知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

商標勉強会2009年1月

地元弁理士有志で月1回、第三土曜の午前中に開催している勉強会。まだ私が登録したばかりの頃にもう存在したので、かなり昔から継続しているのだと思う。メンバーはかなり多いが、常時来ている人はそれほど多くなく、発表当番に当たるとあわてて顔を出す人もちらほらで、たいていは10人前後の開催になっている。

土曜日ということで、子どものあれこれとバッティングしたため、しばらく休会していたのだが、最近商標実務も増えてきたし、インプットの量と機会を増やしておく必要に迫られて復帰することにした。昔から、発表担当を2人置いて題材も2つ、それぞれ1時間程度で発表して議論という形だが、お題は色々変遷している。現在は、商標・意匠・不正競争判例百選から1つを選び、もう1つを自由に発表者が持ってくるという形になっているようだ。

今月取り上げられたのは、以下の2件。

A.商標・意匠・不正競争判例100選より「10 国際自由学園事件」
 最高裁平16(行ヒ)343平成17年7月22日 二小判決(破棄差戻) 解説
 原審は、東京高裁平16(行ケ)168平成16年8月31日判決(棄却) 解説

被告の本件商標「国際自由学園」に対して、原告が自己の名称である「自由学園」と類似するとして、商標法4条1項8号,10号,15号及び19号のいずれの規定にも違反して登録されたものと主張し、無効審判を請求したが、不成立に終わった。そこで、審決取消を請求したが、東京高裁(原審)においても、いずれの規定の違反に対する主張も通らなかった。

上告に対し、最高裁は、4条1項8号のみを取り上げ、全員一致で「8号の規定の解釈適用を誤った違法がある」として破棄差し戻したものである。この最高裁判断は、8号についての最高裁レベルの判断を示した点で意義がある。

とはいえ、原審の判断が、需要者を学生とその親に限定し、一般にかなり著名であった原告名称を需用者にとって周知ではなかったという判断に終始しているのは疑問が残る。ただ、学校関係は、全国に類似の名称が多々あるので、かなり狭く類似範囲が解される傾向にあり、それも仕方がないのかというところもあるのだが。特に全国的に著名な大学名を除けば、高校以下の学校名は地元では周知著名、他の地方ではさっぱり知られていないということがあるので商標法としての判断は仕方がないところがあるのかもしれない。

同種の事件に「呉青山学院」事件(解説)がある。この事件では、「青山学院」が周知著名性が認められ、差し止め請求が認容されている。
 
B.「DAKS事件」(商標権侵害事件)
一審:平成19年(ワ)第4692号 商標権侵害差止等請求事件 (大阪地裁)
控訴審:平成20年(ネ)第971号商標権侵害差止等請求事件 (大阪高裁)

昨年末に、控訴審判決がなされたもの。
事実関係はほとんど争いがなくて、通販業者である被告が韓国から売り込まれた偽物を買って販売していたというありがちな事案。判決文の中にも書かれているように、相当数の売り込みがあるようで、その1つ1つをしっかりチェックしていられないという事情がある模様。が、本件は品質がかなり低い粗悪品で、一見して偽物とわかるようなものだったらしい。

で、販売実績は95個で大したことはなく、財産上の損害は31万7234円。しかし、信用毀損による無形損害額が200万円、加えて謝罪広告が非常に広く認められていて、日経(全国版)、朝日(全国版)、読売(全国版)、毎日(全国版)、産経(全国版)、繊研新聞、日本繊維新聞。5大全国紙全てと専門紙。謝罪広告が認められることはそれほど多くなくて、認められても日経と専門紙1紙程度が精々という認識だったので、驚いた。被告(控訴人)によれば、これらの広告費用は約6000万円に上るらしい。そこまで行かなくても、全国紙に広告を載せるとかなり高額になることは確かで、この点については非常に厳しい判断となっている。

というのも、JASDAQに出したリリースで商標権侵害を否定したり、侵害に対する寄与は低い(仕入れ業者の提案に乗っただけだから)などと言明し、これがEDINETに長期間掲載されるなどという行為が反省の色が見られないとして心証を非常に悪くしてしまったという事情がある。控訴審でのこの謝罪広告は侵害品の販売の程度に比べて重すぎるという主張に対しても、控訴人が特にその他の信用回復措置を講じたという事実もないとして一蹴されてしまっている。

被告(控訴人)は、通販業者でWEB通販もしているのだから、媒体に謝罪広告を載せたり、WEBのトップページに謝罪広告を載せ、訪問者の目に必ず触れるようにするような処置(最近、家電メーカーがリコール品についてとっているようなもの)を自主的に執っていれば、ここまでの判決は出なかったと思われる。

偽物騒ぎはある程度の確率で起こるもの(被告が申し立てているとおり、相当数の提案があり、それを全件きっちりチェックするのは困難)なのだから、事前チェックが万全に取れないのであれば、事後の対応はきっちりするように社内体制を整えておく必要があると痛感させる事案であった。