今年度の外部団体活動でのお題が『税』に絡むものになっているのだけれど、これまでなんとも断片的にしか関わっていないので、全体像がさっぱり把握できていない。ということで、そもそもの基本に立ち返るための書籍を探して探して買いまくって読みまくった、というのが数ヶ月間の活動だったりする(私的に、ということだけどね。もちろん。活動自体は進行しているので)。
色々試行錯誤しているので、せっかくだから読んだものを上げておく。書評ができるほど読み手に力がないのでリストアップだけになるのが残念なところなんだけどまあ現状仕方がない。これまでのかかわり方と言えば、海外への使用料の支払の際に直面する租税条約に関する届出とか、海外の子会社とのやりとりで発生する移転価格税制の話をかじっただけとかに過ぎないので。
租税法の基本書
存在するのが当たり前で、なんだか『持って行かれるもの』としてあまり印象の良くない『税』だけれど、そもそも税って何?いつからあるの?というところに正面から答えてくれるものがあまりなくて苦労した。検索がうまくなかったのだろうけれど、当初は『租税法』の本にばかりヒットしてしまったので、そのあたりの説明は一応あるものの、あまり詳細ではないし、どうしても現行法や今の租税条約の枠組みを前提とするものになっているし。
とはいえ、以下の2冊は初心者にはとても分かりやすくてお勧め。特に国際租税法では、国内法と租税条約の関係がさっぱり理解できていなかったところ、すっきりしたし、いつも面倒で仕方がなかった特典条項の位置づけとかもよくわかった(面倒には変わりないけどさ)。
- 作者: 増井良啓
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2014/03/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 増井良啓,宮崎裕子
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2011/09/14
- メディア: 単行本
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租税論
で、色々見ていくうちに、どうやら、経済学(経済政策)の方に『租税論』というのが存在するらしく、『租税論』とかで検索すると、わりとそもそも論にヒットしやすいということが数ヶ月かかってわかったのだった(汗)。
そのなかで、最も全体像がつかみやすくてかつ読みやすかったのが、こちらの本。
私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)
- 作者: 諸富徹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: 単行本
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この第一章で紹介されている広辞苑によれば、租税とは、
ということである。すなわち、租税は国家の経済活動を支える財源を提供する。また、租税の規模やそのありようが異なれば、国家のあり方も異なる。国家または地方公共団体が、その必要な経費を支弁するために、法律に基づき国民・住民から強制的に徴収する収入
ということで、租税が大きな問題となってきた戦費の拡大の時代(フランス革命、アメリカ独立戦争、30年戦争などなど)まで遡って説き起こしている。なにしろ副題が『租税の経済思想史』だし。主には欧米での流れが書かれていて、日本についてあまり触れられていないので、多少物足りないなぁ、と思っていたら、あとがきにまとめられていた(ちょっと驚いた)。
比較的新しいので、ほぼ現在の状況を前提にして書かれているため、読んでいて安心感もある。(状況が異なるとその間の流れを自分で補足する必要があるので)
今回『税』などに手を出す?首を突っ込む?ことになっている切っ掛けは、例のパテントボックス税制なんだけれど、この手の税制が何故出てきて、どんな効果が期待されていて、それを他の国はどう見ていて、ということを考えようと思うと、税の全体像やら歴史の理解は不可欠ではないか、と思った次第。そして、もちろん租税が国家の支出を賄うものである以上、課税権は一国の中にしか及ばないのだけれど、ここで経済はどんどんグローバル化しているため、そこにせめぎ合いが生じているというのが近年の傾向なのだな、とものすごくざっくり理解した。
経済のグローバル化と税
というあたりを補うために、同じ著者が編著者となっているこちらの本も読んでみた。少し前のものだし、こちらは上記の書籍とことなりしっかり学術書なのでかなり読み飛ばしたのだけれど(汗)。
グローバル時代の税制改革―公平性と財源確保の相克 (MINERVA現代経済学叢書 106)
- 作者: 諸富徹
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2010/01
- メディア: 単行本
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この本の12章が『経済活動のグローバルの進展と法人税-EUレベルでの法人税調和にむけた試み-』となっていて、主題はEUの話なのだが、その前提としてのグローバル化と税の関係についてのまとめが大変参考になったので、少し長めにまとめつつ引用しておきたい。
国境を越える貿易や金融資本取引などの資本移動を制約してきた規制が、1970年代以降、継続的に撤廃もしくは緩和されてきた。また、輸送や情報技術の発達に代表される技術革新も、めざましい速さで進展している。これらに基づく労働や資本、財サービスの異動の自由度の上昇は、それらの国境を越えた移動量の増大や経済活動を活発にし、企業活動の多国籍化や世界経済の統合を促している。このような現象は、一般に経済活動のグローバル化と呼ばれている。
この経済活動のグローバルとその進展を、法人税の観点から見よう。法人税は、企業の経済活動の成果である法人利潤を課税対象とする資本所得税の一つである。そして、経済活動のグローバル化は、企業の国境を越えた経済活動の活発化をもたらすと同時に、外国現地法人や支店を通じた法人税課税ベースの国境を越えた移動を可能にするという側面も持つ。一方、法人税の課税権は一国を課税管轄権として行使される。そのため、通常その権力の及ぶ範囲は国境を超えることができない。その結果、企業の経済活動の実態と法人課税権の行使の実態に乖離が生じている。さらに、各国は異なる歴史的、社会的、政治経済的背景や構造を持ち、国民の選好も異なる。それらを反映し、法人税の基本的な考え方は共通していても、各国の政治過程を経て洗濯される租税構造や法人税率、法人税課税ベース算出方法、税務会計制度は異なる。
その結果、法人税がクロスボーダーで経済活動を行う企業等に影響を与える。負の影響(法人税障壁→課税後の法人利潤の減少→経済成長や雇用創出への負の影響)としては、1)特定の所得に対する国際的多重課税←国際的な課税権の衝突、2)ある国で発生した損失とそれ以外の国で発生した利益との国際的な相殺ができないための追加的租税負担、3)各国の(異なる)租税法に準拠して納税を行うためのコンプライアンスコスト負担の増大、などがある。
さらに、各国で異なる法人税は、経済的要因よりも租税要因(租税負担最小化)に基づく企業行動を誘発する→法人税が企業の意思決定に非中立的→非効率な資源配分を招く
節税行動と租税政策
うすぼんやりと理解したところでは、租税というのは、もともとは国の支出を支えるために徴収されるのだけれど、それが強制的に行われるが故に、徴収される側としてはより少なくなるようにしたいというインセンティブが働く(節税、Tax Planning)。
ということから、租税は中立的であるべき、というポリシーはあれど、どうしても人々(特に企業)の行動に影響を与えてしまう。であればいっそ?租税を利用して一定の行動を引き出すような制度を作ってしまえばよいのではないか、というのが租税政策(かなり乱暴に言えば)。
とはいえ、(企業誘致のためなどの目的で)これをやりすぎると、他国から資本が集まってきたりして他の国から批判される、という構図になるのかな、と。
かのパテントボックス税制(イノベーションボックス税制)も、EUで倫理的に拙いのではないかという問題提起がなされているという話で議論中らしく、これって企業を元気にする?ための施策の一つとしてどうなんだろう??と思うところなのだった。
※ところで、本エントリに適切なカテゴリがなくて、しかたなく「知財全般」に入れてしまいました。全然関係ないけど。。