知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

【研修】単一性とシフト補正の審査基準改訂

「発明の単一性の要件」、「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準がしばらく前に改訂され、本年7月1日から運用が開始されている。ということで、弁理士会主催の改訂審査基準についての研修に行ってきた。講師は弁理士会の特許委員会の委員の方。実務に影響が多大な改訂であることを反映してか参加者も多く会場はほぼ満席だった。

特許法37条(発明の単一性)は、要するに1つの出願にどこまで盛り込んでOKか、というか、どこまでなら1つの出願として審査をしてもらえるのかという話で、出願や審査の手数料や審査官の負荷と密接に関係するので、要件にバリエーションはあれど、どこの国でもこの限界を定める規定を特許法上に持っている。

日本の単一性要件は、その昔は世界一緩いと言われていたところ、平成15年(2003年)改正、さらに平成19年(2007年)のシフト補正禁止でえらく厳格化し、世界一厳しいと不満が噴出していたもので、今回の改訂により緩めるという形である。この緩々〜ガチガチ〜揺り戻しって特許庁はよくやるんだよね。補正の要件もそうだった(その昔は「要旨変更」でなければ何でも補正できたところへ「直接的かつ一義的」でなきゃダメと言いだし、すったもんだの挙げ句現在の形に落ち着く)。

今回の改訂は、産業構造審議会の審査基準専門委員会で検討されていたが、その第7回に出された特許庁提案が弁理士会と知財協の両者から反対にあってポシャった挙げ句第9回で再提案が出されて通ったとのことだった。特許庁提案がボツになるって大変珍しいことで、それだけ特許庁は抵抗したんだけど利用者サイドの不満が強かったということなのだろう。

ちなみに、某所でこの改訂について言及している英文記事を紹介頂いたのでリンクしておく。英文で読むとさらに理解が深まる、訳もなく、細部まで正しいのかどうか読んでもよく解らない(汗)。

さて、上記の通り、単一性要件は特許の実体的要件ではなくて要は審査の便宜のための規定であるため(だから拒絶理由では合っても無効理由ではない)、その取扱い方は大変マニアックというかテクニカルで、正面から審査基準を読んでも分かりにくいこと夥しい。これは説明を受けて自分なりに理解してから読まないと歯が立たない、ということで改訂報道は横目で見つつ、説明を聞く機会を待っていたのだった。

単一性要件の審査の流れとしては、ざっくり言えば、

(1)請求項1に特別な技術的特徴(STF)があるかどうかを判断
 ※STFの有無は、要するに新規性があるかどうかで決まる
(2)請求項1にSTFがない場合、請求項1とその他の請求項は単一性がない
 →請求項1は新規性違反、その他の請求項は単一性違反の拒絶理由
(3)といっても、(2)ではあんまりなので、一定の場合に限ってその他の請求項について実体的審査(新規性や進歩性の審査)を行うことにする

というもので、この流れ自体は変わっていない。(3)の「一定の場合」の範囲を少し広げた、というのが今回の改訂の内容になる。従前は、STFに基づいてこの範囲を決めていたのだが、改訂後は、STFに基づく範囲を少し広げるとともに、審査の効率性に基づく範囲の決定を加えることにした、ということである。

1. STFに基づく(実体的)審査対象範囲の決め方
(1)直列第1列の請求項について順にSTFの有無を判断する
 日本の特許出願はマルチ従属が認められているので、請求項2が請求項1に従属し、請求項3が請求項1又は2に従属するなら「請求項1に従属する請求項3」と「請求項2に従属する請求項3」が存在するわけで、

CL1-- CL2--CL3--CL4----CL5--・・・  (直列第1列)
    L CL7--CL8 L CL6
    L CL9

こんな具合になるクレームツリーの一番上を便宜的に「直列第1列」と呼んでいる(特許庁は「最初の1系列とか言ってるが)。で、請求項1にSTFがなかった場合、上の例だと次に請求項2についてSTFの有無を判断する。ここで請求項2にSTFがなければ次に請求項3,さらにそこにもなければ請求項4、と順に直列第1列を調べていく。

(2)STFが発見された場合の審査対象範囲
?ここまでにSTFがあるかないかを見た請求項
 上記の例で請求項3にSTFがあったとすれば、STF検査をした請求項1、2、3。請求項1と2はSTFがなかったという結果なのだから、これらについては新規性違反の拒絶理由があるということになる。
 これは、改訂前と同じ。
 改訂前は、これに加えて、STFが発見された請求項を引用する従属請求項までを範囲としていた。上記例では、請求項4,5,6までということになる。

ここからが、今回の改訂で変更(追加)
?発見されたSTFと同一のSTFを有する請求項
 STF発見請求項の従属項でなくても、同一のSTFを有するものであれば対象となる。請求項3がA+B+Cで、CがSTFだとすれば、A+B+C全てを有する下位の請求項4や5だけでなく、並列の請求項7がA+Cだとすれば、請求項7とその下位の請求項8までこの範囲に含まれる。というように考えていくと、どうやら、改訂前のSTFが請求項単位(=A+B+C)だったのに対し、改訂後のSTFは構成要件単位(Cのみ)に変わったのではないか、というのが講師の弁だった。

?発見されたSTFに対応するSTFを有する請求項
 「対応するSTF」の定義は改訂前からあり、(a)技術上の意義が共通又は密接に関連、(b)相補的に関連とされている。改訂で追加があり、課題(出願時に未解決である課題)が一致/重複が(a)に相当するとされている。
 ということで、上記例において、請求項9がA+C'(C'がCに対応するSTF)だとすると、請求項9も対象となる。

2. 審査の効率性に基づく(実体的)審査対象範囲の決め方
 上記のSTFに基づく審査範囲決定では大して広くならないということで追加されたのがこの「審査の効率性」に基づくものらしい。特許庁としては、利用者に配慮してできるだけ利用しやすい制度とするけれども、脱法的?に利用されるのは排除したいということで、原則としては相当広い範囲を審査対象としつつも例外として審査対象外になるものを定めている。

 基本的に、1で審査対象範囲に含めた請求項と纏めて審査した方が効率的なものは審査する、ということで、その例示として、(1)請求項1に従属する同一カテゴリーの請求項、(2)実質的に審査が終わっている請求項(調査範囲が変動せず、1の請求項についての審査の範囲に含まれてしまうもの)が挙げられている。

 ということで、基本的には無理矢理押し込んだものでない普通の出願であれば、ほとんどの請求項が審査対象とされるはずであるが、請求項1がだだびろで、まるで関係のないものを全部請求項1にぶら下げているような無理筋のものを排除するために、いくつかの要件が加えられている。が、長くなるので割愛。

 ちなみに、37条違反の拒絶理由通知は、審査対象外の発明(請求項)がある場合だけ発せられるとのことで、上記の運用だとほとんどの請求項が審査対象になると思われるため、37条違反自体がずいぶん減るだろうと予想されている。そして、その場合、どこにSTFがあるという特定もされない。新規性違反と進歩性違反が混在するだろうから推測はできるでしょう、ということのようだった。さらに、これまでよく行われてきた補正の方向性の示唆もなくなるらしい。

この後シフト補正についての説明が続いたのだが、長くなったので省略。というか、、37条の説明でかなり時間を取られてシフト補正の方は駆け足だったこともあり、あまり深く理解していないので。。。具体例がないと難しいということもあるし。なんだか尻切れトンボですみません。