知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

特許法研究会

2ヶ月に一度開催される「特許法研究会」に参加している。地元の弁護士・弁理士で構成されるずいぶん古くからある研究会だ。

8月度の研究会は、お盆明けということもあって軽いテーマが2つ。関税法の輸入差止と、今年4月に出た最高裁判決「ナイフの加工装置事件」(審理を不当に遅延させる対抗主張(訂正審判の主張)による権利行使の制限)。

関税法の輸入差し止めは、専門委員として関わった弁護士さんの話。あまり関わることが少ない水際差止だが、平成18年・19年改正により、関税定率法でなく関税法内に輸出入の差止手続きが規定され、専門委員へ税関長から意見を求める規定ができた。

関税法では、輸出入してはならない貨物として、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、育成権を侵害する物品、不正競争防止法2条1項1号〜3号の行為を組成する物品が挙げられている。特許権者等・不正競争差止請求権者は、税関長に対して、そのような貨物に該当することを侵害の疎明をして申し立てることができる。

申し立てがあると、税関内部で侵害判断ができる場合(偽ブランド品など)は、そのまま内部判断で処理される。実際には、内部判断をするための弁護士(常駐なのか電話で飛んでくるのかはよくわからないが)が関与しているらしい。

侵害の疎明が十分かどうかの判断が内部で困難な場合は、専門委員(弁護士・弁理士)に委嘱される(弁護士2名・弁理士1名の3名構成が多い)。特許権・意匠権絡みの場合は、ほぼ専門委員委嘱になる模様。

申し立ては、侵害品の輸出入者(相手方)が判明していなくても行うことができる(相手方に反論の機会を与えなくても良い)。但し、不正競争行為の場合には、相手方に通知をする実務になっているとのこと。つまり、特許や意匠の場合には、相手方が判明していなくても申し立てを行い、専門委員が侵害だという意見を出してくれれば、そのまま税関長が受理決定をし、全国の税関に差止状が回ることになる。

弁護士としては、こんな相手方軽視の手続きでいいのかという疑問が大きいが、心証としては、中国からの偽者輸入ならこれでもいいか、という方向につい傾くらしい(笑)。今回のケースは、意匠登録よりも実際のモノの方に輸入予定品がそっくりといういかにも模倣品だったらしく、専門委員の中でもこれを侵害品とするかどうかは意見が割れたそうだ。不正競争防止法1項3号の申し立ての追加も考えられるが、その方法をとると相手方を特定して反論の機会を与える必要があるとのことでとらなかったらしい。

ということで、日本企業内の知財実務者としては、たとえば中国からの模倣品対策として水際差し止めを考えるのであれば、不正競争防止法の2条1項3号(デッドコピー)よりも意匠権の登録がある方が使いやすいと言える。やっぱり製品の寿命が短くても意匠は取っておいたほうがいいか・・・。

「ナイフの加工装置事件」は、訂正審判の請求と取り下げを繰り返してついに認容審決を手に入れたものの、審理遅延目的とされて上告が却下されたもの。弁理士としては、訂正審判は非常に厳しくて、なんとかぎりぎりで認容されるところを狙いたいわけで、それを探るのに請求と取り下げを繰り返すというのは、侵害事件で難しい場合であればなおさら実務的にはうなずけるところ。しかし、昨今の審理促進の流れの中では、このような厳しい判断になってしまうのだろう。

それにしても、上告は却下されたが、特許権は訂正されて生き残っているわけで、特許権者としてはこの特許権に基づいて新たな訴訟提起も可能なわけで。その場合の損害賠償請求は、今回棄却された訴訟の事実審の口頭弁論終結以降に限られるのか、もともとのものも対象にできるのか。今回の判決の既判力はどこまで??などという議論になったが、これは意見が裁判所によっても割れそうだという結論になった。

雑談に近い議論で盛り上がったが、このような他の弁理士・弁護士の現場の感覚を色々聞いておくのは大変参考になる。