知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

遅まきながら、弁理士の日 『弁理士にできること』

毎年7月1日は、地味ながら弁理士の日で、今年もドクガクさんから統一テーマの記事を書こうというお誘いがあった。結構前に誘われたのだけれど、ご案内のようなありさまで、とても決まった納期で記事を書く自信がなかったので遠慮させて頂いた。

案の定、今週に入って、予告なく喧嘩を売られて買う羽目になり、ドタバタしていたところへ他人が売られた喧嘩に引きずり込まれ(自分のだけでお腹いっぱいなのでそっとしておいて欲しかったよ)、の二重苦で、仕事も家庭も崩壊気味・・・。きっとお約束していたら悲惨な目に遭っていただろう。7/1は帰宅したら日付が変わっていたし。

ということで、期限が過ぎてから、気楽な気分でテーマに取り組んでみる。
今年のお題は『弁理士にできること』。これはきっと『弁理士でなければできないこと』とは違うのだろう。弁理士でなければできないことなら、答えは簡単で、弁理士法4条に書いてあるいわゆる専権業務で、ひとさまを代理して工業所有権関係の特許庁への手続を行ったり、これらに関する鑑定をおこなったりすることである。

で、私のように企業内にいると、代理業務をやることはない。稀に、勤務先会社の代理人となることはあるのだろうが、これも企業によりけりで、特にそうしなくてはならないというわけでもないし、訴訟などでは外部代理人を立てるのが普通である。

では、社内で何をやっているかと言えば、ふつーに、知財部員としての仕事であって、特に弁理士としてやっているわけでもなく、弁理士だからできる、というわけでもない。

先日、めでたいことに中途採用で弁理士資格者に入社してもらえることになり、現在わくわくして入社日を待っているのだが、この方、人事担当へ、『弁理士登録は継続しておく必要があるでしょうか?』というお問い合わせをされたらしい。人事向けには、『必要です。継続登録して下さい』と即答したのだが、世の中、特に弁理士資格なんて企業知財部勤務には必要ない、と登録自体させてもらえない(というか、自分で勝手に登録を維持するには月二万円の弁理士会費はキツイ)会社もあり、ご本人としては、登録の維持の必要性に疑問があったのだろうと思う。

また、現在の弁理士法では、弁理士は『資質の向上を図るための研修』(継続研修)を受ける義務があるのだが(弁理士法31条の2)、これは特定事由により『弁理士としての業務を行わない場合又は行わないと見込まれる場合』には、免除されたり軽減されたりする(弁理士法施行規則26条、27条)。弁理士会研修所では、このような免除・軽減の申請について審査をしていたりするが、時に企業内弁理士はそもそも『弁理士としての業務』を行っているのだろうか?という話になったりする。

もちろん、専権業務である代理はやっていないのは明らかなのだが、いわゆる相談業務にしても、『他人の求めに応じ』というのが前提になっていて、どうもしっくりこない。知財部の仕事って、別に、他人の求めに応じている訳じゃなくて本人業務だからして。

と、グダグダ書いているが、企業内で弁理士でいることに意味を見いだしていないわけではもちろんなくて、企業内の弁理士ができることとは、

他人を代理して業務を行えるほどの、他人のために相談業務ができるほどの、
高い知識と見識を持って、企業内実務にあたる

ことだと思っている。このためには、工業所有権関係の知識のアップキープはもちろんのこと、代理人業務を常日頃やっている弁理士の方々と交流してその考え方を知り、議論し、お互いに高めあっていくことが必須であり、その理由でもって、弁理士登録を維持していくことに意味があると思っている。登録の維持だけではなくて、積極的に会務や研究会などで交流の機会を持つことが重要とも言える。

工業所有権制度というのは、産業政策であって、制度趣旨から導かれる個別の規定があり、その上に権利が成立する。文言上、法律上文句の付け所がない状態であっても、制度趣旨から考えたら、『それはないんじゃない?』『そのやり方はありなの?』という実務があり得、そこは踏み越えてはいけないのではないか、この制度の一翼を担う弁理士としては。と思うことが(特に渉外系をやっていると)ある。抽象的になってしまうが、最後の一線というか、そこに踏みとどまることをよしとする矜恃を持っていたいと思うのだ。そこにも企業内で弁理士であることの意味がある、とぼんやり思っている。

生粋渉外系の知財人にも良心はあるのだ(というオチ?)。