知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

どこまでOK?:回答編

さて、長文のメールを送った翌日、くだんの若手さんから返信が来た。

登録済のロゴからかけ離れたデザインだと、同一と見られなくなるリスクがあると思います。
同一と見られなくなる、ということは、「使用していない」として、
第三者から不使用取消をかけられるリスクが発生するということでしょうか。

商標法的には、ほぼその通り。登録商標との『同一性』が問題になるのは、不使用取消(国によっては登録維持に使用証明が必要な場合も含む)の場面。

同一と判断される範囲は類似と判断される範囲よりも狭いので、多少のデザイン変更をしたところで、いわゆる『禁止権』の範囲(登録済の商標に類似する範囲。他人がこの範囲を使えば差止めることができる)には入るのが通常で、それが他人の商標権の禁止権の範囲とさらに重なるということは(あり得るけれど)多くない。他人の権利との関係を心配をするよりも、自分の使う商標は登録済だと思って安心していたら実はそうじゃなかったという事態を心配すべし、ということですな。

とはいえ、マーケティング上の理由で、そのデザイン変更したロゴの方を自社のブランドとして、自社製品の信用を化体(かたい)させたいのであれば、そちらを使えばよくて、その使いたい商標の方を出願して登録に持って行くのが本来だと思う。商標は登録してあるものに意味があるのではなくて、そこに乗っかる信用を保護するためのものなのだから、『使ってなんぼ』であり、登録に縛られる必要はない。大体、今回の商標はまだ使用実績がなくて、とりあえず登録があるのでこれを使おうか、という状態なのだ。使いたい態様が決まれば、それにあわせて登録し直せばいいわけで。今登録があるもののデザイン変更程度であれば、問題なく通るだろうし。

そして、上記の回答に続けて、こうも書かれていた。

今後、商品やWebなど何種類ものパターンで展開すると、全部当社のものだとアピールできないのでは?と思います。
少なくともこの商標が広まるまでは、ロゴを統一、色を統一、レイアウトも統一と いったように、パッと見て、分かるようにする必要があるのではないでしょうか。

そう。そこが肝心で。不使用取消が云々という話よりも先に、使用態様を統一しておかないと、アイデンティティがぶれる。ロゴを、その場その場の販促上の都合でちょっとずつ変化させて使っていると、受ける印象が変わるので、『なんか違う』という感触に繋がり、下手をすると『偽物くさい』感じになってしまう。それでは例えばどこかで偽物が出たときにも、本物との距離感が出てこなくて、どうやってそれを止めるのだ、という話になりかねない。自分の首を絞める結果になる。

受ける印象を統一しておくというのは、とても重要で、それがその商品のイメージ、品質保証機能に繋がってくる。まちまちな感じや不揃いな感じを与えてはとても信用がおけるとは思ってもらえない。このような商標(ブランド)の使用管理は、デザイン面、マーケティング面からしっかり考えて方針を決める必要があり、それを法的に裏付けるのが商標登録の役割ではあるけれども、商標担当の機能からは少し遠くなる。商品を離れてブランド戦略やブランド管理はあり得ないので、デザイン、宣伝などに主軸を置いた全社横断的な組織をこれに充てることが多いように思う。正直知財でやれといわれても事務局の一部をするのが精々で、全部仕切れといわれるのは荷が重い。

残念ながら、発展途上の当社の場合、この手の管理をちゃんと組織的に行っているとは言い難い状況で、だからこそ発端の問い合わせが出てくるわけだけれども、だからといって、お客様に対して与える影響は変わらないので、その場しのぎにならないように、使用部門に対しては注意を促していく必要がある。時には、行き過ぎた態様変更に対して警告めいたことをすることもある。

とはいえ、権限があるわけでもなく、その国の実情にあったマーケティング上の必要性なんだといわれてしまうと、厳格な使用制限を通すのはかなり難しい。しかし、統一感のあるブランドというのは、やりすぎくらい厳格に徹底してようやく達成できるものだと思っていてちょうどいいと思うのだが。


というような状況の中、常に、問われたことに正面から答えることよりも、全体を見て目配りをする習慣をつけて欲しいと思うのだった。商標に限らず、どこに問い合わせをすればいいかわからない、その質問に答えてくれる部門が存在しない、ということは、悲しいかな当社の場合よく遭遇するのだから。そして、そういう考え方を身につけておくというのは、どこに行っても、どんな仕事をしても、自分の仕事の質を上げることに繋がると思うのだ。