知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

知的財産関係訴訟

標記の書籍、参考書として知財部に1冊、という類の本だと思う。が、諸般の事情により、公私共に予算がなくて購入できず(なんだかトホホ)。読みたい項目があったので、図書館で予約をかけて借りてみた。

知的財産関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)

知的財産関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)

<目次>
第1部 知的財産関係訴訟の手続の一般的な概要
 I 知的財産権侵害訴訟の特色
 II 訴え提起
 III 特許権侵害訴訟の実際について(モデルケースについての説明)
 IV 知的財産権侵害訴訟の審理の特色について
 V 審理の充実と営業秘密保護のための方策
 VI 和解について
 VII 仮処分について
 VI 審決取消訴訟の審理の特色
第2部 特許、実用新案権
 第1章 侵害訴訟
 第2章 職務発明の相当の対価請求訴訟
 第3章 特許権ないし特許を受ける権利の帰属に関する紛争
 第4章 審決取消訴訟
第3部 商標権侵害訴訟
 1 真正商品の並行輸入
 2 インターネット上での商標権侵害
第4部 意匠権侵害訴訟
 最近の改正について

第1部には、現在の実務(東京地裁が主)と枠組みが説明されており、第2部以降は各論(実務上の諸問題についての論文)。実務家としては、第1部を頭に入れておいて、第2部以降は必要性が生じたときにレファ本の1つとして思い出せばよい感じ。

知財専門弁護士でいつも知財関係訴訟をやっている方はともかく、企業知財人としては、そうそう頻繁に直面するわけではないので(あんまり頻繁に直面したくはない)、実務の状況が整理されている本書は大変ありがたい。いくつか、覚書として挙げておく。

(東京地裁のモデルケース)
第1回口頭弁論(訴え提起から30〜40日後)
 (原告)訴状(物件目録でイ号特定)の陳述、書証の提出
 (被告)答弁書の陳述(認否と概括的な争点の主張)
※訴え提起後、原告には、事前交渉の有無、和解の意思、裁判進行についての希望を問い合わせる。第1回口頭弁論では、被告に、無効審判定期の意思、今後の期日の調整などが行われる。
第2回口頭弁論(または第1回弁論準備。以下同様)
 (被告)被告第1準備書面でイ号特定(被告側からの物件目録)、属否の主張
第3回口頭弁論
 (原告)被告主張への反論
 (被告)無効主張
第4回口頭弁論
 (原告)無効主張への反論
 (被告)さらに反論があれば補充
第5回以降:補充の主張
事案が複雑で、書類が膨大になる場合(提出された準備書面を読了するのに数日かかるような場合)、当事者による口頭説明(プレゼンテーション)がなされることがある。パワーポイントなどを使い、1〜1.5時間程度の持ち時間でわかりやすく説明される。

■属否の議論には、クレーム解釈が争点となるものと、対象製品・方法自体が争点となるものがある。
■各口頭弁論期日間は1〜1.5ヶ月程度。一通り侵害論が終わるまでに1年かからないことも多い。一方、無効審判の平均審理期間も7ヶ月程度になっている。早い段階で無効審判の定期を促す裁判所もある。
■無効審判・審決取消訴訟中の訂正請求・訂正審判の特許侵害訴訟での位置づけとしては、無効の抗弁に対する再抗弁となる。
■東京地裁知財部の和解率 47.7%。
■特許侵害訴訟の約8割で無効が主張され、半数以上が無効とされている。特許権者側の勝訴率は2割前後。但し、和解率が高く、原告有利の心証開示を含めて考えると、4割前後と思われる。
■和解勧告は、裁判所が争点に関する心証を相当程度得た時点で、それを示しながら和解方針・メリットなどを説明して行われることが多い。⇒侵害論の終了段階・弁論終結前後
(和解のメリット)
・原告有利な心証の場合
(原告)早期解決
     任意履行の可能性が高い
     差止以外の解決が可能
     不係争特約(無効審判しない)が可能
(被告)敗訴による営業上の不利益回避
     判決よりも有利な条件が可能
・被告有利な心証の場合
(原告)敗訴による営業上の不利益回避
     無効審判取下げによる権利存続
(被告)権利不行使特約
     早期解決による訴訟費用軽減
・その他
  関連紛争の総合的解決が可能