知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

特許法研究会 2008年12月

2ヶ月に一度開催の特許法研究会。地元弁護士・弁理士がメンバーで、大体毎回20人程度の参加がある。発表は回り持ちで、大体弁護士と弁理士が交互にやっている。私が参加したのは3〜4年前からだが、いままで黙って座って聞いているだけだったところ、そろそろということで当番が回ってきた。

今回テーマにしたのは、これまで何回か研修にも参加して調べてきた本年6月の米最高裁判決、Quanta v. LG Electronics。特許消尽についての66年ぶりの最高裁判決である。方法特許が消尽されるとされたとか、特許の構成要件全部を満たさない製品を販売してもその特許が消尽してしまうとかいうことでずいぶん大騒ぎされたものである。

落ち着いてみると、その66年前のUnivis Lens判決を本件の事実関係に当てはめて結論を出しただけで判例の変更がなされたというわけではない。方法特許の消尽にしても、その方法が物にembodyされる場合には消尽するとされているだけで、すべての方法がすべからく消尽すると言っている訳ではない。消尽になじまない方法もあるだろう。また、特許の構成要件を満たさない製品であっても、その必須の特徴を備えていれば消尽するというのは、裏返せば、間接侵害を構成するようなものであれば消尽するということで、考えてみればごく当たり前の結論ともいえる。

最高裁が特許事件を取り扱うのは頻度が低いので、その間にCAFCが色々細かい要件を出して判例を積み重ねていくのだが、それが時に行き過ぎて硬直化するため、もともとあった古い判例を最高裁がよみがえらせるというどこかで聞いたような構図。特に、CAFCが特許権者寄りのルールを作ってきたところ、ここ数年、最高裁が行き過ぎた振り子を戻すような判断を示しているという一連の流れの中に位置づけられると思う。

今回も、CAFCの判例を正面から否定はしていない。また、条件付販売により消尽が制限可能であることは認められた。

ただ、実務サイドはCAFCの判例に沿って動いているので、今回の最高裁判決もKSR同様影響は大きい。方法特許が消尽する点、クレームのすべての構成要件を満たさない物の販売によっても特許が消尽してしまう点は、Univis判決そのままの結論だとは言え、これまでのCAFCに沿った実務ではなかったもの。

従って、Licensorが上流からも下流からも対価を得ようとすると、ライセンス契約上で明確にLicenseeに対して制限をかけることが必要になった。しかし、そのような契約上の制限があるかないかで消尽するか否かが変わってしまうというのは、取引の安全性という観点からはどうなのか、という疑問が出された。並行輸入の事件でライセンシーが製造地制限に違反して作ったものは商標権侵害になるという判決が出たときに、そんなことは購入者側は知り得ないのに、いかがなものかという批判があったのと似ている。このあたりは、もう少し裁判例の積み重ねを待ちたいところである。

アメリカの消尽論の場合、その根拠が、特許権者による対価の取りすぎ(Double Royalty)を許さないというところにあるので、ライセンスのスキームが「妥当な対価」であると認められる形態にする方向に流れると思う。上流からも下流からも徴収するが、どちらも安く設定している、という形になろうかと。実際、この判決後に提示されるライセンス契約案は、このような方向に流れているように思う。