知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

若手のギモン(4):出願関連書類の機密保持

若手3号君は、9月に部内移動で法務グループからやってきた。今のところ、技術担当ではなく、管理担当。要は、特許出願管理システムのお世話係で、そこから派生する諸々の特許事務管理をやってもらっている。急に案件が増えたので、色々なところが追いついていない上、日々発生するものだから、なかなかバックログが減らない中、頑張っている。

さて、社屋移転の際にも書類の収納スペースは減らされたし、第一法務知財だというのに鍵がかかるキャビネットとか人の出入り制限とかもまるでできない構造なので(これは転職してきてひどく吃驚したが)、できる限りデータの電子化を進め、書類は減らす方向に行っている。

そこで、特許出願に関連する書類のやりとりも、昔ながらのFAX送信から、ここ2年くらいで電子データ納品にしてもらっている。やり方としては、ファイル送信システムを使う(でじ便など)、電子メールにファイルを添付し、そのファイルにパスワードを設定する、の2方法を使っている。パスワードは、事前に取り決めておく。

先日、使用しているファイル送信システムがシステムトラブルで数日間使用不能になった。そこで、通常このシステムをつかって送受信している特許事務所との間でもメール送信に臨時になったのだが、その際、担当者によって、添付ファイルがパスワード付だったり付でなかったりしたため、3号君としては、統一的な取扱いでなくて良いのだろうか??とギモンに思ったようである。

そもそもメールベースで電子書類のやりとりをする場合、機密保持云々からパスワードなどのセキュリティ設定をしようと言い出すのは圧倒的に日本の場合。海外の代理人と直取引をするときも、彼らはてんで気にしていないことが多い。優先権があるから、ということもあるのかもしれないが、米国の場合だとグレースピリオドがあるために、事実上の公知状態になることについてあまり神経質になっていないのではないか、と聞いたことがある。

ちなみに、係争渉外系では、NDAを締結することは日常茶飯事にあるが、その枠内での文書のやりとりについて安全性を高めるためにパスワードを設定するなんてことはまず行われない。メールだと、誤送信のおそれも結構高いので、パスワードを設定してから送るというのはそれなりに意味があると思うんだけど、それはもう秘密保持義務の中で解決すべきことという割り切りがあるらしい。日本の代理人でも、ここは同様で、パスワードをつけてファイルの送受信をしたことはあまりない。

日本の特許出願の場合、出願前の原稿などが事実上漏洩してしまった場合でも、出願前公知で新規性喪失となるためか、特に特許事務所はここに気を遣っているケースが多いと思う。なので、メールに添付して電子データを送る形自体も事務所によっては『責任が持てない』と嫌うケースもあるようだ。クライアントがそれでOKであれば、とパスワード設定で了解してもらえるところの方が多いとは思うけれども。

それでは、無事出願が完了して、その後の書類についてはどうなのか。国内出願を基礎にして優先権を主張する場合の外国出願の原稿、拒絶理由通知やその応答案、その他諸々の関連書類など。結局は公開されてしまうものであり、既に出願が完了していれば、特に不利益が発生するとも思えない。処理の渦中では、念のためパスワードを、という気持ちもなんとなくあるけれど(誤送信防止のためも考えれば特に)、出願前と同等の注意義務?は要らないように思う。これが例えば公開前と公開後とで違ってくるかと言われても、あまり違わないような。

ということで、出願前のデータ送受信は厳重に管理する必要があるが、その後の書類については、それほど神経質に考える必要はなく、統一的な取扱いにさほど意味があるとは思えない、程度の回答をしたことだった。

考えてみれば、特許関係の秘密保持って、管理すべき期間が限定されているので、非常に楽だよね。営業秘密では秘密管理性がかなり厳しく見られるもんねぇ。とかついでに思ったりしました。