知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

知財の利回り

有楽町の三省堂書店で見つけて購入した『知財の利回り』を読了。

知財の利回り

知財の利回り

Intellecual Venturesは、創立の頃から知財業界の注目を集めており、創立者がマイクロソフトやインテルの出身者だったこともあり、いったい何がしたいのか、それこそベールに包まれていて、本書にもあるように、新たなトロールなんじゃないかという憶測があったりしてかまびすしい。というか、今でもそう思っているヒトが大半なのではないかと思う。

本書は、そんなインテレクチュアル・ベンチャーズの実態に迫る試みでかかれたものであり、同社が生まれた時代背景や現代のイノベーション、製造業の実態等、各種の情報から解き起こそうとしている。それでもやっぱりまだ実態は明らかになっているとは言えない。同社があまり広報をしていなかったり、実績がまだ明らかになっていないことから仕方がないんだろうけど、パテントトロールの新型なのか、まったくあたらしい知財ビジネスなのか(同社自体はそう言いたいみたいだけど)、やっぱりよく分からないというのが正直なところ。とはいえ、これだけの周辺情報をひとまとめにしてくれているので、頭を整理するのにはよかった。

パテントトロールの被害甚大な業界としては、巨額の資金を集めて特許を保有するIV社は、注目の的と言うか目の上のたんこぶというか喉に刺さった骨というか、非常に動向が気になる存在。少し前にも、ついにIV社が特許訴訟に乗り出したのでは?という憶測記事が出ていた。実際は直接訴訟をしたわけでもなく、何らかの関連があったんじゃ?と言われただけのようだったが。

同書の中にもどなたかの発言としてあったけれども、ファンドが実績を挙げられなくなって、保有特許から資金を調達せざるを得なくなったとき、現在のパテントトロールのように、訴訟をテコにしてライセンス料や和解金を得るという手っ取り早い方法を取るのではないかという懸念がある。

それはひとまず置いておくとしても、目利きを集めて課題を提供し、大学や研究所の研究者に提示してアイデアを募り、発明を生み出していくというスキームは、研究者サイドに立てば非常に刺激的で面白いのだろうと想像するが、これが本当にイノベーションにつながるのかどうかどうもよく分からない。大学発の発明が事業化されるにはかなりの谷だか海だかハードルだかがあるわけで、この発明のところだけを厚くしてそれを権利化して守ることがイノベーションを促進し、産業の発達に貢献するとはあまり思えないのが正直なところである。

発明を特許化することによってアイデアが見える化され、万人に示すことができるようになるのは確かなので、それを一社で独占するのではなく、特許プールの形でそれこそオープンに開発が進められ、事業化につながっていくのであれば、歓迎できる形なのかもしれない。しかし、その道具として、排他独占権である特許がふさわしいのか?特許の特性上、IV社が囲い込みをしようと思えばできるわけで、それに警戒感を覚えている向きが多いと言うのが現状なのだろう。

同書のインタビューの中で、橋本一仁氏の発言として、

ひと言でいえば、研究者のネットワークです。世界中の優秀な研究者をその人の専門だけでなく、違った分野にもつないでくれる。声をかけられた研究者は知的好奇心をくすぐられ、ネットワークのなかにどんどん入ってくる。研究者といっても、ネットワークを構成するのは彼らの頭脳だから、それが外に向かって広がりながら全体の輪がますます大きくなっていく。しかも、その後ろにビジネスがつながっているから、研究者はいやでも熱心に取り組もうとするわけです

とあった。

この発言、特に、『知的好奇心をくすぐられ』のあたりを読んで、Linuxなどのオープンソースソフトウェアの開発を連想した。ソフトの開発は開発投資が殆どいらないので知的好奇心の赴くままにソフトウェア技術者がどんどん入っていくことができるわけだが、投資の必要な研究開発ではそうはいかない。そこを、資金を投入してやらせてくれるということであれば、確かに研究者にとっては魅力的な環境と言えるのだろう。

やっぱり問題はそこからどのように事業化につながっていくのか、それをIV社がどう考えているのか、投入した資金の回収はどうなのか、ということになってくるのだろう。

確かに面白い試みだとは思うので、願わくば前向きな形で成功して欲しいと思う。お願いだからカネが底をついて訴訟という安直な流れに与しないで欲しいもの。