知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

特許事務所とのつきあい方

先日関西の某社の知財部長氏の話を聞く機会があった。

同社の出願件数が年間約1500件で知財要員が40人弱。普通で考えるとかなり少ない。少ない人数で達成するために、『質のよい丸投げ』をするようにしているとか。かつては同社もごく普通の?企業のように、出願原稿のチェックをする『赤ペン先生』をしていたらしいのだが、それではとても回らないということで、特許事務所にパートナーとしてもっと深いところまで貢献を求めるというか、外部にある自社の知財部の組織のようにしてもらうということだった。

個別の出願案件は、発明者と直接話をして、出願まで持っていく。知財部員は詳細のチェックはせず、最終的なチェックだけ。要は、知財部員が上司に報告をするように、特許事務所に報告をしてもらい、その内容に基づいてOKを出したりダメ出しをしたりする、ということのようだった。中間処理についても同様。調査についても、個別の案件は知財部員はやらず、外出ししている。

で、その分、中の知財部員が何をしているかと言えば、『もっと経営に近い、戦略的なところ』とのことだったが、具体的にどんなことをしているのかまでは言及されなかった。

という話を聞いて、常時リソース不足の自社に応用ができるのかどうかをつらつら考えている。個別の案件の明細書チェックをしないということは、ほぼ実務をしないということに等しい。明細書の作成を100%特許事務所に依頼している会社は(化学・医薬系以外は)多いと思うのだが、それ自体、自身で書いたことがない担当者が人の書いた明細書に注文をつけられるのか、その出来の評価ができるのか、ということが問題視されたりするわけで。それを補強するために、会社によってはわざわざ部員を特許事務所に出向させていたりする。

その上個別の明細書チェックすらしないとなると、例えば戦略の立案をしたとして、その実行たる個別の特許取得は特許事務所任せ、その実行が適切になされているかの検証をすることが、実務を行わない知財部員にできるのか??できないとしたら、検証も外注するのか?それで、戦略自体は立案することができるのか?そもそも知財で立案する戦略ってどんなこと?

言い古された感があるが、知財戦略は単体では意味がなく、その前に事業戦略があり、研究開発戦略がある。事業の方向が決まり、今後の技術の流れがあり、その中で自社のポジションをどう取っていくのか。知財戦略といっても特許、意匠、商標それぞれあるけれども、とりあえず特許について考えるとして、事業戦略と研究開発戦略の中で、自社が特許を取得する目的をどこに置くのか。その目的に沿って、どの国に、いつまでに、どのような特許を、どの程度のボリュームで取得するのか。

このような特許戦略は、ある程度の特許についての知識、特許制度の利用実態(成立についての一般的状況、無効審判・訴訟、権利行使と訴訟の状況等)についての認識があれば、おそらく特許の実務家でなくても(実務能力がなくても)立てられるように思う。実務を知らないで立てた戦略が実務から乖離していてうまく回らないという話も聞かないではないが、それは実務側からのインプットの精度と戦略立案側の消化の問題であって、実務能力が戦略立案能力の基礎になっているわけではないのではないか。

しかし、この立案された戦略に沿って、個別の発明についてどのような方向で権利化していくか、個々の集合体としての権利を特許の群としてどのように成立させるかというもう少し下のレイヤーの方針立案、また、それが適切に実行されているかの検証は、実務能力の裏付けがないと難しい。

要は、会社の中にどのレベルまで残して、どのレベルから先を外に出すのかという話で、ポリシーマターに過ぎない。経営に近いところで知財戦略を立て、実行部隊から報告を受け、検証も行ってその報告をうけて方向性に間違いがないように運営するのが知財部の役割と定義づけるのであれば(冒頭の某社はそのような形なのではないかと想像するが)、そういう形もありなのだろう。一般的な『知財部』と『知財部員』のイメージからはかなり離れるけれども、製造ラインを自社の国内工場で持つのか、海外でもつのか、ファブレスで外注するのか、という違いに通じるところがあるのだろう。

では当社はどうするのか、についてはまだ考慮中である。