知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

ブログの移転について

本ブログは、2014年の9月をもって新規の記事更新を停止しています。経緯については、以下の記事にまとめました。

上記の記事も書いていますが、2014年10月以降は、以下の2つのブログにエントリをしています。よろしければご訪問ください。

 

手帳を4月始まりに切り替えた

8月も半ばになると、あちこちで来年の手帳の発売情報が聞こえるようになってくる。このブログでも手帳ネタは何度も繰り返しエントリしているのだが、私はここ8年ほどアクションプランナーを愛用していて、使い始めてから浮気はしていない(これは割と珍しい。..)。Weeklyのバーティカルタイプで土日が迫害されていない(スペースに差がない)のが一番のポイント。

Action Planner(アクションプランナー)

発売当初は1月始まりのみだったアクションプランナーに4月始まりが加わって、やはり年度で動くものが多いことから、切り替えたいと思いつつ、思いつくタイミングがいつも中途半端な時期だったため、ここまで1月始まりで来ていたのだが、今年は気がついたときに慌てて調べてみたところ、まだ2014年4月始まりのリフィルが発売中だった。

この期を逃してはこの先ずっと不便をかこつことになるだろう(大げさ)とばかりに、さっそくAmazonで注文し(思えばAmazonでリフィルも買えるようになったことも大きい。ダイレクト販売しか以前はなくて、送料を考えるとカバーつきの方がお得でなんだかなぁと思ってそちらを買ったりしたためカバーがずいぶん貯まってしまった)、8月まで使っていた1月始まり分からあっさり乗り換えた。

手帳って、ログにもなるから(と胸を張って言えるほどログめいた記録はしていないんだが。結局予定だけで実際どうなったかは書いていないもの)、と思って手帳を使い出した大学の頃のものから全部とってあるんだけど(これが相当な量で一体どうしたもんだか、と場所を取っている)、結局ほとんど振り返って見るようなことはなく、年の途中ではじまったり終わったりしていてもおそらく気にならないだろう、と今回は決断した。

ということで、購入して(さすがに多少手間がかかって面倒だったが)既に入っていた予定を書き写す。1月以降の予定も小さな欄から通常のスペースへかけるようになって大変快適。子どもの予定もさることながら、弁理士会や知財協といった外部団体系の予定は年度で動くのでしっかり書き込んでおきたい事情があるのだった。

ちなみに、カレンダーの3種同期運用は、一応なんとか継続しています。安心と信頼が第一です!

カレンダーが3つ - 知財渉外にて

秋になった

というエントリーを書こうと思いついてから既に2週間というのが情けないところなんだけれど。

通勤ウォーク

最高気温が30度を切ってきて、最低気温も10度台が現れるようになってくると、ようやく落ち着いて、というかあまり汗まみれにならずに行動ができるようになり、体力温存第一という夏モードから脱却できるようになるな、と感じたのが大体9月の半ばだった。

とすると、夏の間汗が酷いのでおやすみしていた通勤ウォークが再開できるではないか、と気がついて実際再開したのが18日。それでも会社に着くと汗ばんでいて、汗取りシートは手放せない感じではあるけど、全部着替えないと。。という感じにはならないのがずいぶん楽になったもの。

そして、朝の通勤ウォークは、3駅分3Km弱を30分かけて歩くので、割と難なく1日で1万歩を超えるのだった。これを毎日できる季節とできない季節ではそりゃ体調も変わってくるよな〜、としみじみ。

レコーディングダイエット

拝読しているブログのエントリで取り上げられていたため、「いつまでもデブと思うなよ」を読み直した(私にしては珍しく読後も保管していた)。読んでやっぱり食べたものの記録だよねぇ、と思ったものの、相変わらず続かない。Twitterでやっている方が多い「シンプルダイエット」のアプリを入れて、とりあえず毎朝毎晩体重と体脂肪を測っている。

まあ、確かに測って記録すると、間食とか夜食(というか、風呂上がりに飲酒)は目に見えて減る。宴会がなければこれだけでじわじわと体重は減っていく。ということが分かった。後は、通常の食事も超満腹になるまで食べないという習慣付けかな、と思う。

それにしても、改めて読んだ「いつまでもデブと思うなよ」に、太る人の習慣として、「満腹でなければ食べられるとして何かしら食べてしまう」という趣旨のことが書かれていたけれど、時々自分もこういう傾向が見られる。そこまで極端ではないにしても。

