知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

若手のギモン(12):どこまでOK?

今回は、商標を最近始めた若手さんのはなし。

登録されている自社の商標を使うとき、どの程度までのデザイン変更なら許されるのか?とデザイン部門から問い合わせを受けたけれど、どう答えればいいのでしょうか?

以下、彼女の質問に対して返したメールをほぼそのまま(具体的なところは伏せてある)。なにしろ帰宅してからメールを受けて、気になったのと、口頭でなくちゃんと文字に残して置いた方が後々振り返ることができて良いだろうと思ったので、夜のうちにメールを書いたらえらい長くなってしまった(汗)。

夜に書いた手紙はそのまま出さない方がいいと言われたりするが(爆)。一応、読み返してこんなものだろうと思うので、転載しておく。

考え方について

本件に正面から回答する前に、考え方をお話ししておきますね。

商標に限らず、法務にしても知財にしても、社内各所から、
「こういうことがしたいんですが、してもいいでしょうか?」
と問い合わせを受けることが多いと思います。

この場合に、
「いいだろうか?わるいだろうか?」とか
「いいとすれば、どこまで許されるんだろうか?」
ということだけを見つめて考えていても、決して答えは出ません。

まずは、これをしたら、何が起こるか?を詰めて考える必要があります。

法律で禁止されている事項に該当することがやりたいことであれば、明確にダメなので、話は簡単ですが、そういうケースはとても少ないです。
例えば、 「XXX」という商標を指定商品○○について他人が商標権を持っているのに、当社が「XXX」を同じ商品につけるとしたら、これはどんな形態であれダメですよね。法律で禁止されているからです。このような場合は、ダメと返事してお終いなので、迷うところもありません。
(但し、それでも『そこをなんとか』と言われることはあります。その場合は、「法律で禁止されている現状を変更する」手立てがないかを検討します。例えば、商標を買い取ったり、相手の商標権を取消したりして、ダメな状態をOKに持ち込むわけです。)

法律で禁止されているわけではないことについて、問い合わせがある場合、問われているのは、リスクの度合いで、すなわち、
『この行為をすることによって、(まわりまわって)当社に不利益になることはありませんか?』
『不利益になる可能性があるとすれば、どんな場合ですか、どの程度の不利益でしょうか?』
ということです。ちなみに、ご存じと思いますが、リスクは起きる可能性の高さと起きた場合の重大さの掛け算で決まります。

問い合わせてくる人は、そのことによって、自社の売上を伸ばしたい、利益を確保したい、コストを下げたい、等、自社にとってよかれと思ってやりたいと思っているわけです。しかし、その結果が巡り巡って不利益を呼ぶようでは意味がありません。

なので、回答するときにも、OK/NGだけではなくて、この行為によって、このような結果が招来されると予想される。それは、当社にとって、このような不利益につながる、と説明してあげれば、理解も得やすいし、似たような事案で自分で回答を導くことができるようになる(実際中々そううまくはいきませんが。度重なればできるようになる、かもしれない)ことも期待できます。自分の回答がぶれないようにする効果もあります。

また、不利益が予想されるとしても、得られるものが大きければ、腹をくくってやるという判断もあり得ます。どうしたいのかは最終的にはポリシーの問題であることも多いです。と考えると、ここまでOKという答えよりも、こうした場合、このような結果が予想されます。それでもやりたければ覚悟の上で臨んで下さい、という答え方の方がよいかもしれません。

何が起こるのかを考えてみる

で、不利益が起こるのか起こらないのかは、起こるかな?起こらないかな?と考えていても答えは出ないので、そもそも何が起こるだろうか?という順で考えてみるわけです。

ぼんやり何が起こるかでもまだ分かりにくい(思い浮かばない)ことが多いので、この行為によって影響を受ける範囲の人(ステークホルダーですね)が、これをどう受け止めるのか、受け止めた結果、どのような行動を取ると予想されるかを考えます。

ステークホルダーとしては、常に以下くらいを考えます。
・消費者(製品を最終的に買って下さるお客様・お客様候補)
・取引先(サプライヤー、代理店、販売店など)、取引先の候補も含めて
・社内の部署や海外拠点
・競合他社
・商標の場合は、特許庁や商標局、裁判所なども考えます

受け止め方としては、
・嬉しいと思う ・困る ・ニュートラル の三様があり、

その結果の行動としては、
・当社製品を買ってくれるようになる
・当社製品を買わないようになる
・なにか交渉や競合の売上を伸ばすネタに使われる
(値引き交渉とか、保証とか、比較広告とか)
・特に変化しない
等が考えられます。

これらを考えるときに、各ステークホルダーの思惑(一番強い動機は何か。事業部なら売上責任があるので、売上を伸ばすことが最大の動機付けになります。ややもすると近視眼的に手段を選ばないこともあります。)から考えると予想がしやすいと思います。

そして、受け止め方やその後の行動を考えるときには、なぜそのように受け止める・行動すると自分が予想するのか理由付けを考える必要があります。

えらい長くなってしまいましたが、考え方を押さえた上で、本件について、ロゴの態様を変化されることで何が起こるのかを考えてみて下さい。