悲しいかなそれなりの頻度で米国においてNPEから特許侵害で訴えられることが続くと、
という筋のものを相手にすることが間々ある。こういうものとえぇ〜、いくらなんでもこの特許でこの製品が侵害ってことはないでしょ?!
と思えるものとの差はどこにあるのだろう、という話になった。前者はよく"with little merits"とか"nuisance case"とか称される。そうでないものを、一応ここではreasonableと呼んでおく。まあ全面的に認めるわけではないけど仕方がないかもしれない
つらつら話をしていて、ファクター(というかリニアな話なのでスライダーかも)としては相互に関連するけど3つあるのでは、ということになった。
という3つである。2つだったらマトリクスにしてプロットできるんだけど、3軸だと図式化するのは難しい。(1)文言上直接侵害に該当するか
(2)その文言はoverly broadであったり曖昧だったりしないか
(3)そもそも発明の課題や目的が被疑製品とは全然違うところにあったのではないか
(1)文言上直接侵害に該当するか
(a)あきらかに構成要件が欠けている
ひとまず、そのクレーム文言の妥当性は脇に置いておくとして、素直に"plain and ordinary meaning"で読んだ場合、被疑製品がクレームでカバーされるかどうか、という話である。
侵害で訴えてくるんだからさすがにこの程度は充たしているでしょう、と思われるかもしれないが、ところがどっこい、構成要件の一部が明らかに欠けているなんていうケースもちょくちょくあるのだ(泣)。
PCに接続して使う周辺機器の使用方法についてのクレームで、構成要件の中にあきらかにPC自体が入っていて周辺機器を被疑製品にするとか。有り得ないでしょ。でもこの程度で直接侵害を言ってくるんですな、これが。クレームチャートを出させると、しれっとその構成要件はスルーしてたり。
(b)一応それっぽく揃えて見えるが中身は怪しい?
クレームチャートでは、一応element by elementで充ててくる。が、結構無理矢理感があり、『解釈』で押すにはちょっと無理があるんでは?と思われるようなケース。典型的には、インプットとアウトプットが共通していて、その間の処理を行うものが構成要素なのだが、ぴったり当て嵌まるものが特定できないため、インプットとアウトプットがあるのだから当然その中間のものは存在すると括ってくる。
技術の進歩によって発明当時の技術的な制約とか前提が現在では該当しなくなっているケースもあり、これの典型は当時ハードウェアだったものが今やソフトウェアになっているもの、半導体の集積化が進んで回路が複数で構成されていたのが1つのチップの中に全部入ってしまい、複数の要素がどれがどっちでという対応付けが困難なもの。効果が同じだから構成も同じ、というのは特許の充足論ではないよね、という。
ただ、後者のケースは、文言の解釈によってどちらにも転ぶ可能性があり、非侵害の主張の根拠としてはそれほど強くない場合もある。ここを巡ってclaim construction briefでの争点になることが多い。
(c)その文言が本当に妥当で有効だと仮定すれば充足
大変気分が悪くて認めにくいんだけれどという前置きをつけつつ、これが有効であれば入っちゃうよね、というくらい文言が「だだびろ」なケース。ここは(2)のスライダーとかなり連動する。残念ながらこのカテゴリーに入ってしまうと非侵害の主張自体は厳しくて無効主張とセットにせざるを得ない。
(2)その文言はoverly broadであったり曖昧だったりしないか
(a)preambleがきちんと入っていたり適切に修飾された文言が用いられている
特許である以上当然こうあってほしいところ。こうであれば、あまり解釈の余地が広くないので、争いになることは少ない。
(b)ごく普通の用語でとても"limitation"にはなり得ない
IT系、ソフトウェア系にはありがちなのだが、どうとでも取れるものすごく広い用語が用いられている。テクニカルタームが確定していないので仕方がない面もあるけれども、発明時の背景事情や技術的前提を全部とっぱらって純粋にその文言だけを見てみると、それは至極あたりまえの構成ではないでしょうか。というもの。
構成要素の数自体が少ないか、数が多くてもあたりまえの構成で埋めてあるだけでポイントになるところは非常に少なくて広い、などという事態になると、そりゃこれだけみたらすべての装置が侵害だよね、となってしまう。正直なところ、『USPTO、もう少しちゃんと仕事して下さい。』と言いたくなる代物である。
specificationに従ってクレームの文言を解釈していけば、適切なところに収まるのだが、それだと実施例限定になってしまい、争点となる。上位概念化というよりも限定を取り払ってクレームしているものだからこういう結果になるのだと思われる。
当然ながら、全ての前提をとっぱらって置いたクレームがそのまま成立するはずはないので、大方の場合、そのoverly broadな文言が発明時に認められる障害となるprior art(先行資料)はなにがしか見つかることが多い。あまりに当たり前でそれが明示的に書いてあるものを引っ張ってくるのに一苦労することはあるが。
あるいは、本当にその分野で先駆的な発明の場合は先行資料がなかったりするが、そうした場合は逆に発明時に想定していた環境・構成は現在の被疑製品の環境とはまるで異なっていることが通常なので、その当時に想定していなかったところまでその広い文言でもって概念に入ってくるからと言って充足性を認めて良いのか、という(3)のスライダーにリンクすることになる。
(3)そもそも発明の課題や目的が被疑製品とは全然違うところにあったのではないか
個々の発明は、固有の課題を解決するものであるから、発明時の文脈にある程度縛られる。それが、上述したようにクレームアップする際に、上位概念化というより単に限定の削除で持ってこられると、似てもにつかない、発明者は全く想定しなかったような製品までカバーするクレームが出来上がる。概念化によるある程度の広がりは当然予定されているのではあるが、構成が近いからといって、そこまで遠いものはどうなの、と思うことはしばしばある。特にIT分野は技術の進歩が速く、製品のライフサイクルも短いため、常識的な構成があっという間に陳腐化して行くため、こういう気分にさせられることが多いのかもしれないが。
こうしたことは、文言がとても広い場合で先駆的な特許の場合によく当てはまるが、そういうケースばかりでもなく、文言上はさほど広くない、妥当な用語である場合にも、構成だけ同じで課題も効果もまるで違うのでなんだか釈然としない思いが残る。
しかし、残念ながらこの(3)に該当するだけのケースは、技術者的には大変気分が悪いらしいが、 クレーム解釈でそこを納得させる根拠をもってくることが難しく、主張できる争点がここしかないというのはかなり負け筋だと言えるかもしれない。そういうことが自他ともに明らかになるまえに、とっとと和解したほうがいいかもね、となってみたり。まあ和解金の額にもよりますが。
とまあ、こんなようなことを考えながら(そして時に叫びながら)個別案件の方針を立案しているわけでございます。