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)


最近Twitterで、食べてから3時間以内に感じる空腹は気のせいだとかいうのを見かけたり、空腹を感じたからといって食べないと活動ができなくなるわけではない、という記事を何処かで読んだりして、確かにな、と思ったりもしたのだが、若い頃に胃酸過多で胃痛持ちだった経歴から、空腹に対する恐怖感がなかなか払拭できなくて、この後しばらく食べられないということがわかっていると、その前に特に空腹でなくても食べようとするという行動が見られて、きっとこれも太る食習慣なのだろう、と改めて思ったことだった。

ともあれ、食習慣を客観視しつつ、体重も把握してじわじわとベスト体重に持って行きたい。ベストだった頃が15年くらい前に遡るというのが結構痛いが、体の軽さといい調子の良さといいやっぱりあの頃が一番良かったのははっきり覚えているので、戻したいところである。その途中経過で、半分くらい落とせたら、新しいスーツを買おう。。

行事のシーズン

さて、秋は行事のシーズンで、この週末は息子1号の高校最後の学祭だった。去年はなんとなく行きそびれたが、最後ということもあり、友人をさそって行ってみた。中高一貫校で、中学も同時開催、狭い構内に所狭しと企画が行われており、2日間で1万人の人出という規模らしく、天候にも恵まれて大変盛況だった。ステージパフォーマンスがなかなか見事で、とくに1日目最後を飾ったジャグリングは玄人はだしだった。あちこちで場数を踏んでいるらしく、舞台慣れもしている感じだし、見応えがあった。中学から6年間のジャグリング同好会の集大成なのかな。楽しませてもらった。

それにしても、男子校は、女装欲求?が結構高いらしく、女装ダンスのパフォーマンスもあり、セーラー服などを来て校内を闊歩している男子がとても多くて面白かった。息子によると、学祭中は女装者がとても多いらしい。。コスプレの一種なのね。で、女子のステージとかもないので、張り付いて写真を撮るような危ない方もいないからセキュリティもけっこう緩いんだね〜とは同行した友人の弁だった。なるほど。


ということで、9月が終わっていくな。。。

ゲームのルールが明確になった後は?

アップル対サムスン事件知財高裁大合議判決評釈など

アップル対サムスン事件の知財高裁大合議判決は、それはもうあちこちで取り上げられていて、既にかなりお腹いっぱい感がある。1つ前のエントリにも書いたように、昨日届いたLaw & Technology 65号には、名古屋大学の鈴木將文先生の判例研究が載っていた(55頁)。この脚注に、主な評釈等が挙げられていたので引用しておく。

中でも田村先生のNBLの連載は大作。。そして、この鈴木先生の判例研究、これ以外の脚注もすごく充実していて、押えておきたい論文が多く挙げられている。英語のものも多いので、全部読むのは大変そうだけど読みたい〜。

飯塚佳都子「判批」Business Law Journal 77号42頁
「知財高裁詳報」Law & Technology 64号80頁
田村善之「FRAND宣言をなした特許権に基づく権利行使と権利濫用の成否(1)〜(4)」NBL1028号27頁、1029号95頁、1031号58頁、1032号34頁、1033号以下掲載予定
田村善之ほか「座談会 標準必須特許の戦略と展望(第1部)アップル対サムスン知財高裁判決を読み解く」NBL1028号9頁
前田健「判批」法学教室407号46頁

鈴木將文「FRAND宣言がなされた標準規格必須特許に基づく権利行使(知財高裁代合議判決)」(Law & Technology P55)より

さて、この鈴木先生の判例研究の中で、本判決等の意義として、

第一に、必須宣言特許に基づく差止請求権および損害賠償請求権の行使の制限について、FRAND宣言の趣旨を踏まえ、かなり明確な判断基準を提示していること、第二に、FRAND条件によるライセンス料相当額(以下、「FRANDライセンス料」という)について、具体的な算定を行っていること、第三に、権利者により部品が譲渡された場合の、完成品に係る特許権の消尽等について判断基準を示していること

