知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

その分野の独自の用語法

共同発明の取り扱いに係る覚書を作ろうとしていて、事業部→法務Gへ契約書の作成依頼を出してもらい、ものがものだけに、対象出願の特許側担当が大幅に関与しているのだが、出てきた草案の用語法に違和感がたくさん。例えば、

・出願しただけの発明は『特許発明』ではない(特許法2条2項)
・特許の『使用』は『実施』の一態様に過ぎない(2条3項)。包括概念としては使えないし『使用許諾』はできない。
・通常実施権は『許諾』(78条)、専用実施権は『設定』(77条)
・特許出願に通常実施権の許諾はできない。通常実施権は特許権について(78条)。先般から特許が成立する前の状態にも同様のことができるようになったが、これは『特許を受ける権利』についての『仮通常実施権』(34条の3)。

全部条文上の用語法なので、きっちり特許法を見れば全部書いてある。一般の契約法務しかやったことがない人にとってはなじみがないので致し方ない面もあるのだが(初めてであれば)、それをそのまま通そうとするこっちの担当はどうなんだ・・・。と頭を抱える。

発明の取り扱いについて特許法上の用語に沿わない用語法をして契約すれば何かの時に疑義を生ずる可能性があるし、だいたいこの手の契約当事者はどちらも企業の知財部門でいわばプロ同士の契約な訳で、こんな状態で草案が出てきたら、素人だと思われてなめられること請け合いである。プロは用語のミスは決してしません。特に、知財職はこの手の細かい用語法にひっじょーに敏感なので(なぜかと言えば特許庁が敏感で、細かい差異を見逃してくれないからだ)。

反面、常日頃特許法自体を取り扱う必要がさしてない企業内担当では、特許法の条文を隅々まで読むなんてことはあまりない。このあたりは、代理人たる特許事務所にお任せしていれば事足りる。まあ、特許事務所からのアウトプットが正しいかどうかのチェック能力は備えているべきだとは思うのだが。

ということで、こうした基本的なところを押さえるスキルはどちら側がどうやって備えておけばよいのだろう、と思ったことだった。こっちがちゃんと押さえておいて、みっちりチェックを入れ、法務にもそれになじんでもらう、というのが王道なんだろうけどねぇ。普通に出願実務をやっているだけでは身につかないんだな、これが。基本やはり特許法で条文に帰るべきだと思うんだけど。受験生でもない限り、毎日条文を勉強する、とかやらないし、実務で必要になったときに条文読む程度では全体像とかその用語がなぜそういう風に用いられているのかとかは実感として理解できるようにはならないんだよね。

若手でなくてもギモンというところでしょうか。悩み深いわ。