知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

付記弁理士制度10周年記念シンポジウム その1

弁理士会の主催で、標題のシンポジウムが開催された。

『付記弁理士』というのは、平成14年(2002年)の弁理士法改正で、

第六条の二  弁理士は、第十五条の二第一項に規定する特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、かつ、第二十七条の三第一項の規定によりその旨の付記を受けたときは、特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができる。
2  前項の規定により訴訟代理人となった弁理士が期日に出頭するときは、弁護士とともに出頭しなければならない。
3  前項の規定にかかわらず、弁理士は、裁判所が相当と認めるときは、単独で出頭することができる。

となり、侵害訴訟において共同代理権が認められることになり、そのための試験に合格して登録上にその旨の付記を受けた弁理士のこと。これをどう呼ぶかっていうので当初色々喧々がくがくあったのだが、『付記弁理士』に落ち着いた模様である。とはいえ、『なんかおまけみたい』とか、『見ただけじゃ何のことかさっぱり分からない』という不評もあるようだ。

ちなみに、代理権が認められた「特定侵害訴訟」とは、2条5号に定義があって、

5  この法律で「特定侵害訴訟」とは、特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟をいう。

ということで、産業財産権が基本で、それに関係が深いところをプラスした格好で、著作権の侵害訴訟は入らない。

さらに「特定不正競争」は、その前の4号に定義があって、

4  この法律で「特定不正競争」とは、不正競争防止法 (平成五年法律第四十七号)第二条第一項 に規定する不正競争であって、同項第一号 から第九号 まで及び第十二号 から第十五号 までに掲げるもの(同項第四号 から第九号 までに掲げるものにあっては技術上の秘密(秘密として管理されている生産方法その他の事業活動に有用な技術上の情報であって公然と知られていないものをいう。以下同じ。)に関するものに限り、同項第十三号 に掲げるものにあっては商標に関するものに限り、同項第十四号 に掲げるものにあっては特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利又は技術上の秘密についての虚偽の事実に関するものに限る。)をいう。

なんだけど、これは要するに不競法を見ないとさっぱりわからないんだけど、技術系でない営業秘密とか、著作権系のものは除かれている。

元々、審決取消訴訟であれば弁理士は単独で代理権があり、侵害訴訟では、補佐人となることができたところに追加された業務ということになる。で、この共同代理権を得るために、弁理士に不足している民法・民事訴訟関係を補充した上で訴訟実務に関する研修を行うことによってその能力を担保し、かつ、試験を行う、という建付けになっており、「能力担保研修」と呼ばれるその研修は45時間、特定侵害訴訟代理業務試験(付記試験)は、合格率6割前後のようである(初年度の68.8%から低下傾向にある)。事例問題2つの論述式を1日かけて行う。

で、シンポジウムタイトルの通り、導入から10年たったけれど、利用の実態はどうなのだろう。現在、付記弁理士の数は2800名余だそうで、ざっくりいうと、弁理士の約3割が付記を受けていて、侵害訴訟の約3割に代理人として出廷しているらしい。裁判所から見ると、現在、特許侵害訴訟の大型事件については、ほぼ全件付記弁理士が関与しているとのこと。

私自身も、初年度に能力担保研修を受けて、付記試験をひーこらいって受験し、まあなんとか通って現在に至るのだけれど(名刺にも、弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)と書いている)、実際に侵害訴訟で代理人として業務を行った経験はない。10年のうち前半5年は特許事務所に勤務していたが、侵害訴訟に関与することはなかったし、後半5年は企業内弁理士であって、侵害訴訟は担当しているものの、それは会社本人としてであって、会社に対して代理権をもらって代理人として関与したことはない。

弁理士会は毎年付記弁理士に対するアンケートを行っているが、それによると、特定侵害訴訟代理人としての関与実績のある付記弁理士はかなり限られており、関与経験のない人が8割に上るようである。日本の知的財産権関係の民事事件は年間500〜600件程度であり、それに対して付記弁理士は2800人もいるわけで、かつ、通常は経験の豊富な方に依頼がいくと思われるので、致し方ない面があるように思う。

「訴訟代理人」としての関与実績という面では、あまり制度導入の大きな意味が見えないところがあるけれども、その他の点ではどうなんだ、というところをいくつかの切り口から引き出そうとしたというのがこのシンポジウムの狙いだったように思われる。

と、本題に入る前にえらい長文になってしまったので、エントリを分けることにする。