知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

改正特許法施行前セミナー:冒認?

4月1日の改正特許法施行を前にして、某法律事務所のセミナーに行ってきた。改正法の説明自体は、弁理士会の必須研修でもあり、あちこちで話題になってもいるので、もちろん何度も聞いている。とはいえ、特許庁サイドの説明はどうしても趣旨が中心になるし、施行前の段階で実務的にどのような影響が出て、何に注意すべきと言うところまで踏み込んだものは実は少ない。

今回のセミナーは、その部分に焦点を当てたもの、という触れ込みであったし、今回の改正自体が権利化手続系というより、権利化後の行使段階で遭遇するものが多いこともあり、そちらの経験豊富な知財系弁護士さんたちの方が得意とする分野でもあるだろうとの見込みで聞きに行った。とはいえ、年度末の諸々で、参加できる見込みが直前まで立たず、直前になって無理をお願いして滑り込んだのだけれど(調整いただきありがとうございました>某先生)。

さて、備忘も兼ねて、何回かに分けてメモをしておこうと思う。まず、初回は冒認の話。

特許庁HPの「特許用語集」によると、『冒認出願』は、

他人の発明を盗み、自己もしくは第三者を発明者であるとしてした出願。

となっている。とはいえ、条文上は、49条7号に、拒絶理由の一つとして、

にその特許出願人が発明者でない場合において、その発明について特許を受ける権利を承継していないとき

とされているにとどまる。別に悪意を持って他人の発明を盗むことが要件になっているわけではない。でも、辞書的に言うと、冒認とは、『他人のものをいつわって自分のものだと認める』ことであり、どうもイメージ的には意図的なものの臭いがするわけで。

なので、冒認関係の改正というのは、発明を盗んだ・盗まれた等という非常にレアなケースを取り扱う、いってみればあまり一般には関係なさそうな話に聞こえがちなのだけれど、実はそんなことはなくて、もっともありがちなのは、共同研究・共同開発をしていて、そこから出てきた発明の取り扱いについて、ちゃんと取り決めがなされていない状態で、共同発明者の一方が自分の発明だとして出願したようなケース。これは、いくつかパターンがあって

(1)共同開発契約等がそもそもちゃんと締結されていなくて、発生した発明について取り扱いが定まっておらず、公開が迫っていたために、とりあえず自社のプロセスに載せて一方会社が出願手続をした。

(2)取り扱いは決まっており、共同発明は共同出願、単独発明は単独出願、いずれにしても相互に通知義務。となっていた。ここで、開発の現場がそれについて認識が不足しており、共同発明であったのに、自社の通常の開発から出た単独発明と同じように発明届を出して出願してしまった。

(3)取り扱いは決まっており、それに沿って相互に通知をし、手続を進めようとしたが、共同出願という形を整えて出願しようとすると、社内の稟議プロセスに時間がかかり、発明の公開時期に間に合わない。このため、とりあえずどちらか一方会社の通常の単独出願のプロセスに載せていったん出願した。

さらにこれらのバリエーションもあるけれど、悪意はこれっぽっちもなくてもまあよくある話なのである。(2)のケースなんかは契約違反で過失ありだとは思うけれど、(1)や(3)ではお互いに話は知っていて、承知の上でやっていることも多い。バックデートで出願するわけにはいかないので、出願日だけ確保しておいて、あとはつじつまを合わせる、なんてことがよくされる。

とはいえ、悪意がなくても単独発明だと信じていて実は共同発明だったようなケースで通知も義務になっていなかったりすると、他方の当事者は出願されていること自体出願公開されるまで知らない、あるいは、ウォッチングから漏れていたりすると権利化されるまで知らないということもあり得るので、今回の改正で移転請求ができるようになったのは、総合的に手当がなされたということで喜ばしいのだろう。

実務担当者的に言えば、共同出願は色々と社内手続も社外手続も例外であることから面倒に感じられる。稟議も別プロセスだったりするので上記のような結果が生じたりするわけで。オープン・イノベーションやらなんやらで、共同発明が至極あたりまえになってきて、発明に関連する社内・社外の人々がもっと意識的に慣れてスムーズに進むようになると、割と上記のような『結果として冒認』出願は減ってくるような気がする。それでも期限との戦いが常の先願主義では一定数が残ってしまうんだろうけどね。