知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

知財渉外に必要なスキル

部下の育成計画を考える上で、知財渉外のミッションとそれに必要なスキルを考えてみた。当社の場合、知財渉外といっても仕掛ける側は全くなくて、防戦一方なので、両方向では考えていない(ちょっと情けないが持ち球がないので仕方がない)。

知財渉外のミッション

発生した知財渉外(係争)案件について、
 (1)会社にとって最もよいと思われる解決策を組み立て、
 (2)これについて社内の承認を得、
 (3)直接・間接に相手との交渉に当たる。

ミッションの遂行のために必要なスキル

(a)解析Gからの技術解析結果を踏まえて特許の有効性と侵害論の強さを判断
(b)案件の事業への影響を計量
 (対象製品販売実績・予測の収集⇒ロイヤルティシミュレーション)
(c)解決策の妥当性について社内を説得
 (a)と(b)の組み合わせ、取りうる方策にかかるコストを勘案できるように提案
(d)外部の弁護士・弁理士に的確に指示する

渉外にやってきた社員の経歴によって上記スキルを持っているかどうか・どこが強いかは異なるので、育成計画も変わってくる。ちなみに私自身は、職業人生を渉外から始めたというわりと珍しいパターンである。新入社員をここへ回した意図は、海外案件が多かったので、(d)の中の英語のコミュニケーション部分を担当させようということだったらしい。

法務系から知財渉外に回ってくることもあれば、知財本流から渉外に来ることもある。初職の上司は後者で、同僚はどちらのパターンもあった。法務系からくると、知財特有の自社のポジション評価(上記(a))に苦労する。技術のバックグラウンドがないし、知財関係の法律や権利解釈にもなじみがないので、両方一度に身に着けるのはかなりハードルが高い。私もこれで、そこが自分で歯がゆくて、弁理士資格を取り、自分で明細書を書く経験を求めていった経緯がある。

知財本流から渉外に流れてくると、たいていの場合それまで事業的な側面に縁がないので、(b)は苦手。社内調整も苦手にしている人が割と多い。そして、海外案件が多いと、英語がネックになってしまい、(d)が辛い人が多い。転職とかで特許事務所から入ってくると、超絶に(b)や(c)は苦手な人が多い。まあそういう人材を渉外に持ってこようとは普通は考えないだろうけれども。

渉外のミッションで一番大変なのは、実は相手との交渉ではなくて、社内の説得である。日々渉外案件に接しているわけではない事業部門や経営層に納得してもらい、限られた時間枠で承認を得ていくのはなかなか難儀である。自分で会社にとって最適解だと考えていても、社内でそう考えてもらえなければ一歩も進まない。これで流れてしまうこともあるのだ。

そして、この社内説得のスキルを身につけるのが一番大変。どういう順番で育成していこうか。はて。