メールなどがインパクトのある証拠になり得るとのこと。

3.ディスカバリーにおける獲得目標
1)有利な証拠を相手方から入手する
2)不利な証拠を必要以上に相手方に渡さない
3)ルールを遵守し、制裁が科される事態を回避する
4)コストを合理的な範囲に抑える

4.効果的なディスカバリー対応
(1)情報入手の場面
獲得目標1)と4)のバランスが重要
 ・ディスカバリーで扱った情報の大部分がほとんど活用されていないという実情
 ・訴訟のポイントと手持ちの証拠が把握できていれば、入手すべき情報の絞込が可能

(2)情報提供の場面
獲得目標2)と4)のバランスが重要

(3)制裁の回避
獲得目標3)
 日本は、偽証や不利な証拠を出さないといった手続違反に対してかなり『大らか』なので、その感覚で米国訴訟に臨むと手痛い目に遭う。また、当事者は、1つ1つの証拠にこだわりすぎる傾向があるが、ただ1つの証拠がその訴訟を左右するようなことはほとんど考えられない。全体を見る判断者の視点で見れば、その証拠にこだわる余り、隠滅したりすることがいかに割に合わないかがわかるはず。

5.弁護士・依頼者間の秘匿特権について
 法務部からの参加者が多く、質問でも法務部員はin-house attorney扱いにならないのかという質問が出たが、資格の有無で決まるので、米国の弁護士には限らないが、弁護士資格が必要という話だった。周辺資格(弁理士とか司法書士とか?)については話題にならなかった(質問の時間もなかった)。

 いずれにしても、秘匿特権に頼ることを考える前に、不利な内容の証拠を作らないことが王道。秘匿特権は、漏洩のリスクもあり、裁判所の判断に左右されるところもあるので簡単ではないと心得ること。やはり社内メールが一番あぶないので、『失言』を 防止して見られても大丈夫な証拠作りを。それ以上踏み込んだことは口頭でとのことだった。

 それはわかっちゃいるんだけど、もちろんこちらからそんな危ないメールは出さないんだけど、出してくる事業部門はなかなか減らない。おまけに口頭で処理をすると、覚えていないとか引き継がれないとかのために、繰り返し同種の問題が起こるという結果になる。この辺が悩ましい・・・。

5.その他
 失敗を回避するためには、初期対応が重要。
 あるべき着地点を見据えて大きく外れないように、軸がぶれないように。
 特に、ディスカバリーの最中は、何を求めてこの作業を行っているのか見失いがち。
 心証は、早い段階で固まってしまう:人間の特性
  日本の裁判では、訴状と答弁書で心証の7割は形成されるとか。
 米国では、98.5%が和解となる。ということは、相手方の弁護士に最初の段階でどれだけのインパクトを与えられるかがポイントとなる。
 ※これがうまい弁護士がの当方有利な和解条件の引き出しがうまい。これは実感してます。

以上、1時間の講演は大変密度が濃く、時間のない中質問も多数出されていました。また機会があれば聞いてみたいと思う内容でした。ありがとうございました。