とされている。そして、第一の点について、

知的財産高等裁判所の示した判断枠組みは、一般論として、FRAND宣言がなされている事実が認められる以上、差止請求およびFRANDライセンス料を超える損害賠償請求は権利濫用として許されないのが原則であるとするものである。(中略)これは、個別事案における交渉の状況に基づいて初めて権利濫用を認定した東京地方裁判所と異なり、FRAND宣言がなされている場合には原則として権利行使を制限し、個別事案における具体的事情はむしろ特段の事情の認定の中で考慮するものである。

さらに、規格利用者にとっての意義として、

必須宣言特許につき、FRANDライセンス料を支払う意思があれば、当該規格の利用について差止めやFRANDライセンス料を超える対価支払いの請求を受けないことになり、ホールド・アップを回避できる可能性が高いといえる。(中略)知的財産高等裁判所の判断枠組みは、定型的・画一的で、法的安定性・予測可能性があり、標準必須特許の利用を促進する観点から、一層望ましいと考える。

とされている。一方で、特許権者の観点からとして、

FRAND宣言に関する問題として、特許権者の権利行使の過度の制限により、特許権者が適正な(FRAND条件による)ライセンス料を得られなくなる、いわゆるリバース・ホールドアップの可能性が指摘されている5)。しかし、知的財産高等裁判所の枠組みでは、規格利用者がFRANDライセンス料も支払う意思を有する者であると認められなければ、差止めが可能とされることから、実際の交渉において、規格利用者側に誠実な交渉を一応期待できると思われる。

とされている。

「規格利用者にとって」と「特許権者にとって」の意義

「規格利用者にとって」と「特許権者にとって」の書かれ方のトーンが如実に物語っている気がしなくもないが、どう考えてもこの判決は、規格利用者の側に強く配慮したものになって(おり、その分特許権者にとっては不利益が感じられ)いると思う。

しばらく前に本判決の損害賠償算定について書いたエントリでも触れたように、この判決で算定された損害賠償額は相当低い。それって、自社技術の標準化を目指し、その中に自社の特許を必須として入れることを目指してきた企業にとってはどうなのだろう、と思うところが多かった。

NBLの1028-1029号の座談会

冒頭でも一部引用したNBLの1028号と1029号では、「標準必須特許の戦略と展望」と題する座談会が掲載されており、第一部(1028号)が「ップル対サムスン知財高裁判決を読み解く」、第二部(1029号)が「産業の発展のための標準化を目指して --知財方・独禁法の交錯」である。メンバーは、田村善之教授、鮫島正洋弁護士、日立製作所 飯田浩隆氏、第二部では池田毅弁護士が加わっている。

座談会という性質上、メンバーの方々の率直な感想も含めて語られており、非常に興味深く読んだ。その中でも、上記した点について何度か話題になっているので引用しつつ考えてみたい。

結局料率は?

まず、本件判決では、実際の算定部分は伏せられているのだけれど、なにしろモノがiPhone 4等という超有名な製品なので、推定の売上も公開されている。ということで、この推定売上約4千億円から試算すると、損害賠償額の924万円を料率に直すと0.0023%となるとのこと。

やっぱり安いよね、という印象が裏付けられたという感じがしたが、そうはいっても、ここでの特許は1件で、UTMS規格の必須特許は529件あり、さらに、iPhone 4はUTMS規格の技術だけでできあがっているわけではないから、UTMS規格の必須特許全体のライセンス料率が全体で1.2%と考えるとそんなに低いとも言えない、と。要するに、必須特許の数が多すぎる結果、ということになる。

これについては、FRAND宣言下のロイヤリティレートがこのレベルだとなると、利用者側としては事前にライセンス取得のインセンティブは落ちる、製品を売りまくってからでも「誠実に交渉を継続」しさえすれば問題ないとなってしまう、という危惧が示されている。

なにが「合理的」なのか、という問題

一方で、ここ2年ほどRANDを巡るRoyaltyが世界的にホットになってくる前は、スタッキングの問題は認識されつつ、それを回避するための仕組みとして標準化団体にFRANDが導入されつつも、なにがreasonableなのかは結局わからない、例えば特許権者にとっては研究開発投資に見合った合理的なRoyaltyと言われてしまうと反論が難しい、という状況があった。

