知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

職務発明制度フォーラムメモ その5

産業横断 職務発明制度フォーラム、第2部パネルディスカッション 討論のメモと所感。

ディスカッションを聞きつつ取ったメモなので、あまりきれいにストーリーが立った形にならないけれど、残しておくことに意義があると思うので、書いておく。適宜趣旨を汲み取っていただければ幸いである。

論点1 イノベーションのために

 現在の特許出願のうち、どのくらいが職務発明かという統計はないけれども、日本の出願のうち個人出願が3%であることから、おそらく90%〜95%くらいは職務発明であろう。

 職務発明から事業化がなされないとイノベーションはおこらない。では、イノベーションを起こすためには?研究開発の収益化に知的財産制度をうまく使ってリターン=パイを大きくすることが必要。開発投資を促進する環境が不可欠であり、その意思決定には、開発に入る前に見通しが立つことが必要である。

 発明者には個性があるので、なるべくフレキシブルに決めていき、情報の拡散や共有が容易にできる形にすること、取引コストを下げることがイノベーションを高めることにつながるだろう。

 企業の中で開発を促進する施策は、自由度が高いものであることが重要である。とすれば、特許法35条の要求とは切り離して考えるほうがよいのではないか。企業としては、どうせ払わなければならないのであればそれをうまく利用したいと考えるのもわかるが、35条をインセンティブと捉えるのは無理があるのかもしれない。インセンティブと捉えてしまうと、35条をめぐる裁判は、裁判所が企業の努力が足らないとして介入してくるという格好になり、本来自由に定めるべきインセンティブ施策に裁判所が介入というおかしな話になる。

 収益が出てから事後的に発明者に対価を支払っても、すでに発明者の旬は過ぎており、インセンティブとしては機能しない。

 金銭の支払いが絡むがために不公平感を誘発している。職務発明制度がすばらしいからこの会社に入ろう、などという発明者はいないわけで、35条に沿えば沿うほどおかしな方向にいくのではないか。

 不公平感を生じさせないためには、納得感が重要である。そのためには、1)最初からルールを決めておくことと、2)変化に対応してどれだけうまく調整できるか の2つが重要になる。特に2)については、たいした発明じゃなかったのに大場消したときの認識のギャップが争いを誘発している。事後にならないと分からない側面が大きいので、問題を複雑にしている。

論点2 国際競争力確保のために

 海外の企業からみると、日本のような職務発明制度を抱えていては、研究者にとって行き場がなくなってしまうのでは?という見られ方をしているのではないか。

 海外企業との間でM&Aを行う際には、職務発明『債務』をどちらが負担するかでかならず揉める。

 国内の研究所と海外の子会社研究拠点で同じような研究をしている場合、日本でだけ職務発明規定に基づいて支払いを受けたら不公平感が出る。

 製薬の外資は近年5社が日本から研究所を撤退している。その中で、ファイザーは職務発明訴訟も経験している。これは、職務発明リスクを重く見た結果ではないか。

 イノベーションには、研究+開発のステージがあり、どこに重要な部分があるのかは分野によって異なるので、各分野、各企業によって、管理コストも含めた合理的なインセンティブ設計ができることが重要。これを実現するための職務発明規程が労使間で協議して作られるべき、というのが35条4項の趣旨ではないか。とすると、必ずしも実績報奨が意味を成さない分野もあるはずで、そのような企業では実績報奨なしでもよいと思われる。急法化の判決にあまり引きずられないほうがいいだろう(長岡教授)。

 欧米で日本企業が権利行使を考える場合、その結果得られるライセンス収入額の見込みが相当の対価の額に影響する。とすれば、その発明者に支払う対価の額を織り込んで考えないと権利行使ができない、というおかしな話になっている。

 良かれと思って発明を促進しようと思ってやっていること(職務発明規程)が、訴訟において不利に働くのでは意味がないので、インセンティブ施策と35条の対応は分けて考えたほうがよい(飯田弁護士)。

論点3 訴訟リスク

 職務発明訴訟になった対象特許は、特許出願からの経過年数が平均19.4年となっている。改正法施行は2005年であり、まだ裁判例が出てくるには時間がかかるだろう。

 一般的に言えば、判決の集積が実務を方向付けしていくわけだけれども、この分野に限って言えば、判決の方向に実務は行かないと思われる。それでは事業が成立しないからである。ということは、裁判所が方向を変えない限りギャップは埋まらず、発明者が訴訟を提起すると決意すれば訴訟は起こせるわけで、その結果、高額判決はありうると思われ、訴訟リスクは相変わらず残っていると考えられる(飯田弁護士)。

(まとめ)あるべき姿

 改正法においても、あいかわらず予測可能性は低いと思う。事後的な情報に基づいて裁判で判断されてしまうと難しい。事前の当事者間の取り決めを最大限尊重すべきだろう(柳川教授)。

 理想の形はフランス型ではないかと思っている。発明者のTOP10%は、企業との間でも交渉力があるので、給与に織り込み済みであり、不満があればよそに移っていく。その他の発明者は、そこまでのバーゲニングパワーがないので、団体で交渉ができる形がよいだろう(竹中教授)。

 特定の発明にフォーカスするのではなく、改正法の適用を裁判所ではちゃんとやってほしい。その算定額が、企業の考える額=現実的な額に落ちてくれば、収束すると思っている(長岡教授)。

(その他)フロアからの質問

 特許が移転する場合はどのようにされているのか?(産業界パネリストに対して)
 ・譲渡報奨で対応しており、譲渡後の実績は知りようがないので非対応。
 ・特許の譲渡は事業とともに行われ、特許を裸で評価することはないので特に対応していない。

(ほかにもいくつかあったがメモ取り忘れ)


ということで、大変刺激になり、考えさせられるところが多かったフォーラムであった。そしてこれを実務にどう反映させていくかは今後の課題であるけれど、消化するだけでもう少し時間がかかりそうである。