知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

AIA完全施行後セミナー その2

さて、標題セミナーの後半。AIAは、先願主義?への移行が目玉扱いされているけれども、特許訴訟という観点で見ると、特許発行後の見直し制度が大きく変わったことがとても大きい。これらは、(1)Post-Grant review (PGR)、(2)Inter-Partes review (IPR)、(3)Covered Business Method Patent Review (CBM):経過措置として導入され2020年9月20日に終了 に分けられる。

そして、PGRは、AIA後の出願日を有する特許の発行後にしか適用にならないため、まだ案件が発生していないが、IPRは、従前のInter Partes Reexamination(廃止された)に代わる制度として導入されたため、現存する全ての特許に対して申立が可能であり、既に174件の申立がなされ、34件の審理開始が許可されているとのことだった。

実際、Inter Partes Reexaminationの時代から、特許侵害訴訟における被告側の対抗策として重要なものであるため、昨今の特許侵害訴訟の多数提起の中では、既に活用されてきているということなのだろう。

ということで、とりあえず、現在すぐにも関係しそうなIPRについて。

1.申立権者:特許権者以外

 ただし、特許無効を訴訟で申し立てている場合はできない。すなわち、特許無効を理由とする確認訴訟を起こしている場合には、重ねてIPRを申し立てることはできないということ。非侵害の確認訴訟の場合はそのような制限はない。また、IPRを申し立ててから特許無効の訴訟を起こした場合(順序が逆の場合)はどうなるかといえば、訴訟の法が自動的に中止(stay)されるとのこと。

 また、特許侵害訴訟の被告が、確認訴訟を新たに提起するのではなく、counterclaimとして、無効主張をすることは、IPRの利用を妨げる理由にはならない。

2.申立理由

 102条(新規性)、103条(非自明性)で、特許か印刷刊行物を根拠とするものに限定。
 ※PGRでは、ここが緩和されているけれど、IPRはreexamination時代と変わらない、ということね。

3.申立時期

 PGRの対象となる特許については、PGR期間(特許発行後9ヶ月)が満了していなければならないが、PGR対象にならない現存特許についてはいつでもできる。

 ただし、特許権者が特許侵害訴訟を提起している場合、その被告は、訴状の送達(裁判所へのファイルではなくて)を受けてから、1年以内に申立を行わなければならない。

 ということは、特許侵害訴訟を提起された場合、早々に無効資料の調査を行い、IPRが利用できるかどうかを決定し、相当準備しつつかつ1年以内に申し立てしなければならないということ。これはかなりスケジュール的にはきついと思われる。(後記参照)

4.標準的なタイムライン

 (侵害訴訟提起)
  ↓
  ↓ 1年以内
  ↓
 IPRの申立
  ↓
  ↓ 3ヶ月以内
  ↓
 特許権者のPreliminary Response(任意)
  ↓
  ↓ 3ヶ月以内
  ↓
 審理開始許可決定
  ↓
  ↓ 3ヶ月以内  特許権者のディスカバリー期間
  ↓
 特許権者のResponseとクレームの訂正
  ↓
  ↓ 3ヶ月以内  申立人のディスカバリー期間
  ↓
 申立人のResponseとクレーム訂正についての反論
  ↓
  ↓ 1ヶ月以内  特許権者のディスカバリー期間
  ↓
 特許権者の訂正クレームについての弁駁
  ↓
  ↓ 3ヶ月以内
  ↓
 口頭審理
  ↓
  ↓ 
  ↓
 決定

 審理開始許可から決定までは1年を超えないこととされているため、申立から数えても18ヶ月以内には全てが完了することになる。

 ということで、ITCよりもひょっとすると迅速な手続きへの要請がきつく、かなりの覚悟が必要となるわけなので、申立をしてから色々検討する暇はあまりとれなくて、申立前にがっつりポジションを固め、特許権者の出方を予想して、数種類のシナリオを立てておく必要があるだろう。

5.ディスカバリー

 Inter Partes Reexaminationの時代にはなかったものとして、限定的ではあるけれどもディスカバリーが導入された。どの程度が認められるのかについては、訴訟並みの申立をしてみた先駆的な案件についての判断がなされている(IPR2012-0001)ので、ある程度明らかになったと言えるか。

 この判断については、ネット上でも既に(日本語でも)いくつか取り上げられている(IPR(当事者系レビュ)において、追加のディスカバリーが認められる要件IPRのディスカバリーってどうなのかな)ので、詳細はそちらを参照。

6.禁反言

 従前においても、Inter Partes Reexaminationを申し立てるかどうかを決定する際に最も悩ましかったのは、失敗した場合の禁反言がきついことだった。これは、IPRになってもあまり変わっていないように見える。特に、実際に主張立証したことにとどまらず、"reasonably could have raised during IPR"とされていて、この範囲がどこまで及ぶかによって影響の重大性は変わっているだろうけれど、これは決定やさらにその上訴が積み重なってこないとわからないのが正直なところ。

7.訴訟戦略として

 禁反言が恐いところはあるし、従前のInter Partes Reexaminationに比べて手続き費用が馬鹿高くなったという恨みはあるものの、地裁で無効主張して争うよりもPTABで専門家による判断が期待できること、訴訟に比べればまだまだ安いことから、IPRの利用価値は高く、今後も頻繁に利用されていくと思われる。日本での訴訟と無効審判と同じように、訴訟が起きたらまずその利用を考えるということになるんだろうな〜、と思っている。

 AIA導入後、被告に並べられるものの関係性に制限がかかり、グループ会社程度しか同じ訴訟の被告にはならなくなったけれども、結局同時期にいくつもの訴訟を提起してくるため、被告会社は従前同様Joint Defense Groupを結成し、特に無効資料調査や無効主張、IPRについては共同戦線を張って費用を分担することが通例である。

 今後も同様に実務は積み重ねられていくと思われるので、注視して行きたい(降りかかっても来るだろうし。。。)