知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

弁ク判例勉強会2009年3月

今月の勉強会は、判例70選より、冷却装置事件(P40〜43)。

実務家のための知的財産権判例70選 2008年度版

実務家のための知的財産権判例70選 2008年度版

拒絶査定⇒拒絶査定不服審判⇒拒絶審決⇒審決取消訴訟⇒請求棄却となった件。
特願2004-28401
【請求項1】
発熱部品に熱的に接続されたヒートパイプと、
ファンと、
前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した、またはダクトで連結されたフィン部を備える放熱部とを有しており、
前記ファンによる排気が前記フィン部を通過する方向を横断するように
前記ヒートパイプの放熱側が前記フィン部に接続されており、
前記ヒートパイプを含む放熱部の1部が前記ファンの空気吸い込み口より上部に位置している、冷却装置。

裁判では、引用例(特開平3-96261)との比較において、本願発明の「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」の解釈が争われたもの。原告は、本願では、ファンと側面とを並列させた状態が「近接した」だと主張したが、明細書の記載に基づかないとして採用されなかった。

図面を見ると、本願発明の技術的思想はファンと側面とは並列しているものであり、引用例とは明らかに違うことが見て取れる。また、発熱部品と放熱部とが離れて配置されているところにも特徴があり、引用例とは異なる。これらは図面から明らかなので、図面に基づいてクレームを補正すれば通ったのではないか、という議論になった。

どうも、本件は審判請求時に補正をしていない。審判請求時補正は制限が厳しいのであきらめたのかというと、上記のような補正はその制限の中でもできる範囲だろうから、そうでもなさそう。そもそも拒絶理由の応答時(審査段階)で、上記のような補正はしておくべきだったのでは。実施例に対してクレームが妙に広すぎるので、引かれる引例も広くなってしまってつぶれてしまったという感がある。

ひょっとして、審判請求時の補正の期限を徒過してしまったのでは?という意見も出た。確かに、審判請求の理由を補充する手続補正(方式補正)には時期的制限がないので、それは十分考えられる。審判請求の理由で、明細書の補正でやっておくべきだったことを述べ立てたりもしているので、実際そうだったのかもしれない。

本件は、代理人のない本人出願になっている。大企業だし、内部処理も慣れているはずなんだけど、手続瑕疵はなかなか治癒するのが難しいという事例だった。