知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

ドイツ特許訴訟セミナー:ドイツ連邦特許裁判所

周知の通り、ドイツは侵害裁判所で特許の無効を判断することができず、その判断を求めるには連邦特許裁判所に訴えなければならない。

ドイツ連邦特許裁判所は、ミュンヘンにあり、1961年7月1日設立。裁判官112名は、法律系と技術系に分かれ、前者が47人、後者が65人。裁判官を補佐する調査官とか専門委員とかではなくて、技術系のバックグラウンドをもった専門家が裁判官として勤務しているところに特徴がある。特許法の分野での実務的な経験が必要とされており、特許庁の審査官の経験者が多いらしい。

第一審の裁判所として特許無効訴訟を管轄するほか、特許庁の決定に対する不服申立を管轄する。いずれも上訴は連邦最高裁判所になされるが、不服申立からの上訴が法律問題に限られるのに対し、特許無効訴訟についての上訴は事実問題と法律問題の両面から行うことができるとのこと。

商標系の不服申立訴訟については、裁判体は法律系の裁判官3名で構成される。特許系の不服申立訴訟についての裁判体は、技術系の裁判長の下、技術系の裁判官2名と法律系の裁判官1名の4名で、特許無効訴訟については、法律系の裁判長の下、技術系の裁判官3名と法律系の裁判官1名の5名で構成される。

ドイツ連邦特許裁判所は、ドイツ国内で効力を有する欧州特許について判断する際には、特許生に関するEPCの規定(第52条〜57条)を直接適用するが、手続はドイツ国内法に従って行われる。また、EPOやEPO審判部の決定には拘束されない。

訴訟は当事者によって開始され、当事者が取り下げることができるが、裁判所は、当事者の主張した事実や主張に加えて職権で調査を行うことができるとのこと(まるで日本の特許庁のようだ・・・)。なので、技術系の裁判官が自ら調査して新たな証拠を見つけてくることも時にあるらしい。

特許無効訴訟の場合、必ず口頭審理が開かれる。一方、不服申立訴訟の場合、口頭審理は必須ではないが、当事者が希望すれば開かれることになっているため、大部分は開催されるとのことである。

特許無効訴訟の提起は、日本の無効審判と同様に、侵害訴訟への対抗措置として行われるのが通常である。侵害訴訟の被告としては、訴えられたら短期間のうちに無効資料を調査し、無効訴訟を提起し、それによって侵害裁判所の手続を中止するよう申し立てる、という対抗措置をとることとなる。

無効訴訟の手続きとしては、提訴から1ヶ月以内に特許権者は無効を認めるか請求に反論するかを宣言し、反論する場合には、次の2〜3ヶ月以内に反論を行う。その後原告被告間で数回の書面による主張がなされ、口頭審理の期日が1年の猶予をもって決定される。口頭審理の半年前には、裁判体から予備的評価が示されるため、それに対応して追加の書面や代替請求が許可される(1〜2ヶ月)。

このようなスケジュールで進んでいくため、どうしても18ヶ月〜24ヶ月の期間が消費され、8ヶ月〜16ヶ月程度で判決が出る侵害裁判所との差が問題となる。第一審の侵害訴訟で特許侵害・差止認容の判決が出た場合、特許権者は仮執行をすることができ、それに対して被告側が異議などで阻止する術はないらしい。但し無効の可能性もあり、まだ第一審であって確定判決ではないので、仮執行には銀行保証が必要とされたり、上訴審で破棄されたり特許が無効になってしまうリスクも抱えるので、特許権者としては差止め仮執行をちらつかせて有利な和解を目指すのが常道となるようだ。当然ながら、特許権者としては何を目的として訴訟を提起したのかによって取る行動は異なってくる。競合をビジネスから追い出したいのか、ライセンスなのかではアプローチも異なるだろう。