知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

日米租税条約とLLC

昨今米国で特許侵害訴訟を提起してくる非事業系の会社(Non Practicing Entity: NPE)は、大半がLimited Liability Company (LLC)である。こうした会社と判決前に和解してそれなりの和解金を支払い、訴訟を終了させるということが多く行われるのだけれど、この場合の和解金は、たいていの場合過去の免責と将来のライセンスが分割しがたく含まれており、日本の税務当局の解釈では『使用料』に該当して、支払国である日本において源泉税の対象となる。

一方で、受け取り側の国(ここでは米国)では当然ながら所得や収益について当然ながら所得税等の税金が課されるので、二重課税を防止するために租税条約が二国間で結ばれており、軽減税率が適用になったり、種類によっては免税になったりしている。

米国と日本の間の日米租税条約は、2003年に改正条約署名、翌年発効になっており、使用料についての税率は、従前の軽減税率10%から現在は免税の扱いである。但し、この条約の適用を受けるためには条件がつけられており(特典条項)、その特典に該当することを証明する必要がある、という建付けになった。

要するに、二国間の租税条約を適用するわけだから、恩恵を受ける人はその国の住民に限定される。ついては、支払受領者が当該国の住民であることを証明しろ、ということである。従って、支払を行う前には、

・租税条約の届出書
・特典条項に関する付表
・居住者証明書

を税務署に提出しておく必要がある。

これが、通常の事業会社であれば、さほど難しくはないのだが、LLCの場合、通常パススルー課税が選択されており、税金を支払っているのはLLC自体ではなくLLCの構成員それぞれ。で、このような場合には、実際に納税をする者が誰なのかを明らかにして、その納税者がすべて当該国の居住者であることを証明して始めて特典を満たすことになる。以上について、ここを参照。

しかし、米国のLLCは、LLCの中の構成員としてさらに別のLLCという形が許されているらしく(日本ではできないらしい。某所でコメント頂いた)、Certificate of residencyをもらってみると、入れ子のように多段にLLCのオンパレードになっており、Tier1参照、Tier2参照、となって都合登場するLLCが5つ、等という例も珍しくない。そしてその中の構成員個人はあちこち共通していたり、家族ぐるみで構成員?と推測されるような例もよくある。結局個人に還元すると恩恵を受ける人?は25人だったりして。。。

こうした場合、租税条約の届出書本体に記入する『租税条約の適用を受ける者』はどの段階の誰を書いておけばいいんだよ、ということになるが、税務署に確認したところ、最終的に誰に何%、というところまで計算しなくても良いので、多段になっている形の全貌がわかるように、各段階での構成員を明示した添付資料の形で出して下さい、と言われた。支払先のLLCの直接の構成員の一覧とその持分割合、その中に登場するLLCの構成員の一覧とその持分割合、さらにその中に登場するLLCの構成員の一覧とその持分割合、という形で整理されていればOKということ。まあ、米国の居住者証明は、持分割合は明示されていないが、形としてはほぼこのようになっている(あまり見やすくはないけど)。

しかし、こんなふうに整理してきっちり租税条約の届出書を記入して出してくれとLLCに要求しても、なかなか複雑で理解されにくいため、修正修正の嵐でちっとも支払までたどり着かない。ということがわかっているのか、当初から

租税条約の届け出はしない。グロスアップでそっちで税金払っといて。

と交渉時に強く主張されることも間々ある。

いずれにしても、届け出を行って、免税の状態で支払を行おうと思ったら、支払期限のカウントスタートは、こちらがTax Documentsを必要十分な状態で一式受領してから○○日という形で定めておくのが肝要。期限が別途になっていたがために支払う羽目になってしまうと、受け取ったが最後、面倒な税金関係の書類の整備に協力してくれる見込みはほとんどなくなるので要注意。