ぶっちゃけていえば、技術開発投資を行って、自社に有利な形で標準規格を策定し、それに必須の特許を山ほど入れておけば、標準で市場が拡大して必須特許からのロイヤリティで儲けたり、その分価格競争力をつけたりすることができる、特許はたくさんあって確かに積み上げていくとロイヤリティ金額は嵩んで大変かもしれないが、だって特許はそもそもそういうモノだし(投資をしたモノに見合ったリターンが合理的)、それがいやなら自分で開発投資をして特許権者側に回ればいいじゃないの持ってるもの同士は相殺できるんだからね、という感じではなかったか。

この点は、座談会の第二部の終盤に池田弁護士から『これまで標準必須特許の侵害で訴えられると、差止で事業を失うとか、3倍賠償で大変なことになると危惧されてい』た、という発言があり、そうそう、そうだったよな、と思ったことだった。

標準規格が増えてきて、そして必須特許の宣言をする特許権者も増えてきた結果、いよいよ個々の特許に(その投資に見合った?)合理的なロイヤリティを認めていては、その分野の産業は到底発達しない=利用者が現れなくなってしまう、という危惧がなされるようになり、こうしたロイヤリティ上限とかを持ち出した判断が相次いでいる、ということなのだろう(ざっくり言えば)。

規格利用者にとっての問題は解消

これまで、規格利用者の側としては、プールがあればともかく(そのプールも複数乱立してたりして、プールのスタッキングロイヤリティという問題もあったりするんだが)、山のように宣言されている必須特許を前にいわばびくついていたわけだけれども、鈴木先生が述べられているように(上述)、予測可能な枠組が提示されたことで、また、座談会の中で飯田氏が発言されているように、

規格利用者の立場からすれば、FARND宣言下の特許については、利用者がFRAND条件によるライセンスを受ける意思がある限り、差止請求は認められず、FRAND条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償が認められなくなったことから、ホールドアップ問題、累積ロイヤリティ問題はほぼ解消された

と言えるのだろう。

特許権者側は新たなステージに突入か

そして、特許を創出する企業の側としては、標準必須特許にする意味があるかどうかを吟味するステージに入った、ということになるだろう。

これまで、必須特許を持っている特許権者側は、パテントプールを作ってその普及をはかる、というのが成功モデルとされていたわけだけれど、ここ数年はプールの組成がうまく行かなずにぽしゃったり、逆に同じ標準規格について複数のプールが並び立ったり、プールのライセンス料も高すぎるとか言われたり、一部のライセンシーがロイヤリティをちゃんと払わない問題が出てきたり、とか問題が色々出てきていると理解している。

このあたりは、知的財産研究所の「パテントプールを巡る諸課題に関する調査研究」に詳しい。


必須特許宣言も吟味しないと意味がなくなる

現状、たとえばIEEEの802.11規格などでは、必須特許の持ち主は、Letter of Assuranceを出すことになっているが、そこでは『必須特許を持っています』宣言がなされるに過ぎず、その中で個別の特許番号が特定されるケースの方が稀である。

これまでは、必須特許は多ければ多いほどよい、くらいの位置づけだったし、そもそもこれではいったい必須特許がどれくらいの数存在するのかすらわからない(そして無線LAN分野ではパテントプールの組成がほとんど失敗していると言ってもよい状態なので、必須特許判定もごく一部に限られ、ほぼなされていないに等しい)。

これでは特許の価値判断なんて覚束ないわけだけれど、本判決が出て、判断の枠組が示された以上、こんな大量の特許を必須としてFRAND宣言していたのでは取り分は少なくなる一方だから、よく考えて宣言書を出すという行動に変わってくることが予想される。

必須特許とその周りにある競争力ある特許(周辺特許)

このあたりについて、座談会で池田弁護士が、

今後、論点になりそうなのは標準必須特許の周辺の特許、いわゆる商業必須特許など、いろいろな呼び方はありますけれども、とにかく規格の外縁に特許をできるだけ置いていき、そこはFRAND宣言していないのだと主張する。これに対してライセンシー側は、これらの特許も事実上ライセンスを受けないといけなくなるのだから、それはFRANDの効力なり趣旨なりが及んでいるのだという議論が出てくるのではないでしょうか。あえて標準必須特許にせずに、ぎりぎり外に置くというものが増えてきて、そこが今後は結構問題になってくるのではという印象はあります。

