知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中国特許制度研修:当業者

さて、標記の4日間シリーズ研修の2日目は、概論を終了してひたすら手続。これで6時間びっちりなのは、講師の方がさんざん心配されていたように確かに眠い(苦笑)。でも、実務に即した非常に得るところの多い講義だった。色々と書いておきたいポイントはあるが、10回シリーズくらいにしないと書ききれないような(そしてまた次がやってくる)。

ということで?、今回は軽めに。彼我の違いがプラクティスにもたらす違いの観点で。

特許の審査では、洋の東西を問わず『当業者』(a person skilled in the art)概念が頻繁に登場する。例えば、日本の審査基準では、以下のように当業者は定義されている。

特許・実用新案審査基準 第?部 特許要件 第2章 新規性・進歩性 2.2 第29条第2項(2) 

「その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者」(以下、「当業者」という。)とは、本願発明の属する技術分野の出願時の技術常識を有し、研究、開発のための通常の技術的手段を用いることができ、材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき、かつ、本願発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者、を想定したものである。
なお、当業者は、発明が解決しようとする課題に関連した技術分野の技術を自らの知識とすることができる。また、個人よりも、複数の技術分野からの「専門家からなるチーム」として考えた方が適切な場合もある。

一方、中国の審査指南では、前回の記事に書いたように、

当該技術分野の技術者とは、出願日又は優先日以前に、発明が属する技術分野における全ての一般的な技術的知識を知っており、その分野における全ての現有技術を知りうるとともに、その日以前の通常の実験の手段を運用する能力を有するが、創造能力は有しない者。

このため、法律上は同様の記載ぶりであっても、実施可能要件を満たしているかどうかの判断は中国での審査の方が厳しくなる。一方で、進歩性判断においては(認められるかどうかは別論として)、当業者には創作能力がないのだから『想到しない』という反論を組むことができる、との話だった。

なお、中国の実施可能要件(公開不十分)についての審査指南(第2部分第2章)において、当業者が実施できるとは、明細書の記載内容に基づいて、発明の技術法案を実施でき、技術課題を解決でき、予期する技術効果が得られること、とされている。この書きぶりからは、さほど日本と異なるようには見えないが、その主体たる『当業者』の異議がずいぶん違うのであっては、おのずと要求されるレベルが異なってくる、ということなのだろう。