知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

Multi-Disctrict Litigation

昨日の米国代理人話の続き。

従前のエントリーでちらと書いたように、America Invents Act(AIA)成立後、「同一の特許を侵害している」ことのみをもって複数の被告を1つの訴訟事件で訴えたり、1つの訴訟事件に併合したりすることができないこととされた(§299)。この条項は、署名されてすぐに発効され、2011年9月16日以降に提起された訴訟に適用されたため、現在は従前のような共同被告のオンパレードというのはなくなっている。

で、この効果として、訴訟の数は増え、被告の数(訴訟数×各訴訟内の被告数)は減少している。これまでひとまとめにして被告を数十社並べてきたNPEが、それぞれ一社(ないし関連会社・サプライチェーンの数社)を相手に提訴しなくてはいけなくなったため、多少厳選の方向に向かい、有象無象というか微々たる規模の売上げでもついでに被告に並べられていたような会社は落とされる傾向にあるということだ。

一方で、被告ごとに訴訟地を選ばねばならず、これまでのように原告有利と評判のテキサス東部地区などばかりというわけにもいかなくなり、同日(や近日)に提起される複数の訴訟であって同一の特許権が対象になるものでも、複数の管轄地裁が存在するようになっている。これはもちろん被告にとって有利な管轄に持って行きやすくなる効果もある一方で、無効資料調査のコストシェアリング、クレーム解釈の共同提案によるコストシェアリングなどができないという不利もある。そこで、現在では、個別に訴訟が提起されており、さらに、管轄が複数にまたがっていたとしても、Trialに至るまでの間は、共通したスケジュールを適用し、Discovery等を行う取り扱いが一般化しつつあるらしい。もちろん原告/被告双方の合意の元、であるが。

まあ実務上妥当な取り扱いなのだろうと思う。この法改正のおかげで被告になることが少なくなるのが最大の利点であって、それでもなおかつ被告になってしまった場合で、他に組めそうな相手がいるのなら、共同戦線を張ってコストを下げるに越したことはない。