と発言されている。対して、鮫島弁護士が、

事業戦略的に考えると、仮に標準化して市場が一気に広がったとしても、それは多くのコンペティタが参入するということを意味しますので、その拡張した市場の中でシェアが1%くらいになってしまったら、標準化は事業戦略的にはまったく意味がなかった、ということになります。そこで標準化により市場を広げて、なおかつ、その拡張したひろい市場の中で一定のシェアも確保したいと考えた時、シェアをとる手段として、必須技術とまではいえないけれど競争力のある技術にかかる特許をFRAND宣言をしないで残しておくのです。(中略) そういう戦略の見通しが立てば標準化をしても企業は儲かるわけで、ロイヤリティに関する実施料率が仮に大幅に下がったとしても、拡張された市場規模でシェアを維持することによる売上増大のところで稼げると見込んで標準化するのだと思うのです。

と言われている。

現実に、ライセンス交渉の実際において、このような必須特許と周辺特許を組み合わせるということは行われているし、必須なのかどうかが争いになる局面というのもあったりするのでここはとても頷けるところ。

オープン&クローズ戦略

要するに、はやりのオープン&クローズ戦略なのだが、具体的にクローズ化する分野をどこに設定するのかが最も難しく、キーポイントとなるわけで、座談会でも、日立の飯田氏から、

標準規格の利用者の立場からすれば、クローズ化された技術がなければ標準規格が十分に利用できないとすれば、標準規格の魅力は減少します。そのため、標準規格の利用者の利益を害するような方法で周辺技術をクローズ化するのは、法的リスクを抱え込むだけではなく、事業戦略としても適切ではないと思います。

という発言がなされている。

明確になったゲームのルール

そして、この後、飯田氏からは、本件判決によって『ゲームのルール』が明確になった、として評価される発言が続いている。

そう、ゲームのルールが明確になった。そして、そのルールによれば、FRANDに特許を(考えなしに)大量にぶち込んでいても儲からないということが明らかになった。

ということは、標準規格回りでビジネスをしようと思ったら、そうでない儲け方を考えなくてはならなくなったということで、より洗練された特許の取り方、標準との関連づけの仕方が追求されるようになるだろう。

規格利用側としては、もちろんルールが明確になって安心できるようになったのは喜ばしいけれど、今後はそういう特許権者側の振る舞いを予想して動いていく必要があるな、と思うのだった。

規格中のオプション部分についても必須でよいのか?

このように考えてくると、規格のうちでoptionalな部分についての特許をFRAND宣言するのは不利なだけで意味がないことになりそう。

しかし、標準化団体のIPRポリシーでは大抵mandatoryもoptionalも両方必須扱いなんだよな。この関係ってどうなるのだろう、と思ったりする。

インプットまつり

毎月20日前後というのは、お仕事系雑誌の発行が集中していて、前回のエントリでいうインプットのカテゴリに入る「参考文献読み」に迫られることになる。

知財系

・知財管理 毎月15日
・パテント 毎月15日
・知財ぷりずむ 毎月15日
・月刊発明 毎月1日・・・これだけ月初め

法務系

・ビジネス法務 毎月20日
・Business Law Journal 毎月21日
・国際商事法務 毎月15日
・旬刊商事法務 毎月5日・15日
・NBL 毎月5日・15日


そして、今月は、それに加えて季刊誌であるLaw & Technologyも発行されてさらに凄いことに(汗)。

まずは読了すべし

どの雑誌もとりあえず私の元に最初にやってきて開封の儀?の後でメンバーに回覧に回す(知財系は知財メンバーに、法務系は法務メンバーにが原則だけど、知財法務系というのもあるので、これは適当に役立ちそうな記事を特定メンバーにだけ回したりする)。ということで、私のところで停滞するとタイムリーな記事が皆さんに読んでもらえなくなるので、必死こいて数日内には読了するように(読み飛ばすともいうが)心がけている。

ということで、月半ばの東京出張には雑誌を持参する頻度が増えるのですな。先週の出張時には重い〜とぶーたれつつ、3冊をカバンに入れて、行きの新幹線で読了し、東京支店から社内便に乗せて本社に返送(これが使えるので多少重くても持ち歩く。読み終わったものを持って歩くほど重いモノはない)。

