知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中国特許制度研修:機能的限定のサポート要件の判断基準

先日参加した中国特許制度の研修について、順不同で印象に残ったところをメモ。

機能手段(機能部)を用いたクレームは、中国ではサポート要件違反の拒絶理由が頻発されることはご案内の通り。その根拠となる専利法第26条4項。

権利要求書は説明書を根拠とし、専利保護要求の範囲について明確かつ簡潔に要求を説明する。

この部分にかかる審査指南第2部分第2章3.2.1(抜粋)

権利要求書が説明書を根拠にしなければならないとは、権利要求書が説明書にサポートされなければならないことを指す。
 権利要求書の各請求項が保護を要求する技術方案は、当該技術分野に属する技術者が説明書に十分開示された内容から得られ、又は概括して得られる技術方案でなければならず、かつ、説明書に開示された範囲を超えてはならない。
 請求項の概括によって、所属技術分野に属する技術者が、その上位概括又は並列概括に包含される一又は複数の下位概念又は選択方式では発明が解決しようとする技術的課題を解決して同様な効果を得ることができないと疑う理由を有するときは、その請求項は説明書にサポートされていないと認定される。

特に、機能的限定についての部分が以下。機能的限定では、どうしても範囲が広くなるため、そのうちの一部が課題を解決しない可能性が高くなる。

 請求項に含まれる機能的限定の技術的特徴は、記載された機能を実現できるすべての実施形態をカバーしていると理解すべきである。
 請求項に限定された機能が、説明書の実施例に記載された特定の形態で完成されたもので、かつ所属技術分野の技術者が説明書に記載されていない他の代替的形態ではこの機能を完成できるかについて不明である、若しくは所属技術分野の技術者が該機能的限定に含まれる一種あるいは数種の形態でも発明が解決しようとする技術的課題を解決できず、同等な技術的効果を達成できないと疑う理由を有するときは、請求項にはこのような代替的形態あるいは技術的課題を解決できない形態をカバーする機能的限定を用いてはならない。

これをまとめると、審査官の判断方法としては、次のようになる。
1.まず、次の点を考慮する。
1)保護要求する技術案の解決しようとする技術的課題及び技術的効果
2)請求項に記載された技術案において、技術的特徴が奏する作用及び影響

2.そして、次のように判断する
1)請求項において技術的特徴により概括された上位概念に含まれる全ての方式(下位概念)を把握し、
2)それらの方式のいずれもが、実施例に開示された方式と同じ性質を有しかつ同じ技術的課題を解決できるか

その結果、
(A)全ての方式のいずれもが解決できる→サポート要件を満たす
(B)一部の方式が解決できない→サポート要件を満たさない

具体的に判断手法を聞いてみると、確かにそれではサポート要件違反が多発するはずだ、という感想を持った。講師の方によれば、日本のクレームドラフティングは、まず発明者の実施例を聞き取ってそれを上位概念化することによってなされるので、どうしてもその一部に解決できないものを含む可能性が高くなり、サポート要件違反とされやすい傾向にあるとのこと。これは、日本では発明=技術的思想であり、中国では発明=(具体的な)技術方案であるために起こるのではないか、との所感を述べられていた。それは確かにそうなのかもしれない。だとしたらどうすればよいのか、というのはまだ考えついていないのだけれども。

ちなみに、法上の発明の定義(第2条)は、このようになっている。

発明とは、製品、方法又はその改善に対して行われる新たな技術方案をさす。

これを受けた審査指南では、技術方案を以下のように定義している。

技術方案とは、解決しようとする技術的課題に対して、自然規則を利用する技術的手段の集合をいう。技術的手段は、技術要素を意味する。
 技術方案は技術要素から構成される。製品の発明であれば部品、材料、設備、器具、成分、形状、構造などを言う。方法の発明であれば、ステップ、過程、工程などをいう。技術要素同士の関係も技術要素である。製品、方法の改良も技術方案である。