知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

当事者感

およそ交渉ごとというのは時機が重要である。これは担当したことがあればもちろん、想像でも分かって頂けるのではないかと思う。知財渉外ももちろん例外ではなく、今この時期に手を打てば、好条件で和解なりライセンスができるというオファーはよくあるし、それを見極めて動くのが肝要である。

そして、特に海外企業を相手にしていると、この「時期」のスパンが日本企業の常識をはずれてタイトなのが普通である。2週間で契約して1ヶ月以内に払ってくれればこの条件で出しましょう。なんていうことはざらで、向こうは2週間も猶予を与えたんだからとてもgenerousだと自己評価していたりするわけだ。

しかし、日本企業にいてこの手の交渉を妥結してその場で契約する権限が与えられている交渉者なんてあり得ない。妥結権限があったとしても、契約締結に社内稟議は必須だし、場合によっては役員会決議事項だったりする。そして、あまりなじみのないこの手の話に納得してもらい、稟議承認を取って契約にサインしてもらうには、それなりに手間暇がかかる。

直接現場に出ているこちらからすれば、ここで手を打つのが常識だと思ったとしても、それを根拠づけて説明してGOと言わせなければ行けない。そのためには、外堀を埋めるべく、種々の資料を用意して、それなりのストーリーを準備して行く。通常の業務スピードでそれをやっていては間に合わないのであれば、向こうが要求しているスパンにあわせて(もちろんこちらができる限りの努力をしており、締結に前向きであることを示して可能な限りの延長をはかるわけだが)、社内調整を早回しして、必要なら役員回りをやって、なんとしても間に合わせる必要がある。

社内のあれこれがうまく回らなくて時間が足らなくなりそうになると、担当レベルでは結構嫌気がさして、会社としてなにが最適なのかという視点でものを考えることを止めてしまいそうになる。自分に権限が与えられていないことで自分が消耗するのがかなわないというか、それは権限をもった人の責任でして欲しいというか。

ちゃんと説明しているんだから決めて欲しい。決めてくれなくて間に合わなかったら、それで会社に負の影響があったとしても、自分の責任じゃない。

というところだろうか。

とはいえ、会社にとってなにが最適かというのは、現場でことに当たっている担当あるいは担当の直接の上司レベルが一番分かっているはずで、その感覚を肌で分かっていない役員クラスに通り一遍の説明で決めろというのは無理がある。時機を得た形で完遂に導くのは、担当の責任だと思うわけ。自分に権限がないのであれば、上司を動かして権限がある人を動かすべきだと思うんだが。

どうも、そこまでしない担当者も多いようで。それだと重要なことは全部上司任せになるし、だとすれば、細かいことから全部指示を仰がなくてはいけないわけで、そういう仕事のやり方をしていたら、いつまで経っても担当止まりだとも思うんだけどな。

というようなことを思う出来事があって、同僚に、

当事者感が足らないんだよね。

と言ったら、

この仕事であまり当事者感を持つと神経病んでしまいますからね。

と返された(彼は話の趣旨は重々分かっていてそう言っているのだが)。

あ、そうか。なるほど。それもそうかもしれない。夜不眠症気味だったり胃が痛くて眠れなかったりしたのはそう遠い昔の話ではなかった。私でこれじゃ、メンタル不調になる人がいてもおかしくはないな。

って、そこか??