定期購読しているものは

さて、上記雑誌は、ほぼ会社の経費で購読しているのだけど、これまでの経緯で自腹になっているのがBusiness Law JournalとLaw & Technology。この2つに共通するのは、知財系雑誌と言い切れないけれど、時々はずせない記事が掲載される、というところで、そういう号だけ入手するのは結構面倒、でも経費で買うほどの名目が自分の中で立たなかった、ということ。目次だけウォッチングするのも難しいし、そうそう書店に頻繁に言っているわけでもないので、ネットの知財法務クラスタの発言とかから知るという結果になり、かなり入手が後手に回って悔しかったりする。

そういう点では、NBLとか国際商事法務もそうなのだけれど、さすがにこの2つは法務系の記事が圧倒的に多いので、以前に法務を唆して?年間購読させたという経緯があったりする。こうしてみると、初職の頃、どちらも部門で購読していたのは技術法務という機能を始めた自負があった上司の意気なのだろう、と思ったりする。その頃の自分には、どちらも難しすぎて読むのに苦労した覚えがある。

こんなことを書いたのは、今回(65号) のLaw & Technologyに載っている鈴木將文先生の「FRAND宣言がなされた標準規格必須特許に基づく権利行使(知財高裁代合議判決)」について感想を書こうと思った前振りのつもりだったのだけど、なんだか妙に長くなってしまったので、とりあえず前振りだけで終了(汗)。

読書環境について #WRM感想

WRM 今週のQ

愛読している@rashita2さん(倉下忠憲さん)のメルマガ「Weekly R-style Magazine」の今週号のQが、

Q.考えうる限りで最高の読書環境について教えてください。

だった。そして、著者としては、

私は東京→京都間の新幹線の中が真っ先に思いつきました。

だそうである。

書店のカフェが至福

つらつら考えていたのだけど、私が至福に感じる読書環境としては、

1) 大きな書店に併設されたカフェで
2) 美味しいコーヒーを飲みながら
3) 帰る時間をまったく気にせずに読書に没頭できる

というところだろうか。この3)は自分の方の制約なので置いておくとして(とはいえ、これが一番実は難しかったりするのだけれど)、1)と2)が充たされた素晴らしいカフェが地元にあったのだが、書店&カフェが入っていたビルの建て替えで閉店されてしまい、至極残念。

書店に併設されていて、勘定前の本が読めるという環境は、モントリオール時代にChaptersという書店の中にStarbucksが入っていて驚愕した(本にコーヒーこぼしたらどうしようとかえらくドキドキした)のが初めてで、帰国してから少しずつそういうところに遭遇するようになって(でもさほど普及していない印象)、とても嬉しいのだけれど。

絶対買って帰る本、というのは置いておいて、ちょっと読んでみたい本、というのは色々あるので、それを立ち読みしていると足が棒になりすぎるので、座って読めるのはとてもありがたい。というか、これがないと書店に行く楽しみが半減するのだけれど、暇と体力がどんどん落ちているのでカフェがないと書店に行かなくなるんだよ。。ベンチだけじゃダメなのだ。ベンチってすぐいっぱいになって座れないしさ。

で、この結果、やっぱり買いたい本を決定して、お持ち帰りするのが醍醐味かと。

新幹線の中では読書じゃなくて文献読み

ところで、倉下さんの挙げられた「東京→京都間の新幹線の中」というのはどうだろう?と我が身に照らして考える。毎週毎週新幹線で東京に向かっているのだけれど、ここの中というのは、私にとっては『読書環境』というよりも『文献を読む環境』なんだよな、と思ったことだった。やってることは文字を読んでいるわけで、あまり変わらないんだけど。

私のタスクリストのリピート設定には、『読書』と『参考文献読み』の2つがあって、前者は『楽しみ』のカテゴリだし、後者は『インプット』のカテゴリに入っている。読書で読むのは自分が読みたい本で、コミックやラノベからビジネス書や自己啓発本まで色々だけど、まあ読みたい本である。対して、『参考文献読み』で読むのは、仕事関係の、いわば「読んでおかなくちゃ」と思う本や雑誌。代表的なのは、毎月の法律雑誌の記事で、これに知財法関連の書籍とかが加わってくる。1つ前のエントリで書いた租税論の本たちもこれ。もっと仕事に近くなると、特許公報読んでたりもする。

