知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

利害の一致と相違

訴訟にずらずらと被告が並ぶような場合には、よくJoint Defense Groupが結成される(その内輪ネタとして秀逸なのがこちら)。いうまでもなく、被告としては非侵害なり特許無効なりで勝訴するのが文句なし最大の利益で、これはどの被告でもまあ共通している。これを達成するための手段として、無効資料調査とか、クレーム解釈の提案とかがあり、共同で取り組んだ方が大抵の場合重複を避けて費用を削減できるので、そのあたりで協力するのが主眼となる。

とはいえ、米国での訴訟なんて9割以上和解で終結するわけで、訴訟の終着まで行かずにどこで降りるかということになれば、共同被告間でも得たいもの・得られたらいいもの・このくらいなら許容できるものといった幅が異なるから、そうそう共同で進められるものではない。ここへ来ると利害の一致より相違の方が大きくなるわけで。

このような利害の相違が導かれる最も大きい要因は、被告間での被疑製品の売上規模やシェアの差に起因することが多い。ちんまりした売上げ=微々たる損害額であっても、訴訟を遂行すれば同じように費用がかかるから、売上げが低いところは早々に退散したいばかりだし、大きな売上げをもっているところは、和解するにしてもなんとかして額を減らさなければならないから、それなりに有利な解釈が見えてくるところまでは引っ張りたかったりするものだ。


これは別に特許訴訟に限ったことではなくて、共同戦線を張って交渉事をしていれば、妥結を模索する段階になってその利害の違いが前面に出てもうこれ以上手を組めない、なんてことも起こるわけで。そしてその違いを相手方に突かれて戦線が崩れる、ということもまたあり得る。

いずれにしても、自方に取っての交渉幅がどれだけなのかを流されずに当初から見極めること、交渉の経過によってその強弱を見てそこに変わるところがないか見直すこと、どうやっても自方に利益のある形でおさまらないのであれば撤退することなど、冷静に考えて行動することが必須である。

もっとも慎むべきはプライドや感情がそこに入り込んでしまうことで冷静に相手方と自方の利益の考量ができなくなってしまうことだろうと思う。とはいえ自分が俎にのってしまうとそれは大変難しいのだけれど。