知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(1)

dtkさんに振られたので、本日昼休みにBLJを買いに行った。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 03月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 03月号 [雑誌]

BLJは、2年ほど定期購読していた(自腹で)のだけれど、出願系に戻ってからはチェックしておきたい度が減ってきて、自腹が痛む度合いも増えてしまっているので更新を諦め、あちこちで法務系ブロガーさんが書かれる紹介記事を読んでから買いたいときに買う、というスタンスになっている(といっても買ったのは今回が初めて)。

さて、今回買ったのは、P80から始まる標題の記事のため。著者は、著名な米国の法律事務所の日本事務所代表。確か流暢な日本語を話される方だと記憶している。著者紹介にもあるように、ここの事務所は訴訟事務所で、Litigation Lawyerの視点から書かれている記事になっている。対して、私の個人的な経験は、小規模会社で、訴訟になるのは避けたい・訴訟になったとしたら費用がかさむ前に小額で和解してとっとと離脱したいという状況に限定されている。このため、ものの見方が異なることもある、ということで、多少の読者の参考になれば、という意味と、自分の覚えのためを兼ねて書いておく。

1. トロールの最初の要求に対する戦略的対応

ケースの開始がライセンス・オファーレターで始まることが多いこと、それを無視すると後に訴訟になったときに『特許権侵害の通知を受けたにもかかわらず対応を怠った』とされて不利に働くため、無視はせず、一般的な敬意を示しつつ情報提供を求める回答をすべし、とされている。

これは、一長一短、ケースバイケース、企業by企業だと思う。トロールケースの開始がレターで始まるとは限らないし(レターを出すと、後から触れられているような確認訴訟を相手に起こされる可能性がある。この場合裁判地を相手に選択される自由を与えてしまうため、好まれなかったりする)、返事を出すのが一概に良いとも言えない。たいていの場合、可能性のありそうな会社に大量にレターをばらまいているので、回答してくる会社も回答せずに無視する会社もある。回答してきた、ということは、話に乗ってくる可能性があることも示すので、早期にライセンスをするターゲット・訴訟被告とするターゲットのリストに入れられてしまうリスクもある。

訴訟のTrialに入ったときのリスクをどのていど大きく評価しておくかは、どこまで訴訟につきあうかのポリシーと密接に絡む。実際、Trialに入る可能性が非常に低く、できるだけ訴訟やライセンスの可能性を減らしたいのであれば、積極的にレターに回答するのはかえって危ないのでやらない、という選択肢だってあるわけだ。

もちろん、無視するか回答するかは別として、早期にその要求内容の正当性を分析するのは必要。場合によっては、サプライヤーに通知する義務が生じてくるし。

2.敵のタイプを知る

トロールのビジネスモデルを知るのは、確かにあまり視点として知られていないが、行動の推測をする上でとても重要だと思う。アメリカの訴訟情報はかなり公開されていて、情報の入手は日本に比べて容易である。これを利用すれば、これまでのその会社の訴訟履歴、代理人、どのように戦ったのか等々情報が手に入る。また、自社の代理人が相手の代理人を見知っていたり、別のケースでやり合ったことがあって知っていたり、ということは(特許訴訟業界は狭いので)、けっこうある。その代理人人脈を使ってそれなりの評判を知ることもできるし、傾向を掴むこともできる。

これらは、訴訟の初期に大枠行うことができ、その後の自社の行動プランを立てる上で重要な参考情報になる。但し、あまり頼りすぎても行けないので(論理的に社内に説明できるような種類の情報ではない)、あくまで参考に。

記事にあるように、ディスカバリーに入ってこれまでのライセンス契約の内容が分かってくれば、さらにその確度は上がる(但し、このような契約自体はProtective Orderがかかって、Outside Attorney's Eyes Onlyのことが多いが)。しかし、そもそもディスカバリーに入ると費用と負荷は跳ね上がるので、被告としてはできるだけそんなところでの情報収集はしたくないのが本音・・・。

とりあえず、時間切れのため、今回はここまでで。


BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(2)
BLJ 2012年3月号 『パテントトロール対策を成功に導く実務』(3)