知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(2)

忘れないうちに続きを。

3. こちらの土俵で戦う

これはほとんど記事の通りで、通常トロールからの訴訟提起は特許権者原告に有利な評決・判決を下す傾向のある裁判所に起こされる。その筆頭がテキサス東部地区であることは周知の通り。今手元にBLJの11年12月号がないので確かめられないのだが、このほかにもいくつか代表的な好まれる裁判地がある。逆に、被告側に有利な評決・判決を下す傾向があるところもあって、この筆頭がカリフォルニア北部だったと思う。

この裁判地選びが、前回の記事に書いた訴訟提起前にレターが送られてくるかどうかに関連している。本記事にもあるように、『訴訟提起を示唆しているがまだ実際の提起には至っていない段階において逆にこちらから訴訟を提起することによって有利な裁判地を選』ぶことが可能になるため、これを嫌ってレターをださずに直接訴訟提起というケースが多いような気がしている。

いずれにしても、上記の理由で移送の申し立て(Motion to Transfer)は、非常によく提出される申し立ての一つだけれど、申し立てが認められるとは限らない。どちらの裁判地にも管轄が認められるケースがほとんどなので、裁判所自身が移送を嫌う場合もある。テキサス東部はほとんどこの移送申し立てが認められないことでも有名である。もうほぼ100%ダメといわれていたのだが、しばらく前に全然認めないのはおかしい主旨のCAFC判決(引用できなくて済みません)が出てから多少マシになった、と聞いている。それでもまだ可能性はかなり低いけれど。

4. 共同被告の選別

従前、トロール提起の侵害訴訟は、共通の特許権を侵害しているという理由でもって、複数企業(酷いときには数十社)を被告として訴えが提起されているのが典型的だった。そして、この場合、共同被告間でJoint Defense Groupを結成し、どこかの会社(大抵規模が大きくて訴訟の帰趨の影響が一番大きそうな会社)がリードを取って、記事にも書かれているとおり、クレーム解釈・無効主張などの作業やコストをシェアするということを行う。

これが、先日成立した米国特許法の改正において、「同一の特許を侵害している」ことのみをもって複数の被告を1つの訴訟事件で訴えたり、1つの訴訟事件に併合したりすることができないこととされた(§299)。この条項は、署名されてすぐに発効され、2011年9月16日以降に提起された訴訟に適用されたため、現在はこのような共同被告のオンパレードというのはなくなっている。これを見越してか、9月の上旬は、駆け込みで複数被告を並べた提訴情報が多かったように記憶している。

新規の訴訟では従来のような大規模な、そして、利害関係の対立もしやすい共同被告はなくなったわけだけれど、従前から続いているものはまだまだ存在するので、それはそれで悩ましいところであります。

5. 反訴の活用

この部分の記載は、ほんとに『訴訟弁護士』だな〜、と思う。ここまで徹底的にすると、それはそれなりに何か瑕疵が出てくることもある。実際、丁寧に経過情報をあたるだけでも発明者がらみ、譲渡がらみで特許無効や権利行使不能とできるような資料にあたってしまったりすることもある。IDS違反にも厳しい米国特許法ならでは、というべきか。それにしても、これもやはり力をいれて調査をすればするほど、ディスカバリーに力を入れれば入れるほど、コスト的にはうなぎ登りになっていく。

ところで、一つ気になったのは、『離婚手続に基づく共同所有特許』ってなんでしょう(@_@)??所有権や譲渡を争点とする場合の一例なので、離婚手続がされているのに特許が共同のままなのは瑕疵があるって話だろうか??わからん・・・。特許に離婚が出てくる時点でさっぱり。

6. 特許"局"における手続

(心の叫び)USPTOは米国特許庁でしょ〜!!そりゃOfficeですけど。一般的な行政官庁としてのOfficeの訳語は『局』かもしれませんけど。でもPTOは『特許庁』ですって。日本の特許庁と同じ権限を持つ官庁なんですから。お願いですから特許庁にしましょうよ。

それはともかく。特許庁におけるReexaminationの利用率は上昇傾向で、かなり高まっていると思う。しっかりした無効資料(文献)が見つかっていれば、専門官庁たる特許庁がちゃんと見てくれて、無効にしてくれる可能性がある。一部のクレームが残るにしても、被疑製品が減る可能性もある。なにしろ訴訟で判決をもらうよりずっと安上がりだ。

なので、無効資料調査をかけて、再審査を請求するかどうかは、かなり初期の段階できっちり検討されることが多い。なにしろ記事にもあるように、再審査で提示した無効資料は訴訟で使えなかったり、いったん手続きが開始すると申請人であっても取り下げができかったり、裏目に出たときのリスクは日本の無効審判よりかなり高いので、そうそうホイホイかけるわけにはいかない。が、強力安価であるので、なんとか使いたい、という目で徹底的に見ることが必要になる、というわけだ。

BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(1)
BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(3)