知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

企業内で有資格者が働くということ

ここのところ、愛読している2つの法務系ブログのブロガー、「企業法務戦士の雑感」のFJneo1994さんと「dtk's blog」のdtkさんが司法修習後の最初の就職先として企業の法務部を選択することについて意見を交換?されていて興味深く拝読している。(背景には司法試験合格者の大幅増員ととその吸収先という大きなものがあるわけで、それはFJneo1994さんの記事の方に詳しい。)読みながら、弁理士として企業内で働くことについてつらつら考えていたので、書き留めておく。

お二方の一連のエントリは以下の通り。

「企業」に一体何を求めるつもりなのか?
最初は?
鉄は熱いうちに、ともいう。
お返事、のようなもの。
それぞれの立場、それぞれの意見。
追伸

合格者の大幅増加ということでいえば、弁理士もなかなか凄いものがあって、15年前の自分の合格当時、同期は100名ほどだったのが、今や600人を超えている。おかげで8000人ほどの弁理士登録者のうち約3000人は登録5年未満というありさまである。とはいえ、合格者の全員が登録しているわけではなくて、登録費用を払ってくれる勤務先のめどがつかなくて登録しない人の割合も増えているらしい。

そうはいっても、司法試験と違って法曹資格の登録までに国家が行う修習が義務付けられているわけではないから(最近は登録前の実務修習が義務付けられたとはいえ)、修習のために現在の職を退職したりする必要はなく、受験浪人が当たり前だった旧司法試験やロースクール卒業後に受験する新司法試験の受験者の方々のように、勤務しながら受験して合格に至るケースが割合高いので、合格後(修習後)に就職先を探す人の割合はそこまで高くない(と思う)。それでも、昔は受験者の大半が特許事務所勤務や企業知財部勤務だったのが、エンジニアや研究者、学生にも裾野は広がっているようなのだが。

弁理士の場合、増員分の吸収は、やはり特許事務所だけでは収まらないらしく、昔は弁理士登録者の大半が特許事務所経営か勤務で、会社をやめて独立するために資格を取る方も多く、弁理士会の活動もそれを前提にしているところがあるのだが、今や企業勤務の弁理士登録者は20%近い。おまけに企業の中には弁理士の数が非常に多くなり、登録費用や月々の会費の負担がバカにならないため、会社が費用を負担してくれないところも出てきているので、これによって登録を断念している人数も考えると企業勤務弁理士はかなりの数に登るのだろう。残念ながら、大手会社の知財部にとって弁理士有資格者を抱えている意味は特にないので、数が増えてくればコスト計算でそういう勘定になるのもありそうな話である。

で、企業内弁護士の場合、その処遇がけっこう問題になるようだが、昔から有資格者が企業内でそこそこ働いている弁理士業界の場合、資格を持っているからといって特段優遇されることはまずない。だいたい、知財部でずっと働いていて、会社の給与体系にのっかってきているのに、ある日合格したからといってそれを変更する必要を認めない、というのが普通の会社の立場だと思う。プロパーならそうなるし、有資格者を取る場合にも、多少の色はつくかもしれないが、そこが問題になるほど差が出ることはないと思う。弁理士の側も資格が待遇に反映されるとは思っていないことが多い。登録費用さえ払ってくれない企業があるというのに、いわんや、である。

企業知財部の仕事と特許事務所の仕事の関係は、一言で言えば、特許事務所は大半が明細書作成・権利化の実作業請負で、企業知財部はその発注者である。但し、知財部の仕事は発注にとどまらず、発明の発掘活動から他社特許の調査、権利の活用、ライセンス等の渉外と多岐にわたる。仕事の幅広さで言えば断然コチラのほうが広い。そのかわり、社内調整は必須だし、ひとつの技術や発明にこだわって権利化するところに喜びを見出すという職人的仕事のやり方を貫くというわけにも行かないので、このあたりは向き不向きだし好き嫌いなのだろうと思う。

社内ローテーションで考えると、もともと知財部と開発部門はあまりローテーションが盛んではない。会社にもよるだろうが、技術系の職場としては知財部は法律の知識も必要で、かなり特殊な部署になるため、新人を採用してそのまま定年まで知財でというパターンが昔からおおかったと思う。エンジニアの知財リテラシーを上げるために、ローテーションとして数年配属ということがあったり、一線を退いたエンジニアが知財に来たりということはママあるが、知財から開発へのローテーションはあまり聞かない。トライして失敗したという話もよく聞くし(知財出身だと開発では潰しが利かない,らしい)。

という環境なので、さすがに弁理士資格を持って企業に入ってきて、知財以外の部署に配属される、というのはあまり可能性としてはなさそうである。他部署の経験、特に開発経験は貴重だが、それなら開発自体に配属しなくても、リエゾンで十分な気もするし。かくいう私も、知財以外にローテーションでこの先出るというのは考えたことがない。
※おもしろそうなら考えないでもないんだが、さすがに会社としての投資効率から考えると悪すぎるからやらないだろうな。そういう冒険をするには少し年を取りすぎている。