知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

付記弁理士制度10周年記念シンポジウム その2

シンポジウムは、基調講演のあとパネルディスカッションという形で行われた。基調講演は、知財高裁の飯村所長と弁護士の吉原省三氏(どちらも30分程度)、パネルディスカッションは付記弁理士7人によるもので2時間程度だった。

飯村裁判官の基調講演は、「付記弁理士の役割と期待」と題されており、飯村氏個人の感想に加え、地裁の裁判長に口頭でアンケートをとり、その結果を飯村氏の方でまとめたものについても取り上げられていた。裁判所の見方が率直に現れていて、非常に興味深かった。

特に、裁判所としては、事実関係を把握して和解的解決を目指し、さらにある程度の者を相手方にも与えることで再発を防ごうとするというマインドにあることが常であり、要するに紛争の解決をすることが目的であるのだが、付記弁理士が代理人として関与する場合に、どちらかというと自分側の勝利にこだわる傾向が見られ、妙に強気になったり、裁判所の訴訟指揮や相場観に鈍感になる場面がみられたりする、裁判所や弁護士との温度差が感じられることがあるということであった。

パネルディスカッションは、本音トークを引き出そうとするコーディネーターの意欲があり、別の意味で大変興味深く拝聴したのだが、弁理士だけでなく、裁判所やクライアント側の代表もまぜてディスカッションするとさらに面白いものになったのではないかと思われた(ハンドリングがかなり難しくなりそうではあるが)。

パネラーの付記弁理士は、いずれもそれなりに訴訟代理や紛争系の業務の経験が豊富な方々で、その経験から語られる付記周りの事実や事情は考えさせられるところが多かった。

侵害訴訟の場面では、クライアントによって期待される役割が大きく異なるようで、大企業の知財部が依頼者であれば、知財専門の弁護士が代理人としてつくのが通常であるため、この場合、付記弁理士が共同で代理人として入ったとしても、専門的な部分(技術面・特許商標等の専門マター)に特化することになり、これは補佐人の時代と役割としては変わらない。

一方で、中小企業が依頼者の場合、費用の面から知財専門の弁護士に代理を依頼するよりも、顧問弁護士に依頼する形がけっこうあるようで、そうすると、このような弁護士さんは通常知財には明るくないため、付記弁理士が主導して進めることになる。これは、弁護士に選任される補佐人であった時代とはずいぶん異なっており、形式的にも「代理人」であることが大きな意味を持っているとのことであった。

とはいえ、いろいろな場面で弁護士と協働していると、広い法律的視野(民法等を土台とする)からの発想の違いはやはりよく感じるところがあり、45時間程度の研修では全然足らない、弁理士用のロースクール1年とかが用意されてもいいのではないかという発言もあった。確かに、勉強会とかで弁護士さんと議論をしていると、そういう思いをもつことは多くあり、これは弁理士に共通する思いではないかと思う。紛争系を専門にするのであれば、もう少し素養が必要だと感じる向きは多いようで、最近、弁理士がロースクールに通って弁護士資格を取るケースがかなり増えているように思う。

権利化実務をやっている上で、訴訟になったときのことを考える、あるいは、訴訟から権利化実務へのフィードバックをするというのは非常に重要な観点ではあるのだが、そのために紛争の経験をするというほどの紛争の数はなく、付記をとっても実際の関与はないという現実がある。パネラーも口々に付記を取っただけではダメで、経験が絶対必要、でも経験を積むにも限界がある中で、裁判例の勉強は欠かせないということを強調されていた。

となると、しっかり裁判例の勉強をしてそれを実務にフィードバックできるようであれば、特に付記の資格自体はいらないわけで、実務でしっかり行いたい場合には、これからの若手はロースクールにいって弁護士資格を取ってしまった方が早道かも、とか思ったりして、ううむ、付記のこれからはどうなるんだろう・・。

秘匿特権との関係や、特にアジア系へのアピールの度合いは、ただの弁理士よりも付記弁理士の方が認められやすいという話もあったけど(実際それを期待して名刺に入れていたりもするんだけど)、実のところどの程度なのか、というのはばらつきがあるような気もしている。

まあそんなところで、色々考えたけど、あまり結論は出なかった午後だった。