で、こうした文献類は、早く読んで血肉にしておきたいから読了メモとかも残しておきたいんだけど、自宅でゆったりビーズクッションに座って読もうとすると(あ、これが読書環境として2番目。そして現在1番が欠番なので繰り上がって1番)、ほとんど間違いなく眠くなるので進まない。かといって、仕事の文献だからと言っても業務時間中に読む時間はなかなか取れない。とすると、最適なのは移動中の車中なのである。他にすることもあまりないし、不思議にここで読んでいてもあまり眠たくならないので、たいてい予定分だけ読了することができる。ついでにメモを取ったりすることもあるけど、そこまでやると車酔いすることが傾向として多いので、読みっぱなしになる方が多いのが玉に瑕。

と、ここまで書いて、読了メモが進んでいないせいでエントリにできていない記事があることを思い出した。。。励みます。

追記

倉下さんに拾ってもらってエントリに引用頂きました。が、その後で、こちらのブログを引っ越してしまったので、リンク切れの羽目に・・・。ごめんなさい。

R-style » 私の最高の読書環境

税の話

今年度の外部団体活動でのお題が『税』に絡むものになっているのだけれど、これまでなんとも断片的にしか関わっていないので、全体像がさっぱり把握できていない。ということで、そもそもの基本に立ち返るための書籍を探して探して買いまくって読みまくった、というのが数ヶ月間の活動だったりする(私的に、ということだけどね。もちろん。活動自体は進行しているので)。

色々試行錯誤しているので、せっかくだから読んだものを上げておく。書評ができるほど読み手に力がないのでリストアップだけになるのが残念なところなんだけどまあ現状仕方がない。これまでのかかわり方と言えば、海外への使用料の支払の際に直面する租税条約に関する届出とか、海外の子会社とのやりとりで発生する移転価格税制の話をかじっただけとかに過ぎないので。

租税法の基本書

存在するのが当たり前で、なんだか『持って行かれるもの』としてあまり印象の良くない『税』だけれど、そもそも税って何?いつからあるの?というところに正面から答えてくれるものがあまりなくて苦労した。検索がうまくなかったのだろうけれど、当初は『租税法』の本にばかりヒットしてしまったので、そのあたりの説明は一応あるものの、あまり詳細ではないし、どうしても現行法や今の租税条約の枠組みを前提とするものになっているし。

とはいえ、以下の2冊は初心者にはとても分かりやすくてお勧め。特に国際租税法では、国内法と租税条約の関係がさっぱり理解できていなかったところ、すっきりしたし、いつも面倒で仕方がなかった特典条項の位置づけとかもよくわかった(面倒には変わりないけどさ)。

租税法入門 (法学教室ライブラリィ)

租税法入門 (法学教室ライブラリィ)

国際租税法 第2版

国際租税法 第2版

租税論

で、色々見ていくうちに、どうやら、経済学(経済政策)の方に『租税論』というのが存在するらしく、『租税論』とかで検索すると、わりとそもそも論にヒットしやすいということが数ヶ月かかってわかったのだった(汗)。

そのなかで、最も全体像がつかみやすくてかつ読みやすかったのが、こちらの本。

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

この第一章で紹介されている広辞苑によれば、租税とは、

国家または地方公共団体が、その必要な経費を支弁するために、法律に基づき国民・住民から強制的に徴収する収入

ということである。すなわち、租税は国家の経済活動を支える財源を提供する。また、租税の規模やそのありようが異なれば、国家のあり方も異なる。

ということで、租税が大きな問題となってきた戦費の拡大の時代(フランス革命、アメリカ独立戦争、30年戦争などなど)まで遡って説き起こしている。なにしろ副題が『租税の経済思想史』だし。主には欧米での流れが書かれていて、日本についてあまり触れられていないので、多少物足りないなぁ、と思っていたら、あとがきにまとめられていた(ちょっと驚いた)。

比較的新しいので、ほぼ現在の状況を前提にして書かれているため、読んでいて安心感もある。(状況が異なるとその間の流れを自分で補足する必要があるので)

