知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

分解してみる

どうやら組織の統廃合で上司が替わる模様。いろいろ抵抗はしてみたんだが、なんだか結局だまし討ちのような目にあったあげくの結論なので、家に帰っても「気落ちした」とぼやいていたら、息子2号に、

裁判に負けたの?

と言われた。いや、それ違う。仕事で失敗したわけでもありませんってば。

で、ぶつぶつ怒っていたら、怒りは何の解決にもならないので原因を分解するべしと夫に指摘されたので、ジムでトレーニングしながらつらつら考えてみた。4つくらいに分解できそうだ。

1. 上司になる人の人柄とか仕事のスタイルの問題
 自分のストーリーに合うことだけ質問してそれに合う答えをもらうと話を切ってしまう。全体像を捉えようとしない。一旦説明したことでも、その場は聞き流していて後から問題が出てくると、「聞いていない」と宣う。これでは特に担当レベルは保たない。職場環境としてどうよ、という問題と、この人を説得するハードルの高さを思うとため息が出る。

2. 見ている時間軸の問題

 知財部門って、全社の中でもっとも時間軸が長い仕事を要求されると思うわけ。今出願することがすぐ実になるわけではなくて、数年かけて権利化して、大化けすることもあるけど、ものにならないことも多い。でもだからといって投資を惜しんだらジリ貧なわけで。正道的に言えば、競争力の源泉(付加価値)を形にしたものであり、今の時代多少の歪みはあるけど武器にも防具にもなるわけで、徒手空拳ではいずれ淘汰されてしまう。しかし、どれだけの人がその時間軸の長さを我慢して知財に投資できるのか。

 フランクリン・コヴィーの「7つの習慣」の緊急性と重要性のマトリクスで、緊急かつ重要の第一象限はみんなが取り組むし、そうせざるを得ないけれど、重要だが緊急でない第二象限はその後の成果を左右するのになかなか手がつけられない(緊急だが重要でない第三象限にひきずられる)、というのがある。まさにこれで、目の前の課題を片付けるのに一所懸命で、すぐ今年度効果が出ない知財への投資なんてなかなか理解されないのだ。

 知財のトップがプロパーでないケースは時々あるけど、よくあるのは研究開発畑からの転出組。事業部門の設計エンジニアよりももうすこしロングスパンで技術動向を考えて、実になるかならないかわからない研究や開発に取り組むことに慣れているので、知財の時間軸になじみやすいのだと思う。短期的成果を求められる部門出身の人が知財トップでは部下はやってられないだろう。

 で、今会社がここで組織統合の決断をしたということは、これまで手薄だったマーケットに参入して売上を上げるという至上命題があり、そこに事業リスクが噴出しているので、これに対応する体制が必要だと判断したということ。事業リスクがなぜあちこち噴出しているかと言えば、これまでの開発プロセスの問題とか、購買の方法の問題とか、知財をないがしろにしてきた結果とか、色々な積み重ねの帰着なのだけれど、いまそこにある問題を片付けなければとりあえず売上を上げるのはムリだろうという議論に引っ張られていると考えられる。

 だからといって、そこのリソース補完のために知財のリソースを充てていては、将来的には淘汰されてしまうと思うんだけどね。規模を大きくしたいのであれば、我慢してちゃんと並行して投資しないと目がないよ。そこが理解できる人材の不足といえましょう。そして、これを理解させるのに上司を通さなければ行けなくて、そのハードルが1の問題でかなり高いということ。

3.リソースの不足
統合により、重複していたリソースの使い方が改善されるのならいいんだけど、現状知財部内で色々兼務してリソース配分しているので、そこが崩れると、なかなか厳しそう。そこに1の問題で現有リソースの退職危機が予想されるだけに、かなり苦しい。

全社的に知財リテラシーがものすごく低いので、これを啓蒙してアイデア提案をさせて出願に持ち込んで権利化するというところにものすごく手間がかかるのが現状なのだ。よほどのリテラシーの高い会社だって、黙っていて発明がどんどん湧いて出てくるようなことはないんだから、今まで全然意識がなかったところへようやくやりましょうってなった状態の当社で手間いらずにできるはずもない。その手間が必要不可欠だということをどこまでわかってもらえるのか。

4.会社の将来に対する不安
将来の投資よりも目の前の売上を取るという選択にどうも見えるので、それが3のリソース配分に影響し、長期的な知財形成よりも目の前のもぐらたたきとなると、数年先まではよくてもそのさきどう考えてもいい目はない。というのをこれまた上司に説得できるかといえば、1に返るわけで。とほほ。


まあ、私の見込み違いで、ちゃんと話せば理解が得られるのかもしれない。将来の投資もしつつ、現在の問題に対処すると言うことができるのかもしれない。とりあえず、まともに話をしてみないと何も始まらない。のは確かなんだが。はぁぁぁぁ。分解したら余計憂鬱になったよ。

その先は、知財プロフェッショナルとして、こんな会社のこういう組織で働いていて楽しいのかというところに行き着いてしまうんだよね。