知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

戦々恐々?:Acacia Research日本進出

4/28の日経新聞記事〔有料版〕に、「日本企業の休眠特許活用 米大手、売却元に収入分配」という記事があった。

記事によれば、

米特許管理会社大手のアカシア・リサーチが日本企業の抱える休眠特許の活用に乗り出す。電機・通信分野を中心に使われていない特許を買い取り、国内外で技術の供与先を探して利用料を獲得。売却元の企業には長期間、収入の一定割合を分配する。米大手の進出で休眠特許の活用に弾みがつきそうだ。

ということらしい。

にしても、「技術の供与先を探して利用料を獲得」って、凄く聞こえがよいが、要するに権利行使して分捕るってことである。

Acacia Researchは、米国でPAEがここまで盛んになるよりずいぶん前からライセンスビジネスを行っている古株?企業で、グループ会社も多い。目利きをきっちりやり、比較的しっかりした特許を使って権利行使を行うし、小金目当てのビジネスモデルではないから、安易な値下げや妥協にも応じない、強面?な、電機業界にとっては非常に嫌な相手なんである。

確かに、こうしたところに休眠特許を引き取ってもらって、権利行使を行ってもらい、後から取り分をもらうというのは、休眠特許に要した費用やその開発費用の回収という点では効果的・効率的であることは間違いない。

しかし、このような休眠特許を多く抱えているのは大手を中心とする電機系の事業者で、権利行使される先と大体重なってくると思うんだけどね。特許が「活用され」て資金が流動化すればそれでよいんだろうか??

2011年のFTCレポートでは、PAEのやり方の問題点はライセンスをすること自体ではなくて、既に投資を行ってしまっている状態の企業に対して事後的にライセンスを迫るところだとされていて、事前の技術供与を促進するべきだというトーンだったと思う。魔女のように太らせてから食べるのはイノベーションにマイナスということである。

一方で、事業会社としては、事前に特許調査を行っていて、関係しそうな特許が仮にヒットしたとして事前に自らライセンスの取得に動くかと言えば、そうとは限らない。回避できればするし、完全に回避できなかったとしても、無効資料が用意できないか試みる。それがなくても、非侵害の主張が組めればそれで良しとすることだってある。事前にライセンス取得に動くのは、どう考えても真っ黒で、かつ、回避するのが現実的でない(どうしても使いたい)場合に限られてくる。

権利行使する側から見れば、完全に黒だというところまで行かなくても、侵害の主張が組めれば行使に踏み切れるわけで、相手の主張によってその先は考えていけばよい。ということで、権利行使をされうる特許は事前に自らライセンスに動く対象特許よりも多くなる。但し、特許権者が必ず権利行使に動くわけではないから、その確率との掛け算になる。

さらに、分野によっては調査の精度も高くなかったり、特許の数が膨大で、一つの製品にスタックされる特許の全てについてライセンスを取得すること自体が製品のコストを考えると既に現実的でなかったりする。

とすると、よほど基本的な特許であればともかく、数多ある特許の中の一部について事前のライセンスというのはあまり積極的には行われないように思う(あくまで分野による)。

このような状況では、権利行使に積極的に動かなければ特許は「活用」されないのが当然である。これを活用して開発費用を回収しようと思えば、このような会社に任せることも許容されるべき、となるのだろうか。

どちらかというと、特許を数多く出願・権利化しすぎなんじゃないのか?と思う昨今なのだった。

ともあれ、米国と日本では裁判制度が大きく違うので、そうそう簡単に訴訟をライセンスの梃子には使いづらい。提訴の際に訴額に応じた手数料を支払う必要があるし、ディスカバリーはないし、訴状の段階で米国と比べたら相当細かいところまで書いておく必要がある。

という事情もあるので、Acacia Researchが日本進出しても、おそらく訴訟を頻繁に起こすというよりも、ライセンス・オファーと交渉を中心とするビジネスモデルになるのでは、という気がする。当然、一部は訴訟の場にも上がってくるだろうとは思うけれども。このあたりは、一足先に?同様のことを行っている欧州の特許管理会社、IPComのやりように似てくるのではないかという気がしている。

いずれにしても、どういう動きが出てくるのか、注意する必要がありそうだ。