知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

警告状の差出人

弁理士会主催の『付記弁理士10周年記念シンポジウム』に行ってきた。

後半の部は、付記弁理士7人でのパネルディスカッションで、その中で、『付記(注)の前と後とで違いは?』という質問があった。(注)付記:特定侵害訴訟代理業務の付記が弁理士登録に付されること。特定侵害訴訟とは、特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争 による営業上の利益の侵害に係る訴訟。付記を受けると、特定侵害訴訟については、弁護士と共同であることを条件としてその代理をすることができます。

これに対して、複数の方から、いわゆる警告状(書状のタイトルは別として、権利者側から被疑侵害者に対して権利の存在と被疑侵害者の行為の権利との関連性を示唆してなんらかのアクションを促すもの)を発する際に、以前は弁護士法違反に当たらないかグレーだったために躊躇があった(実際弁護士さんから非公式に指摘されたこともあった)が、付記以後は迷いが無くなった(そのような指摘は一切なくなった)、という回答があった。

ああそういえば、昔はそんなこともあったなぁ、と遠い目をして思い出していたところ、コーディネーターの西野弁理士から、受け取った企業の立場として、

受け取った方としては、誰が出してきたかとかろくに見てなくて、中に書いてある特許番号だけ見てますんで

というなんとも豪快なコメントがあった(西野氏は、元企業知財本部長)。企業時代の訴訟経験は15件ほど、警告に至っては年間5〜6件というご経験だそうで、さすがに分野でシェア1位とかだと多いな〜という印象。

で、勤務先会社でも悲しいかな似たり寄ったりの受領数だったりするわけだが、やっぱり特許番号しか見ないのかといわれれば、いや、差出人が誰かもかなり気をつけて見ている。差出人が誰か(というか、どういうタイプの方か)によって、気をつけるべきポイントが変わってくるので。

差出人の種類としては、大別して、

1. 権利者本人(大手の知財部が多い)
2. 知財専門の弁護士
3. 弁理士
4. 知財は特に専門ではないだろう弁護士

に分けられる。そして、おおむねこの順で手強い(汗)。

1の権利者本人からの警告状に似て非なるものに個人発明家の売り込みめいた書状があるけれど、問題が異なるので、ここではそれは含まない。そうしたものを除けば、1.権利者本人からくるのは圧倒的に企業の知財部門長名で発される書簡が多くて、その内容も書かれているトーンも似たり寄ったりだったりする。大体において知財協に入っているので、その名簿から直接当方宛に書留とかで飛んでくる。まちがっても内容証明がいきなり来たりはしない。

で、書簡が届いたころを見計らってこれもダイヤルインで担当から電話がかかってきて面談のセッティングを強く希望される、というノリが多い。説明をお聞きするから始まって、がっつり特許議論をすることになり、なかなか逃がしてくれないし、そうそうフェイド・アウトしてもくれない、さらに代理人もつけたりしないので最前線を強いられることになり、大層消耗する。

2.と4.は、同じ弁護士さん名で来ていても、知財専門の先生方は母数がそれほど多くなく、弁護士さん同士がお知り合いだったりすることが多いので、たいていお名前から判明する。そして、慣れていない方は、中身の書きぶりも慣れている方とは一線を画すというか、書きぶりから『ああ普段はされていないのね』ということが大体分かったりする。

で、2.の先生方は、この手の紛争の解決の一番のプロフェッショナルなので、どの辺で落とせばお互いに合理的に納得して終結することができるかということを常に考えて動かれるから、おおむね初動の段階から道筋が読めることが多い。それが自社の有利になるかは別として、あまり不意打ちにはならないので、気を抜かずにきっちりとある意味粛々と対応していけば、リーズナブルな結果に落ち着くことが多い。もっとも安心して(というのも変だが)対応できるタイプである。

3.のケースは、ばらつきが大きく、その弁理士さんによる、というのが正直なところ。紛争系に慣れた方であればほとんど2.の知財系弁護士さんと変わらない感じになるが、いかんせん、慣れるほど紛争系の業務を数多くこなしている方は絶対数が多くない。このため、おそらく出願の代理をされている弁理士さんがクライアントに頼まれて出しているんだろうな〜、という感じの書状の仕上がりになっていることの方が多いように思う。そうすると、こちらとしては、定石通りに進まなくてあらびっくりということも時にある。

4.のケースは、シンポジウムでも言及があったが、中小企業の顧問弁護士であろう方から来るパターンではないかと想定され、セオリー通りの内容になっていないことが多く、まずはこちらから色々指摘して質問して、という順序になるが、正直なところ、何を求めておられるのかが書状からよく分からないことも多くて、シナリオが書きにくい筆頭である。