知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

契約書の正本はPDFでもOK?

最近締結したライセンス契約のいくつかで、PDF copyやFAXが正本とみなされる旨の条項があった。例えばこんなの。

This Agreement may be executed in two counterparts and may be transmitted by email including a pdf copy or facsimile, each of which shall be deemed an original and which together shall constitute one instrument.

で、相手方当事者は正本を郵送して両者サインではなくて、pdfコピーにサインしてそれを再度pdfにしてメール転送してオッケーとしたがるのだが、こちらはどうもそこがすっきりしなくて一応原本にサインする形をお願いしている。そうすると、どうしても往復郵送するだけの時間がかかるので、早く締結して支払いを受けたい向きには受けが悪くて、pdfサインをいったん先行させて、後から原本サインという二度手間をかけざるを得なかったりする。日本の会社的には、これだと役員クラスの署名者に二回もサインをもらいに行かないといけなくなるわけで、アポイント取るのも一苦労。あんまり好ましくない。

で、法務の皆様に質問。日本の会社的には、契約書は原本にサインされたものを保有しておくのが必須なんでしょうか? pdfサインでも構わないでしょうか? どちらの場合でも、根拠とともにご教示頂けると大変ありがたいんですが・・・。

旧ブログの方に頂いたコメントを、以下、引用します。

122:こんにちは by mkuji on 2010/01/18 at 23:18:43 (コメント編集)
米国出願のときも、発明者がサインした宣誓書は、それをスキャンしたPDFファイルを米国の代理人にメールするだけで、紙は送りませんね。
実務は詳しくないですが、理論的には、契約は口頭だけで成立しますので、当人たちが証拠として十分だと考えれば、何でもアリかなと思います。

123:とりあえずは by dtk on 2010/01/18 at 23:42:53
毎度どうもです。すでに先にコメントされている方が居られるので、手遅れかもしれませんが。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5930.htm
あたりの記載はいかがでしょうか?
7年間というのはここから導けるとしても、7年の起算点がどこになるのかは、解釈の余地がありそうな気がしますが…。
それと、最後の2年はマイクロフィルムとかでもOKそうなので、そうなると起算点から5年が最低限ってことになりそうな気がします。pdfでいけない理由は謎ですが。
もっとも、義務化されているのはここまでとしても、プラクティカルには永久がベターなんでしょう。きっと。

125:Re: こんにちは by senri4000 on 2010/01/20 at 18:05:00
こんにちは。

Declarationは、そうですね。原本を要求されたりしませんよね。
しかしそれでも、原本は存在するんですよね。

根本的な疑問として、相手方がサインしたものをスキャンしてPDFで送られたものにこちらがサインしている状態、そして、それをさらにスキャンして相手方には送るわけですが、この一連の流れの中で、いったい原本というか正本というのかはどれ?というのが非常に疑問なのです。お互いが実サインしたものというのが存在しないので。全部写し?

126:Re: とりあえずは by senri4000 on 2010/01/20 at 18:08:37
まいどありがとうございます。
トラックバックもいただきまして恐縮です。

もうひとつのコメント返信にも書きましたが、そもそもの疑問はこのようなサインの方法を取っていて、それは果たして有効に契約として成立するのだろうか?というのがありました。でも結局は証拠資料の問題ということなんですよね?両者が現実に署名しているモノが存在しないとなると、それは全て写しという扱いになってしまうので証拠能力が落ちるということなのかしら。

130:時期遅れですが・・・ by mkuji on 2010/01/26 at 22:15:20 (コメント編集)
>お互いが実サインしたものというのが存在しないので。全部写し?

この場合、それぞれが自分で手書きのサインをした「原本」は、それぞれが持っているのではないでしょうか(つまり、当事者それぞれが自分がサインした原本をもってて、トータルで原本は2つある)。ただ、それぞれがサインした原本は自分がもってるだけで相手方には行ってない(PDFファイルのみが行っている)ということでは。

こういう問題は、弁護士ならすぐ分かるかなと思いますが、僕もよく分かりません。

上記よりももっと分からないのは、例えば、電子メールを証拠として法廷に提出する場合は原本というのはないのでは?とか、ウィキペディアの或る項目を証拠として出す場合の原本は?とか。こういう場合は、原本と写しを区別する必要もそもそもないのではとも思います。

131:コメントさせていただきます by 臥竜窟 on 2010/01/27 at 20:22:26 (コメント編集)
ネットサーフィンしていたら、偶然この記事を拝見いたしました。私の会社でもこういったケースは発生いたしますので、以下、法務担当者としての立場からコメントさせていただきます。

まず、そのライセンス契約の準拠法がどこか?によると思います。当該準拠法において、Electronicな契約締結をすることが強行法規上違反にならなければ問題ないでしょう。その場合には、記事中の「PDFで締結を行う」という条文にもとづき、当事者の合意が有効になるからです。(米国では問題ないかと思いますが、インドでは書面に自筆のサインがなされていないと原本として認められないケースが過去にありました。)

しかし、これはあくまでも「この契約はPDFで締結しましたよ」ということが有効というだけの話です。仮に、その大前提となる事実に関しての紛争、たとえば「このPDFは偽物だから契約は無効だ」といった紛争が生じた場合(相当稀なケースだと思いますが)には、証拠力の問題となります。

PDFの場合、原本と同等の証拠力は有さないことは明白です。PDFが改ざんされていないことを立証するのは、原本に比較して容易ではないからです。

万が一にでもそういった紛争が生じた際のデメリットと、契約締結のスピードや簡便さのメリットとの比較考量をしたうえで、PDFを容認するか決める必要があるかと思います。この記事によれば、ライセンス契約ということですので、そのような重要な契約は原本による契約をお勧めいたします。ちなみに私の会社では、PDFによる契約締結は認めておりません。 もちろん、これは現時点の話であり
、将来はそのような契約形態がデフォルトになるかとは思います。

132:ありがとうございます by senri4000 on 2010/01/27 at 21:00:14
臥竜窟さま

ご訪問ありがとうございます。
また、丁寧なコメントを頂き、大変参考になりました。
結論として、争いになった場合の証拠力の観点から、現在はまだ署名のある原本による契約締結を基本としていくように運用した方がよいということになりそうですね。
すっきりしました。