知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

「あずきバー」商標

井村屋の「あずきバー」(しかし、アマゾンで買えるのね・・)。

井村屋 あずきバーボックス6本入×8個入

井村屋 あずきバーボックス6本入×8個入

一般消費者にもなじみ深い商品だったため、審決取消訴訟の判決がマスコミにも取り上げられて、判決日は知財系・法務系クラスタではかなり話題だった。例によってぼんやり眺めていたのだけれど、勉強会の題材に取り上げられて詳細に解説を聞いたので、さすがに理解できた(汗)。忘れないように書き付けておく。

平成25(2013)年1月24日判決 平成24年(行ケ)第10285号 審決取消請求事件

判決についての報道を見たときに、くだんの商標の出願が2010年と書かれていて、ええ?そんな遅いの?と疑問に思ったのだが、これは標準文字の商標出願で、もう少し昔から商標登録はあった。(1)商標登録第4896332号、(2)商標登録第4896333号 の2つで、登録は2005年。あずきバーの販売開始が昭和47(1972)年というから、ずいぶん遅いとは言える。

そして、特許電子図書館の商標タブの称呼検索で「アズキバー」で検索してみて頂きたいのだが(固定リンクが貼れないので)、要は、この2つの商標、上記のあずきバーのパッケージを正面から写真に撮ってそれを商標見本としてそのまま出願したようなのである。そうすると、このパッケージ前面の全体が商標になってしまいますわね、それは。識別力の問題は生じないでしょうけれども・・・。

ということで、2010年には、ロゴ書体の商標と、本件訴訟の対象となった標準文字商標が出願されたようである。ロゴ書体の商標は、審判を経て、第5503451号として2012年6月に登録になっている。

特許庁としては、ロゴ書体の方の登録は認めたのだから、標準文字は諦めて、それで良しとして欲しかったのだろう(憶測w)が、なにしろ年間2億5800万本も売れて誰もが知ってる「あずきバー」、フリーライダーもそりゃ後を絶たないでしょうし、それが「その商品の品質、原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)となれば、使いたい放題、たとえロゴ商標の登録をもって「商標権の侵害」と言われたところで、商標権の効力は及ばないと言い返せばOKで(商標法26条1項2号)。

ということで、井村屋さんとしては、どうしても標準文字での商標登録が欲しかったのだと思われ(これも憶測w)。

とはいえ、「標準文字商標」は、商標法5条3項に、

商標登録を受けようとする商標について、特許庁長官の指定する文字(以下「標準文字」という。)のみによつて商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない。

と規定されているだけで、いったいなにものなんだか突き詰めるとよく分からくて得体が知れない。一応、特許庁が公表している説明。通常の商標登録とその範囲の広狭に差はないとかされているけど、実務上、標準文字で登録を受けた方が、ロゴなどの特定書体などの商標見本をもって受けた登録より広いと解されていると思う。標準文字ってことは、テキスト情報のみで商標が特定されていて、その形態を問わない(特定の書体ではない)ということだから、当然そういう効果があるだろう、と思われる。

一方で、商標法3条1項各号に該当する商標、すなわち識別力がない商標について、使用によって識別力を獲得したときには登録が認められる(3条2項)わけだけれど、なにしろ「使用による」識別力の獲得という特別なものであるがゆえに、かなりその基準は厳しい。登録を受ける商標と、識別力の源泉となった使用状態との高い同一性が要求される(商標審査基準)。通常、商標の使用においては、特定の書体とか図柄とかを継続して使い続ける(ことによって定着する)わけで、商標の特定の外観を観念できない標準文字商標とはそもそも相容れないのではないか(標準文字に使用による特別顕著性はあり得ない)、ということが言われていたように思う。

というのが標準文字と3条2項をめぐる私のぼんやりした理解だったのだが、標準文字商標に対して3条2項による登録を認めた審決例も存在するようである。
・商標登録第5167280号「アミノコラーゲン」 不服2008-2585
・商標登録第5149690号「チョコボール」 不服2005-12900

一方、認められなかった例もある。
・商標「SpeedCooking スピードクッキング」
 知財高裁平成19年4月10日判決 平成18年(行ケ)第10450号

標準文字商標について使用による特別顕著性が認められるかどうかは、結局のところ著名性の高さに左右されるようで、著名性が高ければ認める方向に傾くし、さほどでもなければ認めるまでもない、という判断になるようである。

そして、その場合の出願商標(標準文字)と、「同一である」と判断される使用商標は、上記のようなパッケージに入れられたロゴ商標=商品自体に付された商標の形態ではなくて、取引書類等に使用されている態様となる。特に、オンラインショッピングで表示される場合、パッケージの写真も表示されるが、「あずきバー」の文字が示され、そこにリンクが貼られる等の態様が一般的で、これらを証拠として提出したものが「現に広く使用されている」と認められている。それもこれも著名だから認められたとも言えるし、著名だからオンライン検索で山ほど出てくるとも言えるのだろうけど。

ということで、著名性を獲得していれば、標準文字による3条2項登録も夢ではない、というお話でした。