産業横断 職務発明制度フォーラム、第2部パネルディスカッション内のパネリストミニプレゼンについてメモと所感。
パネルディスカッションは、石川 浩 氏(JIPA常務理事)をコーディネーターとして、上記概要ページに掲載されている、「パネルディスカッションレジメ」にあるように、基調講演者以外のパネリストからのミニプレゼンテーションの後、討論が行われた。
産業界のパネリストとして、事務機器業界のセイコーエプソン、電機業界の日立製作所、製薬協のアステラス製薬の三氏がミニプレゼンされ、興味深く拝聴した。
1. セイコーエプソン 上柳雅誉 氏のミニプレゼン
多くの企業地財部門では、特許法35条改正を契機として職務発明規程を改訂されている。エプソンでも同様なのだが、おもしろいのは、改正にあたり、2つのコースを用意され、従業員がどちらかを選択できるようにされたというところ。旧制度から実績報奨があり、海外生産販売の多い企業であることからもともと海外の実績も実績評価に参入されていたとのことだが、それを一部改訂して実績報奨の報奨金上限をアップしたAコース、ライセンスの収入に連動するライセンス実績報奨を導入したBコースである。そして、社員の95%以上がAコースを選択されたとのこと。発明者たる社員は特に巨額なライセンス収入連動型の実績報奨を望んでいるわけではない、ということが示された形で、興味深かった。
なお、エプソンの職務発明規程は昭和40年からあり、規定・規則・細則の膨大なものらしい。規程の趣旨としては、発明者へのインセンティブと特許法35条の要求を満たすことの両方を目的としているとされていた。おそらく多くの企業と共通していると思われる。どなたの発言か忘れてしまったが、どうせ35条のために整備しなければいけない=支払いを行わなければならないのであれば、うまくインセンティブとして利用したい、というのが企業側の思いだと思う。
また、資料に詳しいが、1台のインクジェットプリンターには特許が集積されていることが数値で示されており、生きている特許権だけで2681件、まだ登録になっていない出願中のもの、すでに満了したもの、クロスライセンスで使える他社発明等を加えると5000件弱が実施されている。あまりに数が多いので、有効中のもの1件についてたとえば1%支払ったら利益の26倍になってしまう、とのこと。
そして数が多いので、管理工数として1件1件にそれほどの時間がかけられないけれども、細かく見ていくと、同じファミリーの特許でも日本と海外ではクレームの広狭があったり、海外で成立していても日本で無効とされたり、ということは無効理由を含む特許なのではないかという懸念があったりして、なかなか客観性と網羅性を担保することが難しいとのこと。
2. 日立製作所 鈴木 崇 氏のミニプレゼン
総合電機メーカーというのはいまや少なくなってしまったのですが、との前置きをされつつ、その総合ならではのインフラの例と民生品の例とを上げて説明があった。
インフラ系では、鉄道会社から基本仕様が示されたものを設計と製造の段階で満たしていくが、製造ではなにしろ設備投資が膨大であり、設計ではこれまでの技術の蓄積・総合力が重要で、また、発明が生まれやすい部門と生まれにくい部門がある。そして両方があって初めて製品ができあがる、という特徴があり、あくまで発明者の貢献は事業の一部である、とのこと。
民生品では、消費者のニーズを掘り出して企画する商品企画とそれをいくらで実現するかの価格戦略が決めてであり、技術はその要求に対してこたえていく手段に過ぎない。まず企画ありきという視点であるから、発明者の貢献は事業の一部、との見方であった。確かに、コンシューマプロダクトは、そのような側面が大きい。ニーズ先行型であり、シーズからこんなことができるのでは?とニーズを掘り出すことはできるけれど、あまりシーズにより過ぎるとうまくいかない。となると、開発はいかにその企画に沿ったものを作り上げるかが主眼になり、特に従来の組み合わせであってもかまわないわけで。
おもしろかったのは、ライセンスにかかわる社内の活動が紹介されたことで、発明が特許になっただけで自動的にライセンス収入が得られるわけではなく、他社製品を分析して、クレームチャートを作って、相手方と特許議論をやって、条件交渉をして、と果てしない?道のりの末にようやく収入に結びつく。これを発明者だけに還元するしくみはいかがなものか、というわけである。
3. アステラス製薬 森田 拓 氏のミニプレゼン
森田氏の発表は、アステラス製薬の、ではなく、製薬協の知的財産委員会としての発表とのことだった。医薬品では、プリンタとは逆に、基本的に1製品1特許であるため、その1件の特許が製品の利益に直結しており、発明者に対する対価が高くなりすぎるのが問題、とのことである。
というのも、資料にあるように、創薬、開発、育薬と研究開発プロセスが進む中、成功する化合物は何万分の1であり、失敗リスクは会社もちであることに加え、特許を出願する段階以降のプロセスにも多数の研究者が関与するにもかかわらず、彼らは発明者にはならないため、不公平感がつよくなり、発明者以外のインセンティブの問題を抱えるということらしい。
産業の分野ごとに特徴的な課題を抱えているということが鮮明になったプレゼンであった。