知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

改正特許法施行前セミナー:国際裁判管轄

さて、某法律事務所のセミナー特集、2回目は国際裁判管轄。

特許法の改正ではないけれど、けっこう関連するだろうと言うことで、あちこちで同時に取り上げられている国際裁判管轄規定の新設。ちなみに、特許法の改正が、平成23年法律第63号で、この国際裁判管轄が新設された民訴法の改正は、平成23年法律36号で、なんだか数字の並びが面白い。

さて、セミナーでは、この国際裁判管轄がどのように特許侵害訴訟等で関係してくるか、ということについて、以下のように説明され、大変分かりやすいと思った。すなわち、日本企業として考えれば、たとえば日本で販売されている侵害品がある場合に、その製造・販売を行っているのが外国企業を頂点とする国際企業グループで、その製造・販売のルートによって、どこまで親会社たる外国企業を巻き込むことができるのかということ。また、外資系企業の立場から考えれば、どこまで日本でのビジネスに親会社がコミットしている場合に、日本での訴訟に巻き込まれるのか、という話、という整理である。

立場を逆にして考えれば、当社は日本の会社で、米国に販売子会社がある。製品の製造は、国内の子会社が担当しており、実際の製造行為は中国等で行っている。米国での特許侵害訴訟では、米国の販売子会社が被告とされるケースがもちろん最も多いが、持ち株会社である日本の親会社、兄弟会社である日本の事業会社も並べて被告にされることもそれほど珍しくはない。印象として、米国はリーチが長い(わりと国際裁判管轄を裁判所が積極的に認める傾向がある)、日本は謙抑的(あまり認められない)という感を持っていた。

そこへ、平成22年9月15日の知財高裁判決(平成22年(ネ)第10001号)が出て、けっこう思い切って認めてきたな、という印象だった。この判決については、あちこちで評釈も出ているので読まれた方も多いのではないかと思う。

で、セミナーでの説明を聞いた限りでは、この流れを受けて?積極的に日本でも国際裁判管轄を認めるための根拠規定ができた、ということであると理解した。但し、その上で、個別の事案に応じて、『特別な事情』を考慮するということであるから、一概に積極に転じるわけではないだろうし、裁判の積み重ねによって、傾向が出てくるのはこれからだろうけれども。

セミナーでの説例としては、販売ルートとして以下のように挙げられていた。

(a)外国会社→その日本支店→日本の顧客
(b)外国会社→その日本子会社→日本の顧客
(c)外国会社→日本の顧客(ネット販売などで直販)
(d)外国会社→日本の商社→日本の顧客

まず、民訴法の大原則=被告地主義(3条の2)によれば、法人の場合は主たる事務所・営業所が日本国内にある必要があるので、上記の説例のどれでもダメ。

第三条の二  裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

となると、順に、新設された3条の3を見る必要がある。

第三条の三  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。

■外国法人の支店(3条の3?)

四  事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。

説例(a)では、日本支店が日本の顧客に販売しているので、この号で管轄ありとできる。但し、説例ではちゃんと支店が顧客に販売しているのでOKだが、たまたたま日本支店が存在しているが当該販売に全く関与していないような場合はダメ。

■義務履行地(3条の3?)

一  契約上の債務の履行の請求を目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え 契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき。

国内裁判管轄の場合は、財産権上の訴え一般が義務履行地のため、不法行為に基づく損害賠償請求権であっても、債権者の住所地に持ってくることができる(5条?)が、国際裁判管轄では、『契約上の』という限定が入ってしまったため、義務履行地に関するこの条項は特許侵害訴訟では全く使えない。

■不法行為地(3条の3?)

八  不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。

不法行為たる特許発明の実施行為が国内で行われる必要がある。すなわち、製造又は販売が日本国内で、被告にしたい外国会社によって行われている必要がある。ということは、説例(a)なら、日本『支店』なので、同一法人だから○だが、(b)では別法人である日本子会社、(d)では別法人である商社が販売主体なので×。(c)の直販の場合、被疑品自体のネット販売が直接その外国法人によって行われているのであれば、○だと思われる。不明なケースもあるだろうし、このあたりはケースバイケースか。

なお、不正競争防止法上、営業秘密にかかる不正競争行為には、営業秘密を用いて製造したものの製造・譲渡等は含まれないので、本号で外国会社を被告にすることは難しい。

■財産所在地(3条の3?)

三  財産権上の訴え 請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき(その財産の価額が著しく低いときを除く。)。

『差し押さえ可能な被告の財産』となると、かなり広く、たとえば被告が本件とは全く関係のない日本特許を有していればOKとなってしまう。侵害品を発見し、本国の親会社を訴えたいと思った場合、その親会社名義の日本特許を検索して発見すれば、めでたく被告に並べることができる、という結論になる。簡単だがいくらなんでも広すぎでは?という感覚もする。

この点、セミナーでの説明によると、本号の期限はドイツ法らしく、それ自体も過剰な管轄だという評価があるということらしい。条文に導入する際も議論があったが、あまりひどい場合は3条の9(特別な事情)で処理すればよいと言うことで落ち着いたとのこと。となると、特許権が存在すると言うだけでは遠すぎるので一般的に認められない、という話もありそうではある。。

■事業行為地(3条の3?)

五  日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

上記説例全てについて認められる可能性がある。継続的取引の実態によるだろうが。この号が設置された背景としては、従来は外国における事業というのは、その国になんらかの拠点を置かないと行うことが無理だった。だから、3条の3?のような原則規定になっている。しかし、時代が流れIT技術の進歩により拠点がなくても継続的に事業ができるようになってきた。このような状況の変化に対応するものという位置づけ。



いままであまり気にしてこなかった国際裁判管轄だが、一度こうしてまとめて聞いてみる・自分でおさらいしてみると頭に入りやすい。ためになりました。