今回『税』などに手を出す?首を突っ込む?ことになっている切っ掛けは、例のパテントボックス税制なんだけれど、この手の税制が何故出てきて、どんな効果が期待されていて、それを他の国はどう見ていて、ということを考えようと思うと、税の全体像やら歴史の理解は不可欠ではないか、と思った次第。そして、もちろん租税が国家の支出を賄うものである以上、課税権は一国の中にしか及ばないのだけれど、ここで経済はどんどんグローバル化しているため、そこにせめぎ合いが生じているというのが近年の傾向なのだな、とものすごくざっくり理解した。

経済のグローバル化と税

というあたりを補うために、同じ著者が編著者となっているこちらの本も読んでみた。少し前のものだし、こちらは上記の書籍とことなりしっかり学術書なのでかなり読み飛ばしたのだけれど(汗)。

グローバル時代の税制改革―公平性と財源確保の相克 (MINERVA現代経済学叢書 106)

グローバル時代の税制改革―公平性と財源確保の相克 (MINERVA現代経済学叢書 106)

この本の12章が『経済活動のグローバルの進展と法人税-EUレベルでの法人税調和にむけた試み-』となっていて、主題はEUの話なのだが、その前提としてのグローバル化と税の関係についてのまとめが大変参考になったので、少し長めにまとめつつ引用しておきたい。

国境を越える貿易や金融資本取引などの資本移動を制約してきた規制が、1970年代以降、継続的に撤廃もしくは緩和されてきた。また、輸送や情報技術の発達に代表される技術革新も、めざましい速さで進展している。これらに基づく労働や資本、財サービスの異動の自由度の上昇は、それらの国境を越えた移動量の増大や経済活動を活発にし、企業活動の多国籍化や世界経済の統合を促している。このような現象は、一般に経済活動のグローバル化と呼ばれている。

この経済活動のグローバルとその進展を、法人税の観点から見よう。法人税は、企業の経済活動の成果である法人利潤を課税対象とする資本所得税の一つである。そして、経済活動のグローバル化は、企業の国境を越えた経済活動の活発化をもたらすと同時に、外国現地法人や支店を通じた法人税課税ベースの国境を越えた移動を可能にするという側面も持つ。一方、法人税の課税権は一国を課税管轄権として行使される。そのため、通常その権力の及ぶ範囲は国境を超えることができない。その結果、企業の経済活動の実態と法人課税権の行使の実態に乖離が生じている。さらに、各国は異なる歴史的、社会的、政治経済的背景や構造を持ち、国民の選好も異なる。それらを反映し、法人税の基本的な考え方は共通していても、各国の政治過程を経て洗濯される租税構造や法人税率、法人税課税ベース算出方法、税務会計制度は異なる。

その結果、法人税がクロスボーダーで経済活動を行う企業等に影響を与える。負の影響(法人税障壁→課税後の法人利潤の減少→経済成長や雇用創出への負の影響)としては、1)特定の所得に対する国際的多重課税←国際的な課税権の衝突、2)ある国で発生した損失とそれ以外の国で発生した利益との国際的な相殺ができないための追加的租税負担、3)各国の(異なる)租税法に準拠して納税を行うためのコンプライアンスコスト負担の増大、などがある。

さらに、各国で異なる法人税は、経済的要因よりも租税要因(租税負担最小化)に基づく企業行動を誘発する→法人税が企業の意思決定に非中立的→非効率な資源配分を招く

節税行動と租税政策

うすぼんやりと理解したところでは、租税というのは、もともとは国の支出を支えるために徴収されるのだけれど、それが強制的に行われるが故に、徴収される側としてはより少なくなるようにしたいというインセンティブが働く(節税、Tax Planning)。

ということから、租税は中立的であるべき、というポリシーはあれど、どうしても人々(特に企業)の行動に影響を与えてしまう。であればいっそ?租税を利用して一定の行動を引き出すような制度を作ってしまえばよいのではないか、というのが租税政策(かなり乱暴に言えば)。

とはいえ、(企業誘致のためなどの目的で)これをやりすぎると、他国から資本が集まってきたりして他の国から批判される、という構図になるのかな、と。

かのパテントボックス税制(イノベーションボックス税制)も、EUで倫理的に拙いのではないかという問題提起がなされているという話で議論中らしく、これって企業を元気にする?ための施策の一つとしてどうなんだろう??と思うところなのだった。


※ところで、本エントリに適切なカテゴリがなくて、しかたなく「知財全般」に入れてしまいました。全然関係ないけど。。