知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

『5年後、メディアは稼げるか』

Google+で紹介されていた、こちらの記事を読んで興味を持ったのと、「今であれば、Kindleのセールでかなり安くなっています!」とに惹かれてそのままAmazonに飛び、Kindle版を購入、出張中の往復でほぼ読了。

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?

5年後、メディアは稼げるか――Monetize or Die?

上記の紹介記事でも引用されているように、紙のメディアとウェブメディアの違いをとてもわかりやすくまとめられていて、なるほど、と。例えば紙の新聞や雑誌はもう手元にあるからタイトルがどうあれとりあえず読んでもらいやすいけど、ウェブの記事はタイトルを見て面白いと思われないとチラ見すらしてくれない、ここは表紙のデザインで勝負できない新書のタイトルの付け方に通じるところがある、とか。

確かに、タイトルで記事は選んでしまうというか、選ばないと膨大すぎて読みたい記事が読めない事態に陥る。んでも、最近タイトルだけじゃなくて、リードの部分を見て中身を見るかどうかを決めたいと思ったりもしている。タイトルがいかにもの煽り系が多くて中を読むと期待はずれという割合が増えているんだよね。本当に興味が持てる記事なのかどうかが運次第みたいになっていてちょっと困る。そういう意味では、ニュースサイトのRSSフィードがタイトルだけって言うところが多いけど、リードの所まではフィードして欲しいと切実に思っている。

また、この本の中で、PV(ページビュー)の高低とARPU(一人あたりの収益)を軸にしてウェブメディアの4類型を作って代表的なウェブメディアをプロットしているのが興味深かった。4類型は、1)収益力の低いニッチメディア、2)収益力のあるニッチメディア、3)収益力の低いマスメディア、4)収益力のあるマスメディアとなり、日本のメディアの中で4)に位置づけられるのは、月間47億PVだという(!)ヤフーと日経のみ。

ちなみにウェブメディアの収益は、広告収入と有料会員収入が日本の柱で、課金の方法としては無料会員登録で上限記事数を設定し、その後は有料にする『メーター制』が定着した感があるようだ。それにしても、この会員登録なるもの、ウェブメディアがちゃんとまともな記事を継続的に提供できるための収益を産み出すものとして必要なんだろうけど(というのが本書でようやく理解できたんだけど)、なにしろ面倒なことこの上ない。登録の手間もさることながら、どのサイトでどういう登録をしたのかいちいち記録しているわけでもないので、読みたい記事の途中でここからは会員登録された方だけお読み頂けますと言われると、ログインの手間(というかIDとパスワードを探し出す手間)にくじけてそこで記事を読むのを止めてしまうことが多い。なんとかならないものだろうか、あれ。ユーザーに手間を強いるってどうなの、と思うんだけどなぁ。

順序が本書とさっぱり一致しないけど、感想だけメモっておくと、紙からウェブへのシフトについても書かれていて、その中で、最もウェブにシフトされやすい紙媒体は雑誌。新聞はウェブとの相性がよく、すでに若者はすっかり新聞離れしているものの、なにしろ日本の新聞は宅配システムが完備しているのでしぶとく生き残るだろうと予想されている。確かにねぇ。

それから、本については、最もネットの影響をいちばん受けにくいメディア、と言われている。確かに筆者が書かれているように、日本と米国では紙の書籍をめぐる状況にずいぶん差があるので同じようにはいかないと思うし、まだまだ電子書籍を読んでいる人は(スマホがこれだけ普及した現在でも)ごく一部の層に限られているとは思うけど、それこそジャンルによっては置き換わっていくような気もしている(ケータイ小説だってあるわけで、コミックやラノベは相性がいい)。

私自身は置き場所の関係もあってできるだけ電子書籍で購入するようにこころがけているけれど、ついつい本屋でみかけてその場で購入してしまい、あとから電子版が出ていて後悔することも多いのだが。冒頭の本書の購入経緯に述べたように、ネットで推薦された書籍をそのまま注文して読み始めることができるというのも電子書籍の良いところで、これが紙の本だと、電車を降りて本屋に行き、実物を探して購入し、しばらくの間持ち歩いて時間ができたときに読むか、Amazonで注文して翌日以降まで待つことになる。読みたいときに読み始められないので、本が手元に来たときには既に興味が他に移っていることも多くて積ん読の原因になることだってある。

ただ、電子版の不便なところは共有や貸し借りができない(しにくい)ところ。仕事で使う本とか、家族で回し読みしたい本とかには向かない。

本の感想から発展して自分の言いたいことばかりになってしまったが、本書自身は大変おもしろく、とても整理されていて頭がすっきりするし、今後についても考えさせられるので一